大震災における医療・介護に関する事務連絡ポータルサイト
2011/6/6 改訂
災害医療における制度的課題 −東北地方復興のための特区プロジェクト−
東京大学政策ビジョン研究センター教授 秋山昌範
1.はじめに
2.現行法と通知後の対比(医療関連)
3.現行法と通知後の対比(介護関連)
4.災害ポータルサイトの必要性
5.避難所における災害医療の捉え方
6.各種通知発出後、柔軟な対応が可能になった事項
7.各種通知が出された後も、なお残る課題
はじめに
今回のような大規模災害が起こったとき、これまで政府は、各省、各局、各課がそれぞれ独立して、さまざまな通知を大量に発出することによって対応してきた。今回の大震災においても、政府のそれぞれの部局が相互に十分な調整のないまま、おのおのの権限に基づいて膨大な量の通知を出している。これに対して、被災地をはじめとする各地の現場において、さまざまな疑義照会が頻繁に発生するという事態が起こっており、それぞれの省庁の担当部局が、それに対する解釈や通知などをさらに出し続けている。しかし、このようにして出される通知の数々は、決して体系的に出されているわけではないゆえ、全体の整合性が失われてしまっている。
このように断片的な情報のかたまりから、必要な情報を探し出すことは非常に困難である。それゆえ災害時には、数多く出される各種通知を整理して、利用者に分かりやすい形で提供することが非常に重要となる。
災害時に国民の知りたい情報を分かりやすい形で提供することは、政府の重要な責務のうちの1つである。それゆえ政府は、国民が必要な情報に簡単かつ短時間にアクセスできるように、震災に関連する各種情報を網羅的に整理統合した上で提供できるような体制を整える必要がある。
そのための手段の1つとして、災害に関連するさまざまな情報を有機的に集約した「災害ポータルサイト」を政府が開設して、広く国民一般に公開することが非常に有用と考えられる。これにより、被災した方々や、被災地においてさまざまな業務に従事されている方々、ひいては国民一般が、必要な情報にすぐにアクセスしてそれを利用することを可能にすることができるようになると考えられる。
現行法と通知後の対比(医療関連)1
現行法 | 通知後 | |
---|---|---|
被保険者証の提示 | 健康保険の被保険者証を医療機関に提示する必要 (国民健康保険法第36条2項など) | 被保険者証がなくても、氏名・生年月日等が確認できれば受診可能 東北地方太平洋沖地震による被災者に係る被保険者証等の提示について 保険局医療課【3月11日】 |
震災直後は被保険者証がなくても氏名・生年月日等が確認できれば受診可能であったが、2011年7月より通常通り被保険者証の提示が必要 東北地方太平洋沖地震及び長野県北部の地震による被災者に係る被保険者証等の提示について 保険局医療課【5月2日】 | ||
治療費の自己負担 | 治療費の一定割合を自己負担金として支払う必要 国民健康保険法第42条など | 大きな被害を受けた被災者は、自己負担金の支払いが猶予または減免 東北地方太平洋沖地震及び長野県北部の地震による被災者に係る一部負担金等の取扱いについて 保険局医療課、高齢者医療課、国民健康保険課【3月23日】 |
大きな被害を受けた被災者は、自己負担金の支払いを2012年2月29日まで免除(ただし2011年7月からは免除証明書の提示が必要) 東北地方太平洋沖地震及び長野県北部の地震による被災者に係る一部負担金等の取扱いについて(その7) 保険局医療課【5月23日】 | 処方箋 | 医師等から交付された処方箋がなければ、処方箋医薬品を授与不能 薬事法第49条 | 医師の診療を受けられない場合、処方箋なしで処方箋医薬品を授与可能 平成23年東北地方太平洋沖地震における処方箋医薬品の取扱いについて 医薬食品局総務課【3月12日】 |
FAXによる処方箋や電子処方箋は不許可 医師法第22条、薬剤師法第26条 | FAXの処方箋は許可 情報通信機器を用いた診療(遠隔診療)等に係る取扱いについて 医政局医事課、医薬食品局総務課【3月23日】 | |
遠隔診療 | 初診および急性期の患者は原則遠隔診療不許可 医師法第20条 | 初診および急性期の患者も遠隔診療可能 情報通信機器を用いた診療(遠隔診療)等に係る取扱いについて 医政局医事課、医薬食品局総務課【3月23日】 |
医療機関の建物 | 都道府県知事の許可を受けた建物で医療行為を行う必要 医療法第7条 | 医療機関の建物が全半壊した場合、仮設の建物等において医療行為を行うことが可能 東北地方太平洋沖地震及び長野県北部の地震の被災に伴う保険診療関係等の取扱いについて 保険局医療課・老健局老人保健課【3月15日】 |
