震災復興は厳しい現状を分析し、重点的・集約的・効率的実行を

東京大学大学院法学政治学研究科教授・政策ビジョン研究センター学術顧問 森田朗
政策ビジョン研究センター特任研究員 飯間敏弘

2011/6/16

今般の東日本大震災によって、東日本の広い地域が被災し、なかでも東北地方の太平洋沿岸地域は、地震や津波さらには原発事故により未曾有といえる甚大な被害を受けた。今回の震災の影響は非常に広汎な範囲に及び、被災地域の人々の生活やさまざまな産業が大きな被害を被った。さらにその影響は広く日本全体に及び、わが国の経済、財政、産業等が今後中長期的に深刻なダメージを受けるものとみられている。

大震災の発生から4ヵ月以上が経過して、東日本大震災復興構想会議から出された提言を踏まえ、震災からの本格的な復興が動き始めた。このたびの震災によって受けた被害の大きさからいって、その復興事業は、経済、社会、行政、産業など幅広い諸領域を対象とする大規模なものとなり、また既存の法体系にとらわれることのない、大胆かつ創造的な制度改革を行うことが重要となるだろう。

これまでに様々な震災復興プランが提案されているが、その中にはかなり楽観的な見通しに基づいて作られたとみられるものも散見される。だが人口減少と高齢化が進み、厳しい財政状況の中で復興予算に回せる予算が潤沢にはない日本の現状において、被災地域の再興を着実に進めていくためには、現実の厳しい状況や今後の見通し(とりわけ人口動態・年齢構成と地方財政に関する現状)を正確に分析・把握した上で、復興プランを作り上げていく必要があるだろう。

被災自治体において進む人口減少・高齢化・財政悪化

現在、日本は少子高齢化が進展しており、これによって生じる人口構造の大きな変動、すなわち人口の大幅な減少と高齢化率の上昇が、今後の日本の社会・経済などに深刻な影響をもたらすことはまちがいない。

日本の人口は、少子化などの要因により2005年度から減少に転じ、国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、今後、毎年数十万人単位で減り続けていく結果、2035年には2010年度に比べておよそ1100万人減少するとみられている。その一方で、人口に占める高齢者の比率は高まっていき、同じく2035年に高齢化率は33.7%にまで上昇すると推計されている。

また現在、日本は極めて厳しい財政状況にある。日本の財政は、例えば2011年度予算において公債金収入が全体のおよそ半分(47.9%)を占めているように、毎年多額の公債を発行し続けてきた結果、現在ではその累積された国全体の借金(国債及び借入金現在高の2011年度末見込額)が998兆円にまで達している。このような日本の財政状況は、財政の硬直化、金利上昇に伴う経済・財政への悪影響、公債償還に係る世代間の不公平感拡大など、様々な深刻な影響を経済・社会全般に与えており、仮にこのままの状況が今後も継続されると、いつの日か財政破綻が現実のものとなってしまうかもしれない。

この少子高齢化や財政悪化の状況は、特に地方において深刻であり、今般、震災被害にあった東北の太平洋沿岸地域の自治体の多くが、こういった問題を抱えている地域であった。

例えば、震災前に国立社会保障・人口問題研究所によって行われた推計によると、被災した主な市町村(大都市である仙台市を除く)において、2005年度から2035年度にかけて、人口は平均で約28%減少し、高齢化率は14ポイント程度上昇して約38%にまで達するとされている。さらに今般の震災の影響により、今後この推計以上の割合で被災地域の人口は減少し、高齢化率は上昇していくものと推測される。

被災した主な市町村の将来人口推計と高齢化率

また過去において、自然災害の発生により住民の多くが避難を余儀なくされた自治体の人口推移を見ると、災害が収まった後も、被災地域では人口が減少し高齢化が進む傾向にあることが分かる。

例えば、自然災害により多数の住民が避難せざるを得なくなった東京都三宅村、新潟県山古志村、北海道奥尻町を例にとると、これらの自治体では、災害が収まって住民が地元に戻ってきた後も、人口は被災以前の水準まで回復せず(人口は被災前のおよそ6〜7割に減少した)、また高齢化率も大きく上昇(およそ40%前後にまで上昇)しているのである。

災害により多数の住民が避難した自治体の人口推移と高齢化率

出典:国勢調査と住民基本台帳より作成
山古志村の住民基本台帳(2009年度)の出典は「長岡市住宅政策マスタープラン」

また財政状況についても深刻な状況にある被災自治体が多い。例えば2009年度の財政力指数をみると、岩手県陸前高田市が0.28、宮城県南三陸町が0.31など、財政力が非常に低い自治体が多く(およそ0.3〜0.4程度の自治体が多い)、さらに今回の震災の影響で財政状況は今後一層悪化していくものと予想される。

被災した主な市町村の財政力指数

出典:総務省「財政比較分析表」 より作成

「重点化」、「集約化」、「効率化」を基本とした被災地復興

今回の震災では、人口数千から数万人程度の比較的小規模な自治体が、地震や津波により壊滅的な被害を受けたケースが多い。ではこれらの自治体の復興を実現するにあたって、どのような復興プランを構想すべきなのであろうか。

