成年後見人の実務の実態とは (2)
財産管理と身上監護を中心とした考察
2013/8/27
EPA=時事
高齢化の進展にともなう認知症高齢者の増加等に対応するため、近年、成年後見の一層の普及と活用を促進することが期待されている。認知症高齢者や精神・知的障がい者等の判断能力が不十分な人の生活を支援し、その権利を守るために、成年後見人は、本人の財産管理や身上監護等の後見業務を日々行っている。
では成年後見人は、日々の後見業務を具体的にどのように実施しているのであろうか。ここでは、特に財産管理と身上監護の業務に注目しつつ、その実態の一端を明らかにしたい。
一般に後見業務は、財産管理と身上監護の2つに大きく別けることができる。このうち、財産管理は後見の中心的業務とみなされており、後見人の職務は、主にこの財産管理に係る法律行為を行うこととされている。他方、身上監護は、後見業務の実務において財産管理ほどは重視されていない。この身上監護は、施設入所契約や介護サービス利用契約などの業務を行う「法律行為としての身上監護」と、本人の家事支援や介護等の業務を行う「事実行為としての身上監護」の2つに大きく別けることができる。このうち事実行為としての身上監護は、そもそも後見人の職務の範囲外とされており、この業務を行うか否かは各後見人の任意に委ねられている。
この点、後見人には法律上、身上配慮義務(民法858条)が課せられている。本人の身上を配慮し、その権利を擁護するためには、本人の身上監護を適切に行うことが重要となる。だがこの法的義務は、あくまで配慮義務に過ぎず、具体的な行為の実施が求められているわけではない。このことが(さらに言うと、身上監護の実施は後見報酬の増加にはつながらないという実態が)、財産管理ほどには身上監護が重視されていない現状をもたらしているように思われる。
このような状況を踏まえ、東京大学市民後見研究実証プロジェクトでは、後見実務に関する実態調査を行った(東京大学市民後見プロジェクト『成年後見の実務的・理論的体系化に関する研究』2012年)。このうち、財産管理と身上監護の実施状況に関する調査結果を簡潔にまとめると次のようになる。
- (1) 後見業務の実施回数
- まず、1年あたりの後見業務の実施回数について見ると、動産管理が年間29回、不動産管理が6回、身上監護(法律行為)が4回、身上監護(事実行為)が38回となっている(図1を参照)。不動産管理や身上監護(法律行為)の実施頻度が比較的少ないのに対して、動産管理や身上監護(事実行為)の実施頻度は非常に多くなっていることが分かる。特に親族後見の身上監護(事実行為)が多くなっている点が印象的である。
- (2) 後見業務の実施時間
- 次に、1年あたりの後見業務の実施時間について見ると、動産管理が年10時間、不動産管理が11時間に対して、身上監護(法律行為)が7時間、身上監護(事実行為)が88時間となっている(図2を参照)。財産管理や身上監護(法律行為)の実施時間に比べて、身上監護(事実行為)のそれは、際だって長くなっていることが分かる。とりわけ親族後見の身上監護(事実行為)は、飛び抜けて長くなっている。
- (3) 後見業務の取扱金額
- 最後に、業務1回あたりの後見業務における取扱金額について見ると、動産管理が84万円、不動産管理が578万円に対して、身上監護(法律行為)が45万円、身上監護(事実行為)が1万円未満となっている(図3を参照)。不動産管理の取扱金額が、高額の不動産を扱う関係上、他の業務に比べて際立って多くなっている反面、身上監護(事実行為)は、それが事実行為であるがゆえに、取扱金額が非常に少なくなっているという点が特徴的である。
以上の調査結果から、身上監護は、財産管理ほど重視されていないにもかかわらず、その業務の実施には(とりわけ親族後見において)財産管理以上の時間が費やされていることが分かる。これはすなわち、実際には後見業務の多くの部分が身上監護によって占められていることを意味しているのであり、後見業務における身上監護の位置づけを今一度再認識する必要があるといえよう。
参考文献
- 新井誠, 赤沼康弘, 大貫正男 『成年後見制度 法の理論と実務』 有斐閣, 2006年
- 新井誠, 赤沼康弘, 大貫正男 『成年後見法制の展望』 日本評論社, 2011年
- 新井誠監, 2010年成年後見法世界会議組織委員会編 『成年後見法における自立と保護』 日本評論社, 2012年
- 池田惠利子, 上山泰, 齋藤修一, 小渕由紀夫 『市民後見入門』 民事法研究会, 2011年
- 上山泰 『専門職後見人と身上監護 第2版』 民事法研究会, 2010年
- 片岡武, 金井繁昌, 草部康司, 川畑晃 『家庭裁判所における成年後見・財産管理の実務』 加除出版, 2011年
- 小賀野晶一 『成年身上監護制度 日本法制における権利保障と成年後見法の展望』 信山社, 2000年
- 小賀野晶一 『民法と成年後見法 人間の尊厳を求めて』 成文堂, 2012年
- 東京大学市民後見研究実証プロジェクト 『成年後見の実務的・理論的体系化に関する研究 (平成23・24年度 厚生労働科学研究費補助金 障害者対策総合研究事業 総合研究報告書)』 2012年
- 東京大学市民後見研究実証プロジェクト 『地域における親族後見支援事業の試み (平成24年度老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業)』 2012年
- 法制大学大原社会問題研究所, 菅富美枝 『成年後見制度の新たなグランド・デザイン』 法制大学出版局, 2013年
- 宮内康二 『成年後見制度が支える老後の安心 超高齢社会のセーフティネット』 小学館, 2010年