カルテの保存 | 病院または診療所の管理者等は、カルテ(診療録)を5年間保存する必要 医師法第24条 | カルテを震災により滅失などした場合は、関連法令に基づく保存義務違反にならない 文書保存に係る取扱いについて(医療分野) 医政局、医薬食品局、保険局【3月31日】 |
医薬品の規格・融通 | 原則として薬局等は、処方せんを交付された者以外の者に対して、正当な理由なく医薬品を販売・授与できない 医事法第49条など | 被災地において、医療機関、自治体、薬局等は医薬品や医療機器を融通し合うことが可能 東北地方太平洋沖地震における地方公共団体間又は薬局間の医薬品等の融通について 医薬食品局総務課監視指導・麻薬対策課【3月30日】 |
医薬品の流通は、新規格(改正後の日本薬局方)に適合している必要 薬事法第41条、厚生労働省告示第65号 | 被災地における医薬品は、円滑な流通が確保されるよう、旧規格(改正前の日本薬局方)に適合していれば流通可能 日本薬局方の全部を改正する件の一部を改正する件(厚生労働省告示第96号 厚生労働省【3月31日】 | |
訪問診療の保険適用 | 居宅における療養上の管理等について保険給付がなされる 国民健康保険法第36条、健康保険法第63条など | 被災地の保険医が、各避難所等を自発的に巡回し診療する場合は、保険診療とみなされない(一般に、災害救助法の適用となる) ただし、避難所に継続的に居住していて、通院困難な患者に対し、継続して訪問し診察する場合は、訪問診療とみなされる(訪問診療料を算定可能) また、定期的に外来診療を受けていた患者に対し、避難所に赴き診察した場合は、往診とみなされる(往診料を算定可能) 東北地方太平洋沖地震及び長野県北部の地震に関連する診療報酬の取扱いについて 保険局医療課【4月1日】 |
診療報酬の請求と支払い | 保険者は、厚労大臣が定めるところにより算定した療養費の額に基づき、診療報酬等を医療機関等に支払う 国民健康保険法第45条、健康保険法第76条など | カルテやレセコン等を滅失などした医療機関等は、震災以前の診療報酬等につき、概算による請求(過去の診療報酬支払実績に基づき算定)が可能 東北地方太平洋沖地震及び長野県北部の地震に関連する診療報酬の取扱いについて(その2) 保険局【4月1日】 |
各保険者は、保険医療機関等に対して、それぞれの保険者の過去の診療報酬支払実績に基づき、按分して診療報酬等を支払う 東北地方太平洋沖地震及び長野県北部の地震に関する診療報酬等の按分方法等について 保険局保健課、国民健康保険課、高齢者医療課【4月12日】 |
現行法と通知後の対比(介護関連)2
現行法 | 通知後 | |
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被保険者証の提示 | 利用者は、介護保険の被保険者証を介護サービス事業者に提示する必要 介護保険法第41条 | 被保険者証を提示できなくても、氏名、生年月日等が確認できればサービスを受けられる 東北地方太平洋沖地震の被災者に係る被保険者証の提示等について (老健局介護保険計画課、高齢者支援課、振興課、老人保健課)【3月12日】 |
震災直後は被保険者証がなくても氏名・生年月日等が確認できれば利用可能であったが、2011年7月より通常通り被保険者証の提示が必要 東日本大震災による被災者に係る被保険者証の提示等及び地方自治体における第5期介護保険事業(支援)計画及び老人福祉計画の弾力的な策定について 老健局介護保険計画課、高齢者支援課、振興課、老人保健課【5月16日】 | ||
利用料の自己負担 | 介護サービスの利用料の一定割合を支払う必要 介護保険法第41、42条 | 大きな被害を受けた被災者は、介護サービスの利用料の支払いが猶予または減免 東北地方太平洋沖地震及び長野県北部の地震による被災者に係る利用料等の取扱いについて (老健局介護保険計画課、高齢者支援課、振興課、老人保健課)【3月23日】 |
大きな被害を受けた被災者は、介護サービスの利用料の自己負担金の支払いを2012年2月29日まで免除(ただし2011年7月からは免除証明書の提示が必要) 東日本大震災により被災した介護保険の被保険者に対する利用料の免除等の運用について 老健局介護保険計画課【5月16日】 | ||
事業の運営基準 | 介護サービス事業者は、厚労省が定める事業の運営基準を満たす必要 介護保険法第80、81条、第115条の23、22 | 介護サービス事業者が、介護保険法上の運営基準を満たせなくなっても指導を受けない 東北地方太平洋沖地震等に伴う要援護者等への適切な支援及びケアマネジメント等の取扱いについて (老健局振興課)【3月22日】 |
