「企業間つながり検索システム(SMEET)」の試験公開について
2011/4/7
東京大学政策ビジョン研究センター教授 坂田一郎
要旨
中小企業・ベンチャーによる新たなつながり探索のサポート、
東日本大震災で分断された取引ネットワークの再構築のサポートに
東京大学政策ビジョン研究センターは、全国イノベーション推進機関ネットワーク協議会(イノベネット)と協力をして、「企業間つながり検索システム(SME=中小企業がmeetするという意味を込めて”SMEET”と呼ぶ )」の試作版を公開します。本システムは、東京大学(本センターの坂田一郎教授、工学系研究科の森純一郎特任助教ほか)と中小企業基盤整備機構の共同研究により開発したものです。
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このシステムの目的は、新産業の創生や中小・ベンチャー企業の成長・イノベーションに欠かせない、新たな出会いやつながり作りに取り組む中小・ベンチャー企業に対して、つながり先候補の探索や選定をサポートする機能を提供することです。
従来型の交流会は、フェーストゥフェースでの議論が可能であり、“話が早い”というメリットがあるものの、候補探索の範囲がかなり限定されています。従って、真に適切な相手に出会える可能性は制約されることになります。探索範囲を広げる意味ではウェブ上に大量に公開されている企業情報の利用が考えられますが、一般的な検索ツールでは、この膨大な「企業情報の森」の中から有用な情報だけを源泉して抽出することは難しいのが実態です。そこで、本システムでは、企業間のつながり探索に目的を限定することで、探索ニーズ(例えば、求める技術的能力)に応じて、クリックするだけで、つながり先候補群に優先順位を付けて抽出し、さらに当該候補群が持つ特徴や企業社会における位置取りをわかりやすく、簡潔に示す機能を提供することとしました。「知の爆発」と「オープンイノベーション」時代に対応した中小・ベンチャー企業支援システムだと考えています。
このシステムは、中国語や韓国語等の自動翻訳機能を備え、国際的なつながり探索にも対応しています。本システムを構成しているのは、ウェブ検索、自然言語処理、機械学習、情報可視化等のウェブ工学の技術です。中小企業・地域政策に対し、ウェブの技術を持ちこむ試みです。地域・中小企業のイノベーションや地域クラスターの形成に貢献していきたいと考えています。また、このたびの東日本大震災においては、住民生活のみならず、企業においても、日常のネットワークが分断され、活動に大きな支障を来しています。取引先や共同先を失った企業の方々が新たな提携相手を探すような場合にも貢献出来ればと考えています。
趣旨・目的
今日、新産業分野をスピーディに開拓する上では、他の分野で活動している能力の高い企業群の中から、適切な企業群を集め、新たな機能分担を設計することが求められています。例えば、典型的な成長分野の一つである太陽電池では、部品、材料、製造装置等に関しては、従来、他の事業領域で活動していた企業が多数参入し、材料に関する知見、精密加工技術など他の領域で培った能力を活かしています。
また、個々の企業の成長の視点からみると、こうした新産業形成を目指した新たな機能分担の輪に加われるかどうか、新たに他企業との適切な提携関係を見いだせるかどうかが、成長の可能性や経営の安定性を大きく左右するといます。
東京大学が行った企業間の取引関係のネットワーク分析(関東甲信越のケースでは、企業約3万社、取引数7万件を対象)や地域における聞き取り調査から、取引関係は既存の業種ごとに比較的閉じた関係が形成されており、また、仮に近隣地域に求めている技術を保有する企業があっても、それを見つけ出すことは容易ではない実態が明らかになりました。
比較的閉じている既存の取引関係(近距離交流)をたどって紹介を受ける方法では、新事業に必要な技術や販路を持つ企業(遠距離交流)にたどりつくのに大変な困難を伴う。また、今日、ウェブ上に大量の企業情報が出ており(情報爆発)、探索に利用可能なことは事実であるが、Googleのような一般的な検索ツールでは、検索結果の適切な絞りこみが出来ないため、特に人員の少ない中小・ベンチャー企業では、それら膨大な検索結果の中から人手に頼って有用な情報を選び出すことが困難であるのが現実です。
そこで、本システムでは、企業間のつながり探索に目的を限定することで、探索ニーズ(例えば、求める技術的能力)に応じて、つながり先候補群に優先順位を付けて抽出し、さらに当該候補群が持つ特徴や企業社会における位置取りをわかりやすく、簡潔に示す機能を提供することとしました。新たなつながりを形成しやすくすることで地域イノベーションの活性化に貢献する。「知の爆発」時代に貢献するシステムです。
具体的な機能
本システムは、探索キーワード(例えば、「計測技術」)を入力するところから始まります。そうすると、本システムはウェブ上に存在する企業ホームページから情報を自動的に取得し、探索目標に合致した企業群を抽出して示します。「計測技術」の例では、当該技術又は関連技術を多く有する、利用している企業を選び出すことになる。当該企業リストには、関連キーワード(「計測技術」のケースでは、さらに一段ブレークダウンした技術名、例えば「分光計測」「光計測」)が付いています。
次に、探索者は、このリストの中から、探索候補を絞りクリックをすると、更にブレークダウンされた情報をみることができます。濃縮された企業情報(当該企業を特徴づける特徴語群)、当該企業と事業・技術内容的に近い企業群やその関係マップです。これらは、ウェブページ上の情報を元に自動生成されたものですが、ウェブページを読むことと比較すると、短時間で効率的に有用な情報を得ることが出来ると考えます。
本システムは、多国籍の自動翻訳機能を具備しており、国際的な提携の支援にも利用可能です。
本システムの利点
本システムは、ウェブを利用して公開するものです。利用者側では、面倒なセットアップは一切不要です。また、ウェブ上にある企業のホームページ上の公開情報を情報源としています。このため、DBを作成し利用する場合(中央集権型のシステム)と比較して、情報作成・更新コストが不要で、また、更新スピードも速くなります。
(参考文献)
- Y. Kajikawa, Y. Takeda, I. Sakata and K. Matsushima, "Multiscale analysis of interfirm networks in regional clusters," Technovation 30 (2010) 168-180.
- Y. Takeda, Y. Kajikawa, I. Sakata, and K. Matsushima,"An analysis of geographical agglomeration and modularized industrial networks in a regional cluster: A case study at Yamagata prefecture in Japan," Technovation 28 (2008) 531-539.
- Y. Kajikawa, J. Mori and I. Sakata, ""Identifying and bridging the network in a regional Cluster," Technological Forecasting and Social Change, in press
- 坂田一郎、梶川裕矢,「ネットワークを通して見る地域の経済構造−スモールワールドの発見」,一橋ビジネスレヴュー 56(5)(2009) 66-79.
- 坂田一郎,「ネットワーク分析を用いた地域クラスターの実証研究」,慶應経営管理学会 慶應経営論集 28(1) 59-82
- J.Mori, Y.Kajikawa, I.Sakata and H. Kashima,"Predicting customer-supplier relationships using network-based features," IEEE International Conference on Industrial Engineering and Engineering Management 2010 (IEEM2010) in Macau. (December 7-10, 2010).
- J. Mori, Y. Kajikawa and I. Sakata,"Evaluating the new coordinations among small firms using analysis of inter-firm network," 5th International Conference on Project Management (Promac 2010)in Chiba, Japan (October 13-15, 2010).