活動報告 – 複合リスクガバナンスと公共政策研究ユニット・東京大学政策ビジョン研究センター https://pari.ifi.u-tokyo.ac.jp/unit/crg UTokyo Policy Alternatives Research Institute | Complex Risk Governance Research Unit Tue, 24 Oct 2017 02:22:53 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=5.1.4 複合リスクのガバナンスに向けて(3) https://pari.ifi.u-tokyo.ac.jp/unit/crg/2015/03/02/post-310/ https://pari.ifi.u-tokyo.ac.jp/unit/crg/2015/03/02/post-310/#respond Mon, 02 Mar 2015 03:00:39 +0000 http://localhost:8888/pari_crg_sqlite/?p=310

ナショナルリスクを評価する

ナショナルリスクを俯瞰し、重要なリスク群を同定したら、それらのリスクを利用可能なデータや情報に基づいて、多面的にプロファイリングすることが次のステップである。現在、米国や英国を始めOECD加盟国を中心に15ヶ国で、オールハザードを対象としたナショナルリスクアセスメントが政府機関で実施されている。

例えば、米国では、大統領政策指令-8の下、戦略的国家リスクアセスメント(SNRA)が国土安全保障省長官の主導で実施されている。これは、テロリズム、サイバー攻撃、パンデミック、破滅的な自然災害を含む国家のセキュリティに重大なリスクを及ぼす脅威へ対処するための中核的能力および能力目標の開発に根拠を与える高リスクファクターを同定する、レジリエンス(防止・保護・緩和・対応・回復)における要求事項にわたる戦略的なニーズについての恊働的思考の醸成を支援する、政府の全てのレベルが国家にとっての脅威・ハザードそしてその結果であるリスクについて共通の理解と認識をもつため能力を促進するために用いられている。

各国の取組みでオールハザード・アプローチが採用されているのは、災害の種類や規模に関わらず、国民の生命・健康、財産そして環境への損害を最小限に抑えることを優先し、それを政府機関全体が一つの組織として効果的、効率的に行動するという考え方を基盤としているためである。日本の政府機関での具体的な取組みは未だないが、国土強靭化計画もシングルハザードでしかなく、またリスクアセスメントはなされていない。このようなことから、当研究ユニットは、アセスメントのガイドライン作成を当面の課題とし、地方公共団体との連携しリージョナルリスクアセスメントを試行したいと考えている。

社会的に重要な機能のレジリエンスを高める

リスクへの対応にあたっては、それが予防可能なリスクか、戦略的なリスクか、それとも外的なリスクかを見極め、対処方策を検討しなければならない。なかでも、自らのコントロールが及ばない、直接的な被害をもたらす自然災害や大規模なマクロ経済変動、長期的な影響を及ぼす地政学的な変化や環境変化など、の外因的リスクには、先の二つのリスクとは異なるアプローチが必要となる。これらの事象は一般に、発生する確率は極めて低いが、ひとたび起きるとその影響は極めて大きい、そしていつ起きるかが予測できないという特徴をもつ。これらのリスクへの対応では、レジリエンスを高めることが重要な戦略となる。“大規模災害等の非常事態に直面した際、限られたリソース(ヒト、モノ、情報、時間、空間)をもとに、政府・地方自治体・民間企業・NPO・市民社会が、その協働メカニズムによる事前準備・応急措置を進め、社会システムを支える重要インフラシステムの「被害の最小化」と「早期の機能回復」の実現を図ること”をレジリエント・ガバナンスと定義し、当研究ユニットとCOCN(産業競争力懇談会)は共同で検討を進め、抵抗力・回復力ある「社会システム」のデザイン、政府・地域・企業の危機管理体制の強化、インセンティブ政策などについて提言し、内閣官房及び関係省庁との意見交換を行った。

加えて、現在、当研究ユニットは工学系研究科付属レジリエンス工学研究センター及びシステム創成学専攻と恊働し、市民生活・社会活動に不可欠な重要インフラに自然災害、人為的脅威、事故といった脅威が加わったときの複雑な挙動について、如如なる部分が脆弱なのか、如何なるリスクが生じる可能性があるかを様々なシナリオの下でシミュレーション分析し、相互依存性の考慮や多角的視点からの包括的レジリエンス評価の必要性に関する科学的根拠を明らかにする。こうして得られた根拠情報に基いて、わが国の市民生活・社会活動に係る危機管理政策やリスク・ガバナンス戦略への選択肢を創出し、この社会的課題の解決に寄与することを目標として研究プロジェクトを進めている。

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複合リスクのガバナンスに向けて(2) https://pari.ifi.u-tokyo.ac.jp/unit/crg/2015/03/02/post-307/ https://pari.ifi.u-tokyo.ac.jp/unit/crg/2015/03/02/post-307/#respond Mon, 02 Mar 2015 02:00:45 +0000 http://localhost:8888/pari_crg_sqlite/?p=307

