旬の時期をどう活かすか?‐ブラジル
2011/03/15
成長期真っただ中、マイナス要因は?
3月3日、国家地理統計院から2010年のGDP成長率が7.5%と発表され、順調に経済成長を続けているブラジル。農業大国であり、鉱物・エネルギー等の各種資源にも恵まれたこの国は、2014年のワールドカップ、2016年のオリンピックの開催国を勝ち取ったことでインフラ整備を加速させる絶好の機会も得、成長期真っただ中である。
とは言っても、様々な分野の経済活動全てが順調に成長しているわけではない。特に製造業は、国際競争力があるとは言い難い。ブラジルの全国工業連合の調査によれば、中国企業と競合しているブラジル企業のうち約7割が、海外での市場を中国に奪われている。主な競合分野は、通信機器部品、医療機器、精密機器、繊維等。レアル高を背景に中国との価格競争で負けている点は否めないが、製品の質の向上、デザイン、生産コストの削減など、ブラジルで工夫すべき課題は多々ある。
また、人口構造の推移を見ると、1960年にはピラミッド型だった人口構造が、現在はしずく型になっている。2010年の国勢調査によれば、最も多い人口層が20才から29才で、国民の約20%がこの層に属している。ブラジルのGDPが世界第4位になることが予想されている2050年には寸胴型になることが予想されており、0才から80才まで、5才刻みで見た人口分布はほぼ同じ人数で積み上がる形となる。今後40年の間に労働人口が減少し、社会保障費や医療費の負担が増大することが想定されるわけで、ここ20〜30年くらいが成長の旬と言えよう。そして、次世代の安定成長につなげるためには、成長期の間に、年金システム、労働法制、税制といった経済社会システムの構造改革を進めておくことが必要だ。
政治が解決策を打ち出せるか?
人口構造の変化に伴い必要に迫られることが見えている社会システム改革。こういった将来の課題に対し、政治は解決策を打ち出せる見込みはあるか?現政権が長期的課題に対する具体的解決策の打ち出しを即求められることはないが、先を見越して布石を打つような政策の方向性を示せるだろうか?現在の政治状況を概観しておこう。
今年1月1日に就任したブラジル初の女性大統領ジルマ・ルセーフ大統領は労働党(PT)所属で、複数政党との連立政権を運営している。下院議員の所属政党数は22政党、上院議員の所属政党数は15政党に上る。これだけ数があると、基本的な政策に殆ど差がない政党も多いと見受けられるが、イメージとしては、日本の政党で言うところの派閥なりグループなりが政党化しているといったところか。与党を形成する主要政党は、PT及びPTと拮抗した力を持つブラジル民主労働党(PMDB)他3政党程度。とは言え、上院、下院とも、与党を形成する他の小政党に所属する議員が占める議席数が与党全体の議席数の2割を超えていることから、これらの小政党にも十分な配慮が必要になる。閣僚ポストを始めとする政府の要職ポストの割り振りや政策形成合意に非常に労力がかかる。このような状況ではあるが、上院、下院とも、与党が6割超の議席を占めており、重要政策の方針を決定し得る体制にあると言えるだろう。一方、野党で力を持つのが、ブラジル社会民主党(PSDB)と民主党(DEM)だ。特にPSDBは、大統領選でジルマ・ルセーフ大統領の対抗馬として立候補し、サンパウロ州知事も務めたジョゼ・セーラ氏を擁し、大統領選と同時に行われた州知事選では8州で当選者を出している。今般の選挙で最も多くの州知事を出した政党であり、今後も注目すべき、力量ある政党だ。
このように複雑な連立政権の状況ではあるが、ルセーフ政権発足後、一部造反議員は出たものの最低賃金改定法は政府原案で可決、引き上げ幅を必要最小限に抑え、大きな課題に対して政府がそのスタンスを貫けた形となった。また、ルーラ前大統領時代に膨れ上がった歳出を削減すべく、各省予算の見直しや採用抑制も行っており、成長期にあっても引き締めるところは引き締めるとの姿勢が伺える。ルセーフ大統領が就任してまだ2カ月と少しだが、その堅実な政権運営ぶりから、ブラジルの政治が、国の課題克服のために、全体としては良識を持って、あるべき方向に力を発揮していけるのではないかと少々期待している。
ところで、「Deus e brasileiro」という表現がある。「神はブラジル人」ということだが、大仰なことを言っているのではない。何かうまくいっていないことがあっても、神はブラジル人だから最終的にはハッピーな結果になる、というブラジル人の楽天的な気質を表している言い回しだ。私のポルトガル語の先生がカタールで2022年ワールドカップに向けてあちこちで工事が始まっているのを見て、「ブラジルではそんな風景が見えてこないのは心配だ。」と、近所のブラジル人に話をしたところ、「デウス・エ・ブラジレイロ」と答えが返ってきたとのこと。
国の課題解決は、神の仕事ではなく、政治家を始め国民自身が能動的に行うべき仕事とブラジル国民が正面から認識して行動に移せば、ブラジルの将来はさらに明るいものになるだろう。