G8首脳会議で議論されるオープンデータと透明性
オープンガバメントと日本の動向
2013/6/17
EPA=時事
本日6月17日から明日18日にかけてイギリス北アイルランド、ファーマナ州でG8サミットが開催されます。今年は3つの主要課題のうちの一つに「透明性(transparency)」が挙げられてますが、その中のコンテンツの一つにオープンデータが掲げられております。これはすなわち主要8カ国が初めてデータの透明性について明示的に議論をするということを意味します。
オープンデータとは、だれでもアクセスおよび利活用ができ、再利用・再配布を可能とするデータのことをいいます。利用側の制約として、所有者のクレジットを明記することや、同じ条件で再配布をするといったことを守りさえすれば、原則自由に扱えるデータです。より厳密な要件としては、Open Knowledge Foundationによれば下記の要件を満たすデータのことを指します。
- (望ましいのは)インターネット経由でダウンロードでき、再作成に必要以上のコストがかかってはいけない。また、データは使いやすく変更可能な形式であること。
- 他のデータセットと組み合わせての再利用や再配布ができること。
- “誰もが"利用、再利用、再配布ができること。データの使い道、人種、所属団体などで差別をしてはいけない。例えば「非営利目的での利用に限る」という制限や「教育目的での利用に限る」などの制限も許されない。
こうした、データを秘匿せず、利活用をさせることで価値を創出するという取り組みが国内外問わず活発になっています。
オープンガバメント
オープンデータとあわせて議論される概念のひとつにオープンガバメント(開かれた政府)があります。オバマ政府は、「民主主義の強化」と「行政の効率と効果向上」に向けて、オープンガバメント(開かれた政府)の三原則を示しました。その第一が「透明性(transparency)」、第二が「国民参加(participation)」、第三が「協業(collaboration)」です。今回、G8で議論されるのはまさに「透明性」です。米国ではオープンガバメント、オープンデータの動向としていくつか代表的なものがあり、そのうちのひとつ Data.gov では、政府が公開する統計データなどの生データの機械可読のかたちで提供することで、国民がデータを自由に分析できるようにしました。その結果、これまでの政府からは決して生み出されてこなかったアイディアや、サービス、アプリケーションが非常に多く生まれ、国民の生活をよりよいものにしています。
このような政府の動向という視点では米国よりも進んでいると思われる国があります。そのひとつがデンマークです。デンマークは高齢化、所得格差、労働力の減少、財政逼迫等と多くの社会的課題を抱えていますが、一方で幸福度ランキング世界一位としても知られています。同国は1994年から多くの公的サービスの電子化を進めていますが、代表的なオープンデータサービスのひとつとして borger.dk という市民ポータルがあります。同ポータルサイトの目的は、市民と政府をつなぐ窓口となることです。borger.dkで該当するカテゴリーを選ぶと、関連する法律や手続き方法から厚生省が出す健康情報まであらゆる政府提供の情報を閲覧することができます。また、市民それぞれが自身のマイ・ページに電子署名を用いてログオンすることで、地方自治体からの連絡、公的機関への質問送信やそれに対する返信、医療機関や医師との連絡、教育、納税、税金控除、育児休暇、年金情報記録などの個人の社会保障情報がひとまとめで管理・閲覧できます。ちなみに、設計段階から、普及促進を前提とした、ユーザ中心を念頭において構築がされており、その結果、週に10万アクセス、ユーザ満足度調査で93%が満足と回答、サイトの使いやすさでも最高、とユーザビリティとしても高い評価がされているそうです。
我が国は
経済産業省が公開した OpenData METI (β版) は、オープンデータによる経済活性化の促進を図るため、同省保有データを対象に公開の環境整備を図り、公開データを利活用したビジネスが展開する社会基盤を整える一環のもと開始されたサービスです。白書データや報告書のみならず、工業統計調査やエネルギー消費統計といった各種統計データを数値情報として公開しています。また総務省統計局は今月1日より、これまで公開していた統計データについてAPI (Application Programming Interface)1の公開を開始しました。API公開はオープンデータの利活用を進める際にきわめて重要な活動のひとつです。オープンデータは、これまでクローズドであったデータを公開すれば良いということではありません。例えばセル結合や半角全角が混在したエクセルシートをインターネット上に公開しただけでは、実行上有用なオープンデータ活動とはいえないのが実情です。適切な利活用を推進するためには、xmlやcsv、tsv2といった直接的に機械可読可能なデータを効率的に取得できる環境を整える必要があります。その点で総務省統計局のAPI公開は多くのデータ利活用者から心待ちにされていた動向のひとつです。
このように、我が国の中央政府も、機械可読の可能な形でのデータ提供に積極的になりつつあることが伺えます。そういった点をみても、オープンガバメントとオープンデータはともに切り離しては議論できない関係にあります。日本は、今年からネット選挙が解禁され、こちらもオープンガバメントの足がかりのひとつとして動向が注目されます。ただ、こういった動向は必然的に中央政府に注目が集まりがちですが、私は、オープンガバメントとオープンデータ両者の肝のひとつは地域の振興や再生であると考えています。
例えば福井県鯖江市はオープンデータとその活用の点で抜きん出ている自治体の一つとして有名です。
同市は、これまで有していたデータを可能なかぎり、XML、RDF等の形式でで積極的に公開し、自治体自ら データシティ鯖江 と宣言をしています。同市のオープンデータサービスの代表例のひとつに、"トイレこんしぇる"があります。利用者は、サイトトップページで必要とする地域やトイレの種類を入力して検索することで選択地域周辺のトイレ情報がGoogle Map上に表示されるサービスです。実は、先般紹介したデンマークのオープンデータにおける改革戦略コンテストで受賞されたサービスに Findnaermeste offentlige toilet という身体障害者向けのトイレ位置情報サービスがあります。また、同市のコミュニティバスである"つつじバス"ではバスロケーションWEB APIの公開により時刻表をはじめバス停や路線の座標データ、バスおよび停留所のアイコン等の固定の情報に加え、すべてのバスの位置情報(緯度、経度)および運行状態(路線、便、速度、遅れの有無等)を、JSONP3形式でリアルタイムに提供しています。
