プレスリリース
グローバルヘルス・ガバナンスの再構築-G7への提言
(‟Rebuilding Global Health Governance - Recommendations for the G7”)
2016/5/13
エボラ出血熱についてのUNMEERのハイレベル会合 UNMEER, on Flickr
1.発表者
城山 英明 Hideaki Shiroyama |
(東京大学政策ビジョン研究センター・公共政策大学院・大学院法学政治学研究科 教授) (The University of Tokyo) |
勝間 靖 Yasushi Katsuma |
(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科 教授) Waseda University |
松尾 真紀子 Makiko Matsuo |
(東京大学政策ビジョン研究センター 特任助教) The University of Tokyo |
2.発表のポイント
◆2014年に西アフリカ諸国で生じたエボラ出血熱への対応の遅れをはじめとする公衆衛生・保健の課題は、伊勢志摩サミットでG7がコミットを表明し政治的重要性を付与するべき重要課題である。
◆5月に開かれる伊勢志摩サミットでG7各国に対し、東京大学政策ビジョン研究センター複合リスク研究ユニットは、グローバルヘルス・ガバナンスの再構築に関する4点についての包括的政策提言を行う。
◆グローバルヘルス・ガバナンスの再構築には、グローバルなサーベイランスの仕組みの構築、多段階での段階的意思決定を可能にする枠組みの構築、状況別調整枠組みの構築、緊急時と平時の保健システム強化に関する資金調達枠組みの構築に関する包括的取り組みが必要である。
3.発表概要
5月26・27日に開かれる伊勢志摩サミットに向け、G7各国に対し、東京大学政策ビジョン研究センター複合リスク研究ユニット(代表・城山英明東京大学教授)は、グローバルヘルス・ガバナンスの再構築に関する4点についての包括的政策提言を行う。
この提言は、2014年のエボラ出血熱への対応プロセスを分析した結果に基づくものである。西アフリカ諸国で生じたエボラ出血熱は、それへの対応が遅れたために、人道的・経済的・政治的危機を引き起こした。公衆衛生・保健の問題は、2015年に採択された「持続可能な開発目標(SDG)」の目標の一つになっている。感染症の蔓延、テロによる生物化学兵器等の使用、難民問題による国際的な人の移動など関連する課題も多い。
このため本研究ユニットは、エボラ出血熱への対応プロセスを分析に基づき、グローバルなサーベイランスの仕組みの構築、多段階での段階的意思決定を可能にする枠組みの構築、状況別調整枠組みの構築、緊急時と平時の保健システム強化に関する資金調達枠組みの構築に関する包括的な政策提言をG7に対して行う。
4.発表内容
本研究ユニットは、5月26・27日に開かれる伊勢志摩サミットに向け、G7各国に対し、エボラ出血熱への対応プロセスを分析に基づき、以下の4点に関する包括的な政策提言を行う。
1.グローバルなサーベイランスの仕組みの構築
現状では、公衆衛生・保健の実態把握のための情報基盤の整備が不十分であり、国際保健規則(IHR、注1)で求められているコアキャパシティ(危機管理対応上必要な能力)の確保や通告義務が徹底されていない。G7は、国連の関与する水平的な枠組みのもとで、世界保健機関(WHO)とともに加盟国でIHRの実施が確保されるように働きかけるべきである。
具体的には、①独立専門委員会によるIHRの実施の監督、②脆弱国に対するG7の二国間支援の強化、③WHOの組織変革、④通告に伴って過剰に貿易や渡航が制限されること等を回避するメカニズムの検討が必要である。
2.多段階での段階的意思決定を可能とする枠組みの構築
現在、国際対応の動員の契機となる「国際的な公衆衛生上の脅威(PHEIC、注2)」宣言は、その権限がWHO事務局長にある。さらに0か1かという段階しかないために、対応の遅れにつながる場合がある。G7は、PHIECに至る前から多段階で対応する仕組みを検討するよう働きかけるべきである。またPHEICの最終判断をWHO事務局長が担うにしても、その前提となる健康リスク評価は、独立した常設的組織によってシームレスに行うべきである。
3.状況別調整枠組みの構築