指定事項変更の届出 | 指定事項(事業所名や所在地等)に変更があったとき、10日以内に届け出る必要 介護保険法第82条、第115条の25 | 指定事項の変更届出の期限は柔軟に取り扱われる 東北地方太平洋沖地震等に伴う要援護者等への適切な支援及びケアマネジメント等の取扱いについて (老健局振興課)【3月22日】 |
ケアプランのモニタリング | 利用者の居宅を訪問して、ケアプランの実施状況をモニタリングする必要 指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準第13条 | 電話等で本人または家族に確認することによって、モニタリングを行うことができる 東北地方太平洋沖地震等に伴う要援護者等への適切な支援及びケアマネジメント等の取扱いについて (老健局振興課)【3月22日】 |
居宅介護支援費の逓減制 | ケアマネジャーの担当件数が40件を超えると、居宅介護支援費が減額 指定居宅介護支援に要する費用の額の算定に関する基準 | ケアマネジャーの担当件数が40件を超えても、居宅介護支援費は減額されない 東北地方太平洋沖地震等に伴う要援護者等への適切な支援及びケアマネジメント等の取扱いについて (老健局振興課)【3月22日】 |
要介護認定 | 要介護認定の有効期間は原則12ヵ月(新規は原則6ヵ月) 介護保険法施行規則第38条 | 被災地においては、要介護認定の有効期間を最大12ヵ月延長可能 東日本大震災に対処するための要介護認定有効期間及び要支援認、定有効期間の特例に関する省令の施行について 老健局【5月27日】 |
要介護認定の申請において主治医の意見書が必要 介護保険法第27条 | 被災者については、主治医による意見書の記載が困難な場合、市町村嘱託医や避難所を巡回する医師などによる記載が可能 東日本大震災に関する要介護認定事務の取扱いについて 老健局老人保健課【5月12日】 | |
介護報酬 | 介護施設等の定員超過利用、介護サービス事業所の人員不足、特定の訪問介護事業所へのサービス集中などが生じた場合、介護報酬を減額 指定居宅介護支援に要する費用の額の算定に関する基準第2条など | 震災によって一時的に、介護施設等の定員超過利用、介護サービス事業所の人員不足、特定の訪問介護事業所へのサービス集中などが生じた場合でも、介護報酬を減額しない 東日本大震災に伴う介護報酬上の取り扱いについて(第2版)」の送付について 老健局高齢者支援課・振興課・老人保健課【4月8日】 |
介護サービス等は、厚労大臣が定める基準により算定した費用の額に基づき、保険給付される 介護保険法第41、42条など | サービス提供記録等を滅失などした介護サービス事業者は、震災以前の介護報酬等につき、概算による請求(過去の介護報酬支払実績に基づき算定)が可能 東日本大震災に関する介護報酬等の請求等の取扱いについて 老健局介護保険計画課、高齢者支援課、振興課、老人保健課【4月5日】 | |
市町村は、居宅において介護を受ける利用者に対する居宅サービスの費用について、居宅介護サービス費を支給 介護保険法第36条 | 居宅だけでなく、避難所等で生活している者に対して居宅介護サービスを提供した場合でも、介護報酬の算定が可能 「東日本大震災に伴う介護報酬上の取り扱いについて(第2版)」の送付について 老健局高齢者支援課・振興課・老人保健課【4月8日】 | |
記録等の保存 | 介護サービス事業者は、従業者、設備、備品および会計に関する諸記録を整備し保存(2年間)する必要 指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準など | 震災によりサービス提供記録等を滅失した場合は、関連法令に基づく保存義務違反にならない 東日本大震災に関する介護報酬等の請求等の取扱いについて 老健局介護保険計画課、高齢者支援課、振興課、老人保健課【4月5日】 |
介護サービス事業所の建物 | 介護サービス事業所は、その建物や設備に関して厚労大臣が定める基準に基づき、都道府県知事の指定を受ける必要 介護保険法第88条、介護保険法施行規則第134条など | 介護サービス事業所の建物が全半壊等し、これに代替する仮設の建物等においてサービスを提供する場合、それまでのサービスとの間に継続性が認められるならば、保険給付可能 「東日本大震災に伴う介護報酬上の取り扱いについて(第2版)」の送付について 老健局高齢者支援課・振興課・老人保健課【4月8日】 |
※上記の表1、表2ともに政策ビジョン研究センターで独自に作成。
