成年後見人の実務の実態とは (3)
成年後見人の業務はどう評価されているか
2013/9/27
AFP=時事
高齢化の進展による認知症高齢者の増加等にともない、成年後見制度のさらなる普及と活用が求められている。成年後見人は、認知症高齢者等の生活を支援し、その権利を擁護するために、必要とされる後見業務を日々こなしている。
では本人(被後見人等)は、後見されることについて一体どのように感じているのであろうか。後見人がついて、果たして良かったと思っているのか、それとも良くなかったと思っているのであろうか。そして後見人の業務をどのように評価しているのであろうか。
この点につき、親族後見人や本人の親族においては、後見制度を利用したことについて、むしろ否定的な評価をしていることが少なくないようである。
一般的な事例の場合、何らかのイベント(本人の定期預金や保険金の受領ができないなど)が起こったときに、本人の親族等が、やむをえず本人に後見人をつけることにして、後見開始後、煩雑な手続きや関連機関の対応の不適切さに辟易し、また事務報告書の提出等の面倒くささにうんざりすることなどによって、後見制度に対して否定的な印象を持つようになってしまうことが多いようである。
ではこれに対して、本人はどのように感じているのだろうか。
通常、本人は判断能力が不十分な状態にあるため、後見を受けることで、どのような思いを持ったかということを、他者に正確に表明することは難しい。そのため、後見人による後見活動に対して、本人がどのように評価しているかということについては、これまで調査がなされたことはほとんどなかった。
このような状況を踏まえ、東大市民後見プロジェクトでは、後見実務等に関する実態調査を行った(東大学市民後見プロジェクト 「成年後見の実務的・理論的体系化に関する研究」 2012年)。このうち、後見人に対する本人等の評価に関する調査結果を簡潔にまとめると次のようになる。
後見人に対する評価の全般的傾向としては、評価の水準は全体としてかなり高い水準にあり、なかでも第三者後見人の方が、親族後見人よりも高い評価を受ける傾向にあった。また、後見関係者(本人、その周囲の人、後見人)の中でも、本人による評価が特に高くなる傾向にあった(図1を参照)。これを一言でまとめると、本人は後見人(特に第三者後見人)の後見業務に対しておおむね満足している、ということが言えよう。
ただこの調査結果の解釈については少し注意が必要である。
この評価については、もしかすると、(自分の親族ではなく、赤の他人である) 第三者が世話をしてくれているという事実そのものに対して、本人から高い評価が与えられている可能性が考えられる。もし仮にそうだとすると、第三者後見人の方が、評価が高くなるという全般的傾向は、第三者後見人の活動内容に対する評価というよりも、むしろ第三者(他人) がなぜかわざわざ自分の面倒をみてくれている、という事実そのものに対する感謝が強く反映されているのかもしれない。
その一方で、親族後見人の場合、親族が本人の面倒を見るのはむしろ当然であるという思いが、本人の評価を相対的に低くさせていることが考えられる。
また、(後見関係者の中で)本人による評価が特に高いという傾向は、上記の理由に加え、後見人に対して自分の財産から報酬が支払われていることを、本人が明確に認識していないことが、その要因の1つになっている可能性が考えられる。
以上はあくまでひとつの解釈にすぎないが、いずれにせよ、客観的に実態を把握することなく、「後見を受ければ必ず本人は幸せになるに違いない」などといった考えを短絡的に持つことは、少々危険なようである。
参考文献:
- 新井誠, 赤沼康弘, 大貫正男 『成年後見制度 法の理論と実務』 有斐閣, 2006年
- 新井誠, 赤沼康弘, 大貫正男 『成年後見法制の展望』 日本評論社, 2011年
- 新井誠監, 2010年成年後見法世界会議組織委員会編 『成年後見法における自立と保護』 日本評論社, 2012年
- 池田惠利子, 上山泰, 齋藤修一, 小渕由紀夫 『市民後見入門』 民事法研究会, 2011年
- 上山泰 『専門職後見人と身上監護 第2版』 民事法研究会, 2010年
- 片岡武, 金井繁昌, 草部康司, 川畑晃 『家庭裁判所における成年後見・財産管理の実務』 加除出版, 2011年
- 小賀野晶一 『民法と成年後見法 人間の尊厳を求めて』 成文堂, 2012年
- 成年後見実務研究会編 『書式 成年後見の実務—申立てから終了までの書式と理論 (裁判事務手続講座) 』民事法研究会, 2008年
- 東京大学市民後見研究実証プロジェクト 『成年後見の実務的・理論的体系化に関する研究 (平成23・24年度 厚生労働科学研究費補助金 障害者対策総合研究事業 総合研究報告書)』 2012年
- 法制大学大原社会問題研究所, 菅富美枝 『成年後見制度の新たなグランド・デザイン』 法制大学出版局, 2013年
- 宮内康二 『成年後見制度が支える老後の安心 超高齢社会のセーフティネット』 小学館, 2010年