成年後見人の報酬額はどのように決まる?

東京大学政策ビジョン研究センター特任研究員
飯間 敏弘

2013/6/17

EPA=時事

成年後見制度とは、成年後見人が、判断能力が不十分な人の財産管理や身上監護を行うことでその生活を支援する制度のことである。この成年後見人には、その業務に応じて、家庭裁判所から後見報酬が付与されることになっている。では、この後見報酬額は、一体どのようにして決まっているのだろうか?

法律上、後見報酬は、「家庭裁判所は、後見人及び被後見人の資力その他の事情によって、被後見人の財産の中から、相当な報酬を後見人に与えることができる」 (民法862条) と定まっている。だが日本の裁判所は、この報酬の具体的な算定基準を一般に公表していない。対照的に、諸外国では、報酬基準の一覧表のようなものを広く公表している場合が多い。

この点につき、日本でも2010年に、家裁の報酬算定基準が専門職団体向けに提示されたことがある。その特徴を大きくまとめると、次の2点である (表1を参照) 。

  1. ベースとなる基本報酬 (管理財産額に依存) に付加報酬 (付加的な行為の程度に依存) を加えた合計が、後見報酬として付与される。
  2. 主に次の3つの要素 (①管理財産額、②身上監護等の困難性、③特別な行為) に基づいて報酬額が算定される。

出典:青木晋, 他「特集 成年後見座談会 後編」『NIBEN Frontier』2010年12月, p.29 の表より一部抜粋

ではこの家裁の報酬算定基準は、現実にはどのように運用されているのだろうか。

この点の検証も兼ねて、市民後見プロジェクトでは 後見報酬に関する実態調査(東京大学市民後見研究実証プロジェクト 「成年後見の実務的・理論的体系化に関する研究」 2012年)を行った。そのうち、後見報酬に関する調査結果を簡潔にまとめると次のようになる(図1を参照)。

  1. 後見報酬額は、本人の金融資産が多いほど多くなる。
    (対して、不動産や収支などはほとんど関係がない)
  2. 後見報酬額は、特別な業務 (不動産売却、遺産分割協議、保険金の受領、訴訟・調停・示談など) によって本人の金融資産を増やすほど、多くなる。
  3. 本人の身上監護をいくら行っても、後見報酬額は多くならない。
  4. 結果的に、親族後見人よりも第三者後見人の方が後見報酬額は多くなる。

出典:東大市民後見プロジェクト『成年後見の実務的・理論的体系化に関する研究』2012年

つまり後見報酬額は、後見人の業務内容によって決められるというよりも、むしろ本人の金融資産の多寡によって、そのほとんどが決まってしまうということである。なるほど、金融資産の低い人への後見人の成り手が不足するわけである。

この調査結果を踏まえつつ、後見報酬について以下の4点を提案したい。

  1. 現在、一般の国民は制度利用によってどのくらいの負担が生じるのか分からず、また後見を行う方も計画的な活動をしにくい状況にあるので、報酬算定基準を、なるべく詳細に、一般に公表すべきである。
  2. 財産管理に対する評価にとどまらず、本人の医療、福祉、居住、就労等を支える身上監護についても、その評価基準を明確に提示したうえで、これを報酬に適切に加算するようにすべきである。
  3. 現状では、主に、後見人によって家裁に提出される後見事務報告書の内容のみが報酬に反映されており、本人やその親族等による評価等はほぼ全く報酬に反映されていない状況なので、総合的かつ客観的な評価基準や手法を構築し、その基準に基づいて報酬の決定を行うべきである。
  4. 現在、報酬額の決定は、後見人の業務の質や量に応じたものになっておらず、結果として公平性を欠いたものになっている(一生懸命、手間暇かけて仕事をしてもあまり報われない)ので、より公平性が担保された報酬体系になるよう改善すべきである。

参考文献

  1. 青木晋, 白井千浪, 石川宏, 大澤美穂子 「成年後見座談会(後編) -東京家庭裁判所の実務を中心に-」 『NIBEN Frontier』 第二東京弁護士会, 2010年12月 第99号, pp. 22-33」
  2. 新井誠, 赤沼康弘, 大貫正男 『成年後見制度 法の理論と実務』 有斐閣, 2006年
  3. 新井誠, 赤沼康弘, 大貫正男 『成年後見法制の展望』 日本評論社, 2011年
  4. 新井誠監, 2010年成年後見法世界会議組織委員会編 『成年後見法における自立と保護』 日本評論社, 2012年
  5. 池田惠利子, 上山泰, 齋藤修一, 小渕由紀夫 『市民後見入門』 民事法研究会, 2011年
  6. 上山泰 『専門職後見人と身上監護 第2版』 民事法研究会, 2010年
  7. 片岡武, 金井繁昌, 草部康司, 川畑晃 『家庭裁判所における成年後見・財産管理の実務』 加除出版, 2011年
  8. 小賀野晶一 『成年身上監護制度 日本法制における権利保障と成年後見法の展望』 信山社, 2000年
  9. 小賀野晶一 『民法と成年後見法 人間の尊厳を求めて』 成文堂, 2012年
  10. 菅富美枝 『イギリス成年後見制度にみる自立支援の法理 ベスト・インタレストを追求する社会へ』ミネルヴァ書房, 2010年
  11. 東京大学市民後見研究実証プロジェクト 『成年後見の実務的・理論的体系化に関する研究 (平成23・24年度 厚生労働科学研究費補助金 障害者対策総合研究事業 総合研究報告書)』 2012年
  12. 法制大学大原社会問題研究所, 菅富美枝 『成年後見制度の新たなグランド・デザイン』 法制大学出版局, 2013年
  13. 法務省大臣官房司法法制調査部編 『諸外国における成年後見制度』 法曹会, 1999年
  14. 宮内康二 『成年後見制度が支える老後の安心 超高齢社会のセーフティネット』 小学館, 2010年