DeNA取締役 南場智子氏 講演

インターネット事業者は行政とどう対話しているか

2014/1/20

2013年12月4日、本郷キャンパス伊藤国際学術センターの地下ギャラリーで、DeNA創業者であり取締役の南場智子さんをお迎えし、お話を伺いました。東京大学ソーシャルICT グローバル・クリエイティブリーダー育成プログラムの一貫として開催されたこのセミナーは、技術と法制度の両面を知った上で、社会に出てクリエイティブな活動をしてもらいたいという意図で、佐藤智晶特任講師により企画され学生を中心に約30名が参加しました。

成長エンジンを生み出しながら拡大

DeNAは99年の創業から売上2025億円、利益770億円となる現在に至るまで、成長エンジンを生み出しながら段階的に急成長を遂げてきた。初めはインターネットオークションを立ち上げ、モバイルオークションで業界No.1に、続けて広告ネットワークをも急拡大。その次がモバイルSNS。そしてモバイル向けのソーシャルゲーム。2、3年に1つ大ヒットを生み出して成長している。しかも既存のサービスを成長させる努力をしつつ追加していくので、より広範囲のビジネス展開になっている。三菱UFJニコスとのジョイントベンチャーで決済代行サービス「ペイジェント」、格安航空券販売のスカイゲートから名称変更した「DeNAトラベル」、中高年向けSNSの「趣味人倶楽部」、ドコモと共同で作った国内最大級のUGC(User Generated Contents)である小説・コミック投稿サイトの「エブリスタ」。人気作品があれば、執筆者に出版化や映画化の交渉も行っている。そしてリリースしたばかりの「マンガボックス」、2000億円以上のバーチャルグッズ市場が繰り広げられている「Mobage(モバゲー)」などさまざまだ。

我々は基本的には天才集団ではなく秀才集団

年次で見るとずっと成長しているが四半期単位で見ると苦しい時がある。今は4回目の苦しい時。黒字化したのは2002年だが、それまでは95%の人に負け組と言われた。モバゲーで急成長したが、その後売上の中心だったアバター販売が低迷。結局アバター注力から方向転換し、ソーシャルゲームに大きく舵を切った。怪盗ロワイヤルをつくったのは、入社時にはプログラミングの経験がない東大卒のエンジニア。ゲームをつくったことも遊んだこともない者が大失敗をした後に、自分の発想と勉強の集大成を全部つぎ込んだ。一つのゲームをヒットさせるのは天才がやったり運が必要だったりするが、DeNAが得意とするのはオペレーション。どういうユーザーがどこでドロップし、時間を割いているかデータマイニングをしている。ヒットを生み出すと粘着的な売り上げになる強みがある。一つのゲームがヒットした後なかなか下がらないことも業界の奇跡と言われている。試練があるたびに強くなっていくので、楽しんでいる。

インターネット事業者は行政とどう対話しているか

古物営業法

オークションサイトは古物を売るのではなく、場を提供するものだが、新しい概念ということもあって規制当局に確認を求めて何度も足を運んだ。初めての事例なので回答が難しかったのだと思う。最終的には古物商免許を取った。その後、盗品が流通しているという噂が流された。2002年には古物営業法が改正され、インターネットオークション事業はサイトを変更するたびに届け出が必要な、古物競りあっせん業ということになった。DeNAは共通のエンジンを別々のURLに提供しているため、煩雑な届け出の手続きが全てのサイトで必要となった。

青少年インターネット環境整備法

青少年が有害な情報を閲覧できなくするようにキャリア(通信事業者・携帯会社)にフィルタリングの義務を課した法だが、立法に向けたプロセスが印象に残っている。2006年2月にモバゲーを開始したところユーザーが急増し、いわゆる「出会い」に使われると認識する前に、若年層が巻き込まれるトラブルが起きた。DeNAは監視を強化し、それと同時期に総務省との勉強会が始まった。2007年10月に第一回勉強会があり参加。ところが、勉強会がとりまとめをする前から規制強化の方針が明らかになった。当時、SNSおよび有害な情報に対する閲覧制限をすべきという厳しい意見もあったが、学者も含めて方向性がおかしいという逆の意見を言い始めてくれた。そうした発信がどