KAWAII だけでいいのか
09/04/28
今月初め麻生総理が記者会見で、中国で売れている日本のファッション誌をかざしながら、「えびちゃん知っているか」と威張っていたが、日本のファッションが、アジアで大人気だ。中国では、ファッション誌の売れ行きランキングの上位4誌がすべて日本の雑誌で占められているそうだ。一番売れている「Ray」は日本の発行部数の4倍も売れていて、100万部を突破している。
50歳以上の男性にとっては、10代も30代も若い女性であり、なかなか区別もつかないが、ファッション誌ごとにそれぞれの読者層がいて、驚くほどきめ細かい違いがあるのだそうだ。ブランドものを好む娘もいれば古着を好んで着る娘もいる。フォーマル系もあればカジュアル系もあるし、ミセス系もあればお姉系、お嬢様風だってあるという具合だ。「KAWAII」は外国語になっている。
元々日本のファッションはフランスやイタリアの高級ブランドを目標にしてきた。第二のディオール、サンローランを目指して、何人かの日本人デザイナーが世界の桧舞台で活躍しているが、アジアで受けているのは、そうではないファッション、例えば渋谷の109あたりで売られているような、もっとマイナーでサブカルチャーっぽいファッションだ。
その背景は何か。新興国ニッポンは、近代化を果たそうとした明治から昭和の時代には西洋から直接学んだが、アジアの国々が近代化する際には、西洋をいったん消化した日本から学ぶ方が手っ取り早いし合理的だと考えているのかも知れない。彼らにとっては、いきなり元祖ヨーロッパのファッションだとちょっと取っ付きにくいが、容姿や生活スタイルが似通っている日本のファッションなら受け入れやすいということもあるだろう。つまり等身大のファッションだ。スカートの下にレギンズをはくのは、日本の女の子の発明だそうだが、欧米のファッションを自分なりに着こなすという自由な感覚も受けているようだ。
ところがこれは雑誌の世界の話で、ファッション誌が飛ぶように売れても、肝心の日本製の洋服はそんなに輸出されていない。日中のアパレルの貿易をみると、輸入が2兆円を超えているのに輸出はわずか50億円台で何百倍もの差がある。中国で服を作らせている日本のメーカーがその一部を中国国内で売っている事例もあるにあるが、大した数は出ていないようだ。とにかく輸出がいかにも少な過ぎる。つまり、カタログだけ売れて肝心の製品が売れていないということになる。渋谷や原宿を歩いていると、見た目には日本人だが中国語を話す若者を大勢見かけるし、上野のデパートの化粧品売り場を訪れる90%以上が中国人だという。中国の若い女性たちは、雑誌に載っているような服を着たいのに、日本の服がなかなか手に入らないので、日本に買出しに来るか、それとも日本のファッションに似せた中国製や韓国製の服で我慢しなければならない。これではいかにも勿体無い。
しかし現状では、肝心の日本のアパレルメーカーや小売店が、それを現地でビジネスに結びつけるモデルを作れないでいる。世界の企業がどんどんグローバル化している中で、日本の企業だけが、国内のシェア争いだけに専念して、外にうって出ようとしない。要は内弁慶なのだ。KAWAIIだけでいいのだろうか。
しかも、アジアの女性たちは、ファッションが違うだけではなく、好んで聴く音楽も違うし、持っているケイタイも違う。連れ歩くボーイフレンドのタイプも違えば、乗りたいクルマだって違うはずだ。だとしたら、ファッション誌の売れ行きが示してくれているのは、ひとりアパレル産業のみならず、あらゆる消費財を手掛ける様々な業種に及ぶ巨大なマーケットマップに他ならない。これを利用しない手はないはずなのに、活用された事例を聞かない。
日本企業はもう少し外に眼を向けるべきだし、国内で工夫されているきめ細かな販売のノウハウを外でも活かす知恵が必要だろう。確かに中小企業が大半を占めるアパレル産業などが海外進出にしり込みする気持ちも判らないではない。しかし例えば日本のアパレル業者のうち何社が英語や中国語のホームページ(HP)を持っているだろうか。HPを上手に使えば、現地に支店を作らなくてもかなりの程度販路を作れるはずだ。どうやって英語や中国語に翻訳するか、海外から問い合わせが来たらどう対応するのかは、簡単ではないだろうから政府の支援も必要かもしれない。今回の追加的な景気対策で中小企業のHPの海外発信に3億円の予算がついたそうだが、まだまだ足りないだろうし、継続的な支援策が求められる。