現在、厚生労働省から出されている元の情報は以下になります。
厚生労働省から発出した通知等(医療、介護の確保関係) (日付別)
災害ポータルサイトの必要性
大規模な災害が起こった時には、医療・介護従事者や患者、ひいては国民一般が、知りたい情報にすぐアクセスすることができる「災害ポータルサイト」を開設する必要がある。
- これまで出された各種通知にみられるように、各省、各局、各課がそれぞれ独自に、さまざまな通知を大量に出している。
- これらの通知の数々は、体系的に出されているわけではないゆえ、全体の整合性が失われてしまっている。
- このように断片的に散らばった情報のかたまりから、必要な情報を探し出すことは非常に困難である。
- 災害時に国民の知りたい情報を分かりやすく提供することは政府の重要な責務であり、そのためのツールとして、災害関連情報を有機的に集約した「災害ポータルサイト」を開設することが非常に有用である。
避難所における災害医療の捉え方
避難所において行われる医療・介護は、「在宅医療・介護のモデル」を用いることで、その問題状況をより的確に捉えることが可能になる。
- これまで出された各種通知にみられるように、現行の法体系・法解釈において、避難所は医療機関とはみなされていない。避難所などにおける診療や介護は、訪問診療(巡回診療)や訪問介護としてとらえられている。
- 一般的にいって、医療機関以外の場所で、訪問診療と訪問介護が同時に行われている場は、在宅医療・介護の場である。
- つまり、在宅医療・介護と、避難所における医療・介護とは、状況が非常に似通っているといえる。それゆえ、在宅医療・介護のモデルを、避難所における医療・介護に適用できる可能性は非常に高いと考えられる。
各種通知発出後、柔軟な対応が可能になった事項
1. 遠隔医療(情報通信機器を用いた診療)
従来認められていなかった、初診および急性期の患者に対する遠隔診療が可能となった。
- 初診及び急性期の疾患は原則対面診療を行うこととされているが、直接の対面診療を行うことが難しい場合(離島やへき地など)や、慢性期疾患などの遠隔診療は可能とされてきた(厚労省健康政策局長通知:2003年3月)
- 今回、被災地の患者を、「遠隔診療によらなければ当面必要な診療を行うことが困難である場合」ととらえることによって、初診および急性期の患者であっても、遠隔診療を実施可能とした。
2. 処方箋の交付
薬局に送られたファクシミリ等を「処方箋」とみなして調剤することが可能となった。
- 本来、処方箋の交付は、法令上、医師の記名押印などがある書面を、患者等に対して交付することが必要である。
- だが被災地において、医師と連絡が可能であり、ファクシミリ等により薬局に処方箋が送付された場合、医療機関から処方箋原本を入手するまでの間、ファクシミリ等を「処方箋」とみなして調剤することができることになった。
- また、客観的にやむを得ない状況であると認められる場合は、調剤された薬剤を郵送することが可能になった。
各種通知が出された後も、なお残る課題
1. 医療従事者機能の一時的代行措置の必要性
被災地では、ある職種が担っている医療機能を、別の職種の人達が一時的に代行することを特例的に許可することが必要となる。
- 被災地においては、常に医療従事者が不足する傾向にある。
- なかでも特に、地域的偏在(例えば、ある地域において薬剤師が足りない)や、時期的過不足(例えば、ある時期において保健師が足りない)といったことが問題となる。
- このような問題に対処するために、著しく不足している職種の医療機能の一部を、他の職種の人々が一時的に代行することを特例的に許すといったことが必要になってくる。
具体例
保健指導の一時的代行 |
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多くの被災者が集まる避難所において、その衛生状態を保ち感染症を流行させないために、保健師による保健指導は重要である。しかし被災地において、保健師は不足しがちである。 |
そのため、保健指導を一時的に看護師などに代行させることが考えられる。しかし、保健指導を行うためには、保健師助産師看護師法(第12条)により、保健師資格等が必要である。 |
それゆえこの問題に対処するためには、保健師の保健指導業務を看護師などが一時的に代行することを特例として認めるなどの制度改正を行う必要があるだろう。 | 薬剤の小分けや交付などの一時的代行 |
薬剤師は、原則として薬局など医療機関以外の場所で薬剤の調剤をしてはならないとされている。だが、災害その他特殊の事由がある場合、医療機関以外の場所で調剤することが認められている(薬剤師法第22条、薬剤師法施行規則第13条)。 |