前述の通り震災前の予測ですら、これらの自治体の多くは、将来的に人口がおよそ3割近くも減少し、人口のおよそ4割を高齢者が占めるようになり、また深刻な財政状況(交付税等の国からの財源移転に依存せざるをえない状況)から抜け出すことは難しいとされている。過去の被災自治体の事例をみても分かるように、このような危機的状況は、震災の影響によって深刻の度合いを一層強めてしまう可能性が高い。すなわち、震災によって人口減少(特に若者の減少)と高齢化がますます進行し、税収減などから財政状況はさらに悪化していくことが予想されるのである。

人口減少と高齢化が急速に進むとともに、財政状況の悪化が止まらないわが国(さらにはその状況がより深刻な地方)にあって、大震災の甚大な被害を受けた自治体の復興をはかるにあたっては、これまでみてきたような現実を冷静に分析した上で実現可能な復興プランを作ることが肝要である。

その実現のためには知恵を出しあうことが必要であるが、ここでは、復興プランを作るに当たって考慮すべき指針として、「重点化」、「集約化」、「効率化」という3つの軸を提示しておくことにしたい。

現在の厳しい財政状況下において被災地の復興を可能とするためには、地域住民ならびに国全体の観点からみてより重要と考えられるものから優先順位を定めて重点的に復興事業を行い、また再建する施設・インフラ等を分散的にではなく集約的に整備し、さらに、そこに投入する各種資源を漫然とではなく効率的に使用することが重要となるだろう。

具体的な復興プランとしては、例えば、東北地方において産業や生活の拠点となるような、ある程度の人口と財政規模をもつ都市を整備していくことが考えられる。

より具体的には、これらの拠点都市に、インフラや各種公共施設等を重点的に整備するとともに、住環境などの生活基盤を整えることを通じて、各コミュニティの維持・発展が進むように促す。また、病院や介護施設などをはじめとする公共的な施設と住民の居住地を近接させることによって、住民の利便性を向上させ、人々が必要とするサービスを過不足なく受けられるようにする。さらに産業についても、日本の強みを生かして高付加価値を生み出すことができる国際的競争力の高い部門へ重点的に投資することによって産業構造の転換を促し、それによって生じた新たな産業を各拠点都市やその近接地に立地することを通じて、各都市の生活・産業機能を充実させていく。このような拠点都市を東北、ひいては日本全体に整備していくことによって、東京など大都市圏への人口集中を緩和させると同時に、各地方都市の人口減少や高齢化の急速な進行を和らげることが可能になると考えられる。

2055年には日本の人口が約3割減少して9千万人を下回ると予測されており(国立社会保障・人口問題研究所「全国将来推計人口」)、各地域の様々なインフラや施設などもその分多くの余剰が今後生じてくると予測される。人口減少・超高齢社会においては、地域住民の利便性・有用性(高齢者等のアクセシビリティの確保や地域コミュニティの形成など)や各種サービス等の生産・消費に係る効率性(行政機能の効率的展開や医療・介護サービスなどの効率的利用)などの観点から、各種の施設やインフラなどを拠点となる都市にある程度集約的に配置していくことが望ましいといえよう。

以上に示したのは、人口減少や少子高齢化、財政難などという厳しい現状を踏まえた上で実現可能な復興プランを作っていくための基本的な考え方の一例である。このような考え方に基づく復興プランを作成し、実行していくことによって、被災地域の人口減少や財政悪化などを緩和させながら、それぞれの地域コミュニティの新たな再建をはかり、将来にわたって持続可能な社会を構築することが可能になると考える。


参考文献

  1. 濱田一成 『地方財政の危機と対応策』 山梨学院大学法学論集 51, 227-250, 2004.
  2. 加藤美穂子 『地方財政における財政規律の維持・強化のルール』 札幌学院大学経済論集 (2), 45-64, 2010.
  3. 新潟県防災局防災企画課, 新潟県県民生活・環境部震災復興支援課 『新潟県中越地震における産官学民の連携と協調に基づく災害及び復興対応』 自然災害科学 28(3), 227-231, 2009.
  4. 福留 邦洋, 五十嵐 由利子, 黒野 弘靖 『住宅再建から復興まちづくりへ : コミュニティをふまえた地域再生』 自然災害科学 28(3), 221-227, 2009.
  5. 大野秀敏, 福川裕一, 藻谷浩介, 伊藤俊介, 『郊外の仕切り方 : 捨てずに縮小するための方法論を考える』 建築雑誌 125(1603), 26-33, 2010.
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  7. 東京都総務局 「三宅島噴火災害誌」 2000. (http://www.bousai.metro.tokyo.jp/japanese/knowledge/material_w.html)
  8. 内野順雄 『市町村合併と地方財政危機』 九州産業大学商經論叢 44(4), 31-57, 2004.

補遺 改訂履歴

  • 6月16日 初版
  • 7月19日 改訂版
  • 奥尻町のグラフを追加、三宅村と山古志村のグラフを変更