成年後見人の実務の実態とは (1)
親族後見と専門職後見の比較を通じた考察

東京大学政策ビジョン研究センター特任研究員
飯間 敏弘

2013/7/24

AFP=時事

高齢化の進展にともない認知症高齢者は年々増加しており、現在では高齢者のおよそ15%、約460万人にも達しているとされている(厚労省の研究班による調査(2012年))。さらに、これに精神・知的障がい者などを加えると、判断能力が不十分な人は国内でおよそ800万人にものぼると推定される(障害者白書(各年度)に基づく推定)。

そんななか、これらの人々の生活を支援し、その権利を守るための制度として期待されているのが成年後見制度である。成年後見人は、判断能力が不十分な人の財産管理や身上監護を行うことを通じて、その生活等をサポートすることが求められている。

では、この後見人によって日々行われている実際の後見実務のあり方はどのようなものなのであろうか。ここでは、後見の代表的形態である親族後見と専門職後見とを比較することを通じて、その一端を明らかにしていきたい。

まずはじめに、後見にたずさわっている人々が抱いていると思われる、親族後見と専門職後見に対する一般的イメージについてみておきたい。この点について簡潔にまとめると次のようになるだろう。

親族後見に対する一般的イメージ

  1. 親族後見人は本人の親族であり、普段から本人のことをよく理解していることから、本人の意思をより正しく推察することができる。
  2. 親族後見人は本人と同居している場合が多く、日常的に本人と長い時間接していることから、よりきめ細やかに本人の見守りを行うことができる。
  3. 後見のみならず、本人の食事や排せつ等の介助、および家事や介護なども行っている場合が多い。
  4. 後見報酬を申し立てないことが多いので、本人の経済的負担が少なくて済む。
  5. 後見業務について困ったときに、相談できる場所がほとんどない。

専門職後見に対する一般的イメージ

  1. 専門職後見人は自分の専門分野に係る業務(法律業務等)の扱いに長けている(慣れている)。
  2. 業務上の効率性や収益性の観点から、後見業務が定式化・簡略化されていることが多い。
  3. 後見報酬が比較的高くなる場合が多い。
  4. 所属する職能団体において、後見に関する研修を受けたり、困ったときに相談することが可能である。
  5. 家裁との関係が、さまざまな点でより密接である。

ではこれらのイメージは、実態をどれほど正確に描写しているのであろうか。

この点の検証も兼ねて、市民後見プロジェクトでは後見実務等に関する実態調査を行った(東大学市民後見プロジェクト 「成年後見の実務的・理論的体系化に関する研究」 2012年、東大市民後見プロジェクト 「地域における親族後見支援事業の試み」 2012年)。このうち、後見実務の態様の業態間比較に関する調査結果の一部を簡潔にまとめると、以下のようになる。

(1) 本人意思の推察の程度
まず、後見人は本人の意思をどれだけ正しく推察できているか、という点について見てみる。すると、専門職後見人は親族後見人よりも、本人の意思を正しく推察できていると認識していることが分かる(図1を参照)。だがこれは、あくまで後見人による自己評価を表しており、専門職後見人は本人の意思を推察する能力が高いということを、客観的に示しているわけではない。むしろ、一般に本人のことを深く理解しているはずの親族後見人よりも、専門職後見人の方が、本人の意思を正しく推察できると認識しているという事実に、違和感が感じられる。
(2) 後見人の選任の理由
次に後見人の選任について見ると、親族ではなく専門職後見人(第三者後見人)が選任されたケースにおける理由としては、難しい財産管理や専門的な法律行為の必要性などといった積極的理由よりも、むしろ後見人になりうる適当な親族がいない、などといった消極的な理由の方が多いことが分かる(図2を参照)。このように専門職後見人の選任においては、必ずしもその専門性等が期待されて選ばれているわけではないようである。
(3) 身上監護に係る後見業務の態様
続いて、身上監護に関する業務の実施状況について見ると、親族後見人は専門職後見人よりも、本人と接する時間がはるかに長くなっている(およそ60倍の時間)(図3を参照)。また後見業務の実施時間も、概して親族後見人のほうが長く、特に身上監護活動(事実行為)はおよそ10倍の長さとなっている。他方、専門職後見人は、後見開始後、本人を施設等に入所させ、同時にその資金確保のために本人の不動産を売却するケースが多い。このように、特に身上監護については、親族後見人の方がより熱心に行っている、ということができよう。
(4) 後見報酬付与の状況
後見報酬について見ると、専門職後見人の報酬付与率はほぼ100%で、親族後見人のそれは約20%である(全体の約8割の人は報酬を受け取っていない)。また後見報酬額は、親族後見人よりも専門職後見人の方がかなり高くなっている(図4を参照)。すなわち本人にとっては、専門職後見の方が後見報酬の負担はかなり重くなっている。
(5) 後見人に対する地域的支援
最後に、後見人に対して地域の後見関連機関(行政、社協、家裁、市民後見NPO等)がどのような支援を行っているか、という点について見てみる。すると、①親族後見人は、地域的な支援が得られないことで孤立感を感じたり(全体の約3割)、困ったことが生じているケース(全体の1割強)が少なくないが、専門職後見人は、そのようなケースはほとんどみられない、また、②親族後見人が家庭裁判所から何らかの支援を受けている頻度は、専門職後見人のおよそ8分の1と非常に少ない、ということが分かる(図5を参照)。

このように実態調査の結果をみると、この問題に関する一般的な理解(イメージ)は、ある面においては現実に妥当しているが、ある面においてはあまり妥当していないと言えそうである。後見の実態について正しく把握するためには、直感的な理解やイメージではなく、後見実務に関する実証研究を行うことが必要であるといえる。

参考文献

  1. 新井誠, 赤沼康弘, 大貫正男 『成年後見制度 法の理論と実務』 有斐閣, 2006年
  2. 新井誠, 赤沼康弘, 大貫正男 『成年後見法制の展望』 日本評論社, 2011年
  3. 新井誠監, 2010年成年後見法世界会議組織委員会編 『成年後見法における自立と保護』 日本評論社, 2012年
  4. 池田惠利子, 上山泰, 齋藤修一, 小渕由紀夫 『市民後見入門』 民事法研究会, 2011年
  5. 上山泰 『専門職後見人と身上監護 第2版』 民事法研究会, 2010年
  6. 片岡武, 金井繁昌, 草部康司, 川畑晃 『家庭裁判所における成年後見・財産管理の実務』 加除出版, 2011年
  7. 小賀野晶一 『成年身上監護制度 日本法制における権利保障と成年後見法の展望』 信山社, 2000年
  8. 小賀野晶一 『民法と成年後見法 人間の尊厳を求めて』 成文堂, 2012年
  9. 東京大学市民後見研究実証プロジェクト 『成年後見の実務的・理論的体系化に関する研究 (平成23・24年度 厚生労働科学研究費補助金 障害者対策総合研究事業 総合研究報告書)』 2012年
  10. 東京大学市民後見研究実証プロジェクト 『地域における親族後見支援事業の試み (平成24年度老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業)』 2012年
  11. 内閣府 『障害者白書』 佐伯印刷 各年度
  12. 法制大学大原社会問題研究所, 菅富美枝 『成年後見制度の新たなグランド・デザイン』 法制大学出版局, 2013年
  13. 宮内康二 『成年後見制度が支える老後の安心 超高齢社会のセーフティネット』 小学館, 2010年