中国の特許制度とその実態

東京大学政策ビジョン研究センター 客員研究員
李 龍

2013/10/9

EPA=時事

中国の国内外において、企業の技術開発力や国際化を示す指標である特許出願件数が急増して注目されている。特に2009年以降、特許出願数が目立って増加しているが、実際に出願に従事する企業も増え、権利取得件数も増加している。出願件数が増加した原因は政府の出願支援施策の影響が大きいが、同時に知的財産を重視する企業が増え始めたことをも意味している。

しかし、中国の企業が業種によらず知的財産を重視し、技術開発、特許出願に力を入れているとは言えない。政府も様々な援助政策を打ち出しているが、限界もあると思われる。中国政府がどこまで知的財産を持たない企業に特許出願をさせようとするのかが、今後の中国国内企業の特許出願の増加に直接関係してくる。出願件数がさらに増加する場合でも、件数の増加のほかに国際的に通用する技術力そのものの向上も重要な課題である。一部の企業では国際特許出願が目立っているが、こうした企業の数はまだ少なく、中国企業全体では限られている。例えば、中国の通信機器大手の中興通訊(ZTE)は2011年国際特許出願件数が首位になり、3位は中国の通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)であった。このように、突出して国外特許出願を行い注目されている企業の技術分野は通信機器であり、その他の技術分野はそれほど目立っている状況ではない。中国企業が国外出願を、積極的に戦略を立てて取り組んでいるというより、むしろ市場を維持するために特許出願を行わざるを得ない状況だと思われる。

企業の技術力はある意味において企業の特許出願件数と関連している。特許出願を多く行っている企業は強い技術力も持っていることが多い。中国の企業は国内外の特許出願を重視し始めているが、企業あるいは業界によってその状況も異なっている。政府は航空分野、通信、バイオテクノロジーなどの領域を重視しており、これらの分野の企業は強い技術力を持ち、国内外に特許を出願する傾向もある。一方、家電産業や、加工機械、精密機器、新しい材料などの領域については、意味のある特許を国内外に出願するには企業の技術力が足りないため、出願件数も多くない。これもまた、国家全体の技術発展が均衡ではないことを意味していると言える。技術力が不足している場合、自社開発、共同研究、または技術移転によって補うことができるが、改革開放以来、中国が先進国との技術面の差を埋めるには時間が必要である。特に早くから外資を導入したので、外資企業の持っている技術分野では中国企業の技術革新が極めて遅れている。

それほど技術力を持たない企業は他社の商品を見習うことになるが、その際知的財産を重視せず模倣品や海賊版などとみなされれば、行政処分や裁判で争う結果になるので、結局は長続きしない。このような経験をもとにして企業が徐々に知的財産の重要性を認識し始めたことが、近年の中国企業の国内外における特許出願件数の増加に結びついている。しかし繰り返しになるが、これは各産業において共通の現象ではなく、一部の企業が突出して注目を浴びているだけであり、まだまだ中国企業全体の技術力の向上には時間と努力が必要であると思われる。

多くの課題を抱えている中国の知財制度は国内外において議論の対象となっているが、政府も中国企業の知的財産あるいは特許制度における不足点を認識し、様々な知的財産に関する国家戦略を打ち出している。政府自身も一日も早く現状を改善しようと努力しているが、その進展は予想より芳しくない。近年、中国政府は知的財産奨励措置を取り始め、産学連携を推進し、技術移転センターを建設したり、知的財産金融を制度化するなど、様々な解決策を施しているが、どこまで成果が得られるかは今後の国の対応策に関連してくると思われる。その中で、法分野においては、特許法に関する法改正が頻繁に行われている特徴があり、特許法の改正状況も中国の特許制度の全体を理解するための一つの重要な要素になると思われる。

現在、業界の関心が寄せられている中国特許法改正は、特許法が1984年に制定されて以来、第四回目の法改正である。今回の特許法改正は行政と司法の両面から行っており、特許出願などの手続き上の法改正ではなく、特許制度全体にわたっている。この点、今までの法改正より規模も影響も特に大きいものであると言える。このような大規模な改正が検討されている理由は、世界各国の知的財産制度発展の動きや、自国の特有の問題など、中国の特許制度はこれまでにない難題に直面しているとする認識が背景にあるためと思われる。法改正の主な内容は下記の通りである。(1)特許権利侵害に関する調査権を行政機関に与えること、(2)特許を管理する行政部門に権利侵害の賠償額を判定する権利を与えること、(3)特許の無効審査及び司法裁判の内容を調整すること、(4)故意に権利侵害を行った者に対して罰金をすること、(5)行政機関の特許権侵害に対する取り締まりを強化すること、(6)特許案件の司法裁判と行政処分を並行する体制を構築することなどである。

上記の思い切った法改正内容は草案段階であり、今後も議論されるところであるが、政府も法制度の改善によって、企業の技術力を向上させようとしている狙いもある。しかし、行政の権限の強化につながる法改正がどこまで中国の特許制度の発展に貢献することができるかは疑問である。行政判断の公平性が保たれることが期待される中、具体性あるいは合理性に合う法制度作りを行うためには、相当な工夫と配慮が必要ではないかと思われる。