日本のリスクを俯瞰する

今後10年程度(2025年まで)を展望したとき、日本のナショナルリスクとして考慮すべきリスクを洗い出し、これらのリスクの発生可能性と影響度、リスク間の相互関連性などについて、有識者の認識を可視化するため、平成26年3月の予備的調査を踏まえ、同年8月にWebアンケート調査(有効回答者数169名)を実施した。

ナショナルリスク・ランドスケープ調査は、世界経済フォーラムのグローバルリスク報告書2013年度版で調査された50のリスク項目を基本的な出発点としながら、日本の状況を踏まえたリスク項目を追加、経済、環境、地政学、社会、テクノロジーの5分野、計69のリスク項目を取り上げた。

結果の例として、上位20のリスク一覧およびリスクの相互連関マップ(調査対象とした67項目全体版)を示す。また、リスク分野ごとに最も重要だと考える中枢リスクは、経済分野が「慢性的財政危機」、環境分野が「大地震の発生」、地政学分野が「グローバルガバナンスの機能不全」、社会分野が「少子高齢化問題への取組みの失敗」、そしてテクノロジー分野が「重要なシステムの障害」と「技術開発力の低下」であった。今回の調査で明らかになったことの一つは、ナショナルリスクとしては日本の実情に応じた固有のリスク項目が影響可能性と影響度ともに高い評点となるが、中枢リスクの評価では世界経済フォーラムで取り上げられたリスク項目が多く、リスクの源泉を辿っていくとグローバルリスクもナショナルリスクも共通なものに収斂していく傾向がみてとれ、この両面を見据えながら、日本のリスクを俯瞰していくことが重要である。

表 リスク一覧(上位20項目)

crg_ranking

リスクの相互連関マップ

crg_relation

日本のナショナルリスク・ランドスケープ調査報告を踏まえた、公開シンポジウム「これからの日本のリスクを俯瞰する」(平成26年10月29日、伊藤謝恩ホール)の参加型ラウンドテーブル討論では、各分野の専門家により、各分野のリスクのとらえ方と抱えている課題、分野横断的に俯瞰した場合のリスクのとらえ方、アンケートの手法、俯瞰の先の対応、具体的にはレジリエンスや優先順位付け、トリアージュ、その場合の意思決定システムのあり方などについての広範な論点が提起された。広範多岐にわたるリスク項目が議題であるにもかかわらず、レジリエンスの重要性など、議論がかみ合っていたことこそが、リスク問題の本質は人の営みに関わるということを表している。

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複合リスクのガバナンスに向けて(1) https://pari.ifi.u-tokyo.ac.jp/unit/crg/2015/03/02/post-71/ https://pari.ifi.u-tokyo.ac.jp/unit/crg/2015/03/02/post-71/#respond Mon, 02 Mar 2015 01:00:18 +0000 http://localhost:8888/pari_crg_sqlite/?p=71

我々の社会経済活動は、様々な技術システムに支えられながら、広域そしてグローバル且つ重層的に繋がり合っている。そして、我々は、地震、洪水、台風、津波、火山噴火、異常気象や人・獣感染症の広域流行といった自然起因のハザード、重要インフラ施設での重大事故や施設事故による放射性物質・有害化学物質・生物学的物質の放出・汚染といった技術起因のハザード、サイバー攻撃や重要施設・機能集積エリアへの物理的破壊攻撃といった人的行為起因のハザードなどに常に晒されている。そのため、ひとたびある分野で重大なリスクが顕在化すると、それは時間的、空間的な拡がりをもちリスクの連鎖を引き起こし、ひいては直接的、間接的に国家の成長や国民生活への深刻な障害となる可能性がある。

相互連結・依存性の高い複雑化社会におけるリスク問題は、

  1. 様々なリスクが複合的に展開するとともに、特定のリスクへの対応が、結果として別のリスクを増大させることもあり、個々の状況に応じたトレードオフに関する迅速な判断とそれを実施していく体制が必要
  2. システミックな性質をもつリスクが増えており、そのインパクトは大きく、多様な利害関係者を視野に入れなければない
  3. 緩やかに進行し、複雑な挙動から臨界点に至り顕在化するリスクは、その兆候の検出が難しい

といった特徴をもつ。

このようなリスク問題への対応は、公共政策における意思決定とマネジメントの問題である。様々な専門分野や主体と連携しつつ、如何に俯瞰的に問題を構造化し把握するか、それを基礎として透明性のある意思決定、資源配分ができるかといった社会的意思決定に関する議論を喚起するか、そして、そのような意思決定の実施メカニズムをどのように構築するのか。これが、「複合リスク・ガバナンスと公共政策」研究ユニットの問題認識であり、政策科学系を基軸とする俯瞰的政策研究を、理工系を含むアカデミズム及び実務と協働しつつ、また当研究センター内で進められている他の研究プログラムとも連携し進めている。

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