しかし、被災地では薬剤師が不足することが多く、その場合避難所などに身を寄せている患者達に必要な薬剤を交付することが難しくなってしまう。 |
それゆえ、例えば薬剤の小分け・交付など、薬剤の調剤機能の一部を、看護師など他の医療従事者が一時的に代行することを特例的に認めるなどの制度改正を行う必要があるだろう。 |
2. 患者情報共有による医療・介護連携
被災地においては、ICTを用いて患者情報を共有することによって、医療介護連携を促進することが重要となる。
- 避難所などにおいては、慢性疾患を抱える多くの高齢者をケアする必要があるため、医療と介護をうまく連携させることが重要な課題となる。
- しかし今からそれを可能にする災害用のシステムを構築している余裕はないので、既存のシステムを特例的に用いていく必要があるだろう。
- 例えば、介護従事者が医療機関のカルテにアクセスし、介護情報を書き込んだり参照したりすることなどを許可することによって、医療と介護の従事者双方が患者情報(医療と介護両方の情報)を共有することを可能にするといった施策が考えられる。
- その際、最も障害になると考えられるのが個人情報保護法である。だが、個人情報保護法の「第三者提供」(第23条:個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。二. 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき)の法解釈などを用いることによって、対応することが可能であろう。
3. 被災地で行われる医療行為の違法性
被災地においては、非常に過酷な状況下で医療行為が行われることになるゆえ、その違法性を柔軟に解釈する必要がある。
- 被災地で行われる医療行為は、患者の医療情報や医療機器、材料、薬剤などが極度に不足した状況下で行われることが多いため、その分適切な医療行為を行うことが困難になる。
- また看護師などの医療行為には医師の指示が必要(医師法第17条、保助看法第37条)とされている。この点につき、医師の包括的指示に従う場合は問題ないが、被災地では医師の十分な指示を受けることが難しいゆえ、看護師など医療従事者の裁量のあり方や範囲などが問題となりうる。
- 一般に、医師などが診療ミスで患者を死亡させたとき、その医療行為に重大な過失が認められる場合、刑事責任(刑法211条の業務上過失致死罪)が追及されうると考えられている。
- だが、そもそも患者の利益を第一義的な目的として医療行為がなされた場合、「正当業務行為」として、刑法35条により違法性が阻却される。
- さらに災害医療においては、医療行為が本来的に有するリスクや、医療の過失認定の困難性などが高まるのであり、また「許された危険の法理(医療行為は人を死に至らしめる危険性を有するが、それは患者の生命を守ろうとして行われる善意の行為であるため、社会的に有用な行為として正当化されうる)」によって違法性が阻却される余地がより大きくなると考えられる。それゆえ、被災地における医療行為に対して安易に刑事責任を追求することは不合理であると解すべきである。
具体例
トリアージに係る法的問題 |
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トリアージを実施することは、被災地における個々の負傷者にとってみると、必要な救護措置を直ちに受けることができなくなることを意味するゆえ、法的問題が生じうる。 |
一般的にいうとトリアージは、刑法における保護責任者遺棄罪(刑法第218条)が適用され、また民事においては不法行為責任(故意による応招義務違反)がみとめられうる。 |
だがトリアージは、災害時における極度に限定された医療資源の活用という観点から、限られた医師によって、できるだけ多くの負傷者の命を助けるための極限的手段とみなすことができる。 |
それゆえトリアージは、「正当業務行為」や「許された危険の法理」などの法解釈から社会的に相当な行為とみなすことが可能であり、よって法的責任が問われる余地は極めて小さいと解すべきである。 |
執筆協力者
東京大学政策ビジョン研究センター特任研究員 飯間敏弘
改訂履歴
- 4月5日 初版
- 6月6日 改訂1版: 3月24日〜6月2日に出された以下の事務連絡を追加
- 医療関連
【被保険者証の提示】【治療費の自己負担】【カルテの保存】【医薬品の規格・融通】【訪問診療の保険適用】【診療報酬の請求と支払い】 - 介護関連
【被保険者証の提示】【利用料の自己負担】【要介護認定】【介護報酬】【記録等の保存】【介護サービス事業所の建物】