このように積極的にオープンデータサービスを公開している鯖江市のWebサイトから、その取り組みに関するコメントを引用いたします。
"近年、欧米各国を中心として、電子行政の新たな手法として、行政機関がウェブを活用して積極的にデータの提供や収集を行うことを通じて、行政への国民参加や官民協働の公共サービスの提供を可能とし、促進して行こうとする「オープンガバメント」の運動が起こってきています。日本でも経済産業省が、「オープンガバメントラボ」というサイトを設け、開かれた政府(オープンガバメント)の実現を目指し、実証を行っています鯖江市でもこの方向性を受け、できるところから、取り組んでいきます。"
まさにこの、「(オープンガバメント・オープンデータに対し)できるところから取り組んでいく」という鯖江市の取り組みが、市民を巻き込み、結果として多くのアプリケーションやサービスを産み出しているものと考えられます。
市民参加
オープンデータと切り離せない活動の一つにハッカソンとよばれるイベントがあります。HackとMarathonをかけ合わせた造語であり、主に週末二日間でアプリケーションを開発するという形式が取られます。元々はソフトウェアエンジニアが集中的に共同作業をする、ソフトウェア関連プロジェクトのイベントのことを指しました。2000年代半ばから後半にかけて著しく普及し、企業やベンチャーキャピタルが新たなソフトウェア技術の迅速な開発や技術革新、投資の新たな場と注目されています。近年ではより広い意味で、アプリケーションや創造的なプロダクトを創り上げるイベントとして認知されており、ソフトウェアエンジニアに限らず、バラエティに富む参加者により盛り上がりを見せています。このハッカソンイベントには、オープンデータを用いられるものが少なくありません。また、地方ごとに社会的課題を解決するアプリケーションを開発するという要件を取られるイベントも数多くあります。その成果として注目されているもののひとつが 税金はどこへ行った? です。これは、昨年6月にオープンナレッジファンデーションジャパンが主催するハッカソンで生まれました。我々市民の年収のうちいくらが市税や町税で、それらが何の目的に使われているのか、1日当たりの金額で可視化するWEBサービスです。以下、同サイトより引用いたします。
"このサービスを立ち上げた目的は、納税者である国民一人ひとりが、支払っている税金の使われ方を具体的に理解し、税金の使われ方を決める当事者として責任ある意見を述べることを手助けすることです。私達は、国民一人ひとりが、公共サービスにおける受益と負担の関係を数字で理解したうえで、私ならこう税金を使って欲しいという具体的で責任のある意見を述べることができるようなることが、日本の財政を健全化させ、日本を新たな成長へと導く近道に違いないと考えています。 "
このアイディアの源泉は、イギリスでおなじ発想で生まれた Where Does My Money Go? にあるそうです。また、米国の、 USAspending.gov では税金の支払い先がどの企業なのか、どこの選挙区で契約されたものなのか、その選挙区の政治家は誰かが分かるサイトとなっています。
今後の動向
オープン・データ・センサス(世界中のデータに関する専門家のネットワークによって、各国のオープン度を調査する活動)によれば、基本的な情報をオープンデータとして公開するという点で、日本はG8の中では4位に位置するそうです。下図がその各項目ごとのスコアを表したものです。確かに合計点として4位ではありますが、実は各項目に着目すると満点が一つもない特徴を持つ国であることに気づきます。この特徴を持つ国はG8の中で日本以外にはロシアだけです。
一方で、World Wide Web Foundationは、2012年9月18日に各国のオープンデータ進捗度をOpen Data Indexとして公表しています。上記のオープンデータセンサスとの違いは、オープンデータの具体的な活用に焦点を当てた評価になっているのが特徴的です。こちらの指標によると日本のランキングは20ヶ国中19位とされています。
諸外国に比べれば、日本のオープンデータ、オープンガバメントの動きはまだ始まったばかりです。政府や行政、自治体、企業、大学がデータをオープンにし、我々市民が利活用をしていくことで生活を豊かにするサービスを生み出していく、といった動きは非常にエキサイティングだと思います。先週、幕張メッセで開催された"Interop Tokyo 2013"では、World Wide Webの父ティム・バーナーズ=リー氏が基調講演において、"オープンデータの重要性と、政府に対する強い働きかけ"を主張されていました。先日13日に実施された、オープンデータ流通推進コンソーシアム第一回総会では、腰塚理事(東京大学大学院情報学環教授)から「3年以内に1位を目指そう」という声も挙がりました。G8でオープンデータの透明性がどのような議論をされるか、個人的にも非常に注目しています。
脚注
- API: OS(基本ソフト)やアプリケーションソフト、あるいはウェブアプリケーションが、自ら持つ機能の一部を外部のアプリケーション(ソフトやウェブサービス)から簡単に利用できるようにするインターフェース。
- XML(ExtensibleMarkupLanguage): データをネットワーク経由で送受信するためのメタ言語。情報の意味と情報の内容に分けてテキストで記述する言語形式。
CSV(Comma-Separated Values), TSV(Tab-Separated Values): カンマやタブで区切られたテキストデータ形式。汎用性が高く、多くの表計算ソフトやデータベースソフトで利用される。 - JSONP(JSON with Padding): ドメインを超えてデータをやり取りすることができる、JavaScriptから派生した軽量なデータ記述形式。
関連リンク