エボラ出血熱の教訓のひとつは、特にヘルスシステムの脆弱な国家では複合的リスクに発展することである。このため、WHOだけでなく、関係する国際機関(国連開発計画(UNDP)等の国連の開発枠組みや、機関間常設委員会(IASC、注3)、国連人道問題調整事務所(OCHA、注4)等の人道枠組み等)やNGOとの調整が不可欠であることが明らかになった。しかし、エボラ出血熱の際に急きょ設置されたUN Mission for Ebola Emergency Response (UNMEER)のような組織は例外にとどめるべきである。
G7は多様なアクター間で連携する形を、感染症の深刻度と発生国の対応能力に関する状況に応じて調整する枠組みを構築することが必要である。また状況の変化に応じて調整の枠組みを転換するための機能と責任者を定めるよう働きかけるべきである。
4.緊急時と平時の保健システム強化に関する資金調達枠組みの構築
現在は、脆弱国の公衆衛生・保健危機の際に即時支払可能な資金援助メカニズムが十分にない。G7は、WHOに新たに設置された緊急対応基金(CFE)や世界銀行で議論されているパンデミック緊急対応ファシリティ(PEF)を支持し、これらの枠組みが人道危機に関する緊急支援枠組みである中央緊急対応基金(CERF)とも連携されるよう働きかけるべきである。
さらに、平時のヘルスシステムがどれだけ強固に存在するかが緊急時の対応を左右することを鑑み、バイあるいはマルチの開発援助枠組みに保健システム強化を位置付けることが必要である。また個別疾病のファンド(世界エイズ・結核・マラリア対策基金(GFATM)、Gavi, the Vaccine Alliance等)とも連携を模索すべきである。さらに、緊急対応時における医薬品開発のR&Dとも連動が必要である。その上で、全体としての整合性を図れるようIHP+(注5)等を活用した保健開発協力のネットワーク構築を図るべきである。
以上の点に関する提言の包括的な実行により、グローバルヘルス・ガバナンス全体としての機能の向上、ひいては人間の安全保障、SDGの実現、国家安全保障の確保に寄与することが期待される。G7がグローバルヘルス・ガバナンスの包括的改革にコミットすることで、改革に政治的重要性を付与し国際社会を動かすことを期待する。
5.発表雑誌
本政策提言についての詳しい情報は、政策ビジョン研究センターウェブサイトに政策提言(Policy Brief)として5月13日(金)に掲載されました。
政策提言 グローバルヘルス・ガバナンスの再構築-G7への提言(要約、日本語)
Policy Brief "Rebuilding Global Health Governance - Recommendations for the G7" (全文PDF、英文)
6.用語解説:
(注1)国際保健規則(IHR, International Health Regulations):国際的な感染拡大の防止・管理・対応と、不必要な交通・貿易への妨げを回避することを目的として、原因にかかわらずあらゆる国際的な公衆衛生上の脅威に関する情報のWHOへの通告義務を設けている。また、加盟国におけるサーベイランスや危機管理対応上必要な能力(コアキャパシティ)についても定めている。
(注2)国際的な公衆衛生上の脅威(PHEIC, Public Health Emergency of International Concern):国際的な感染拡大により他国に公衆衛生上の健康リスクをもたらし、潜在的に国際的な調整による対応が必要される深刻な事態。
(注3)機関間常設委員会(IASC, The Inter-Agency Standing Committee):1991年に採択された国連総会決議(46/182)に基づき設置された、国連の主要機関および国連以外の人道パートナーが参加する人道支援に関する調整枠組み。
(注4)国連人道問題調整事務所(OCHA, Office for the Coordination of Humanitarian Affairs):人道に関する緊急時の一貫した対応の確保を担う国連事務局機関であり、IASCの事務局を担い、国連人道基金(Central Emergency Response Fund:CERF)を管理している。
(注5)IHP+(The International Health Partnership):途上国における保健の改善を目的とした援助協調の為の枠組み。2007年に、保健に関するMDGs(Millennium Development Goals)達成の動きを加速させることを目的として設立。現在は健康・保健に関するSDGの達成を目的としている。今日66の途上国、ドナー、国際援助機関等がパートナーとして参加している。
追記