グローバル展開 日本企業と欧米企業の違いは何か
2013/11/19
--日本企業ですが、そもそも欧米の企業と中国などに進出するときの基本的な姿勢がまったく違うということを渡部先生は言われていますね。それはどういうことですか。
渡部 まず日本企業は中国に進出するときには何を目的としているのかというと、第一に「製造」のためなのだと思います。現地で工場を建てるということになると、雇用関係なども含めてそう簡単には変えられません。つまりかなり長期スパンで考えるということです。
欧米企業の場合は、そこまで長期スパンで考えているわけではないケースが多いように思えます。ある企業は、最初はものづくりをやっていたのですが、やがて特許でビジネスを全世界に展開するようになりました。その方法論は狩猟民族の感覚ですね。ビジネスモデルを用意しておいて、さっと進出してさっと儲ける。うまく行かなかったらすぐに次に行く。
中国でライセンスビジネスを大々的に展開している企業には、アメリカのクアルコムやイタリアのシズベル、オランダのフィリップスなどがあります。中国の場合、輸出入関係の法律にライセンサー補償という制度があり、ライセンスした技術に問題があった場合は賠償を求められます。
だから日本企業は怖がってあまりやりたがらないのですが、しかし欧米企業に聞くと「何の問題も起きてない」と言います。特許期間が満了するまでの10年とか20年のスパンではなくて、もっと短期で考えているからでしょう。すぐに問題が発生するわけではないからです。言葉を換えれば「賞味期間」が短くてもいいということです。
10年とか20年でビジネスモデルをどんどん変化させていく会社と、日本企業のようにモノをずっと作っていかなければならないと考えている会社では、外国に進出するときに根本的に考え方が違うと思います。
--その差は大きいですね。
渡部 ある意味で、企業が海外展開するときに、日本の場合は選択肢が少ないということが言えます。商社というのは、昔は口銭を取るビジネスでした。今ではエネルギーに投資するなど投資ビジネスに変わってきています。事業モデルを大きく変えることができたのは、モノを作らないですんでいたからです。しかし日本のメーカーはどうしてもモノを作ることにこだわりがありますから、ビジネスプランの変更はやりにくい。
--日本企業が「モノ作り」にこだわり続けると、あまり変わりようがないということになりますか。
渡部 モノ作りは日本のコアビジネスですからこれは活かさなければなりません。ただそのやりかたをもっと工夫する必要があります。たとえば日本と同じことを海外でもやらなければならないと考えると、選択肢がなくなります。クアルコムは、モノ作りを止めてまでモデルを転換したのです。そういう会社も日本には必要です。つまり日本の場合、ダイバーシティが少ないのだと思います。海外進出でもみんなリスクを取りたくないから同じことをやる。それにすべて成功体験に根ざした選択をするので、同じになりやすい。
--それを変えていかなければ、日本企業の将来はどうなりますか。
渡部 脆弱になりますよね。護送船団でもいいときはいいのですが、ダメになると船団全部がダメになるような状況でしょうか。電機業界の苦況がそれを表していると言えます。日本産業全体にもっとダイバーシティが必要です。
実は日本の企業は特許の出願件数は多いのですが、それは攻めのためではなく、守りのためだったのです。かつてはアメリカの企業から訴えられなければいい、モノ作りはこちらが優れているという姿勢です。ある政治家が「そんなに特許を出していてなぜ業績が悪いのか」と会合で質問していました。
その通りなのです。要するにたくさんの特許を持っているが、使っていないのです。昔はよく欧米から訴えられたので、自分たちで特許をもって、最終的にクロスライセンスに持ち込むことが目的でした。しかし今はその戦術は効きません。欧米企業はモノ作りでは新興国と組み、相手の特許は無力化する戦略をしかけ、自分のコア特許は絶対譲らず訴えてくるので、日本企業がかつてもっていたモノ作りの優位性がなくなったのです。
それにもう一つ。欧米メーカーは使わない特許があれば売ります。1万件の特許を持っていれば、そのうちの1000件ぐらいは毎年入れ替えます。そのうち100件ぐらいの特許はスピンオフしたベンチャーに渡すというようなことをやります。それをやれば1年間に100の会社ができます。ノキアの調子が悪くても、フィンランドの雇用情勢がそれほど悪くならないのは、ノキアのような会社が数多くのスピンオフベンチャーを作ってきたからではないかと思います。
--かつて日本の大企業が社内ベンチャーとかスピンオフしたベンチャーをたくさんつくった時代がありましたね。
渡部 ありましたね。でも考え方が違うのです。カーブアウト(carv out)ベンチャーという言葉があります。企業がある事業を切り出すということです。10年ぐらい前に政策投資銀行が出資して、そういうことをやろうとしたのですが、案件が出てきませんでした。なぜだろうと思ったら、ある企業がこんなことを言ってました。もしそのベンチャーがうまく行かなかったら、また従業員を自分のところに引き取ることになる。そうだったら最初からやらないほうがいい、というのです。アメリカだったらスピンオフというのはいちおうそこで縁が切れるのです。そういう意味では、日本は「スピンオフ」ではない。
もしスピンオフしたベンチャーが成功したらどうなるか。たとえばIBMからスピンオフしたTivoliという会社があります。成功して上場したのですが、IBMはその会社を買収しました。つまりスピンオフした会社が将来必要になったら、買い戻せばいいということです。欧米企業には、ベンチャーを使ったエコシステムがオープンイノベーションの中で活用できる仕組みがあります。Tivoliは金曜の午後になるとバーベキューをやったりするような自由な雰囲気の企業として発展しましたが、これはIBMの企業風土にはないものでした。組織の限界を超えていくためには、スピンオフをつくることは有効な施策です。しかし日本の場合はそこがすごく脆弱です。
--企業文化の問題ですか。
渡部 たぶん日本企業が「工場」に根ざしているからだと思っています。工場というのは切り出せないのでしょう。もちろんこのモデルにも理由があって、それが成功の源泉になっているのだけれども、でも一方で限界になっているのも事実です。
それと人材の問題もあるでしょう。ビジネスにするためには人材のダイバーシティが必要です。大学発ベンチャーなどで明らかなように、マネジメントするのが全員研究者というようなビジネスは絶対にうまく行きません。大会社からスピンオフしたような場合でも、日本の場合は同質性が高いのです。今の時代だったら、外国人を加えるぐらいのことがないと難しいと思います。
--ダイバーシティということになると、日本はどちらかと言えば苦手な分野ですが。
渡部 日本にダイバーシティがないかというとそんなことはありません。ただ活用されていないだけです。大手の電機メーカーだって世界中でビジネスをやっているのだから、企業の中に実は「シリコンバレー」があるのだと思います。ただそれを活用していない。できないのではなく、できない構造を自分でつくっているだけだと思います。
欧米の企業はベンチャーを切り出して、また必要なベンチャーを買って、自分の体質を変えています。そういう考え方をすれば日本の企業も変われる「伸びしろ」があるということでしょう。
(聞き手:政策ビジョン研究センター客員研究員 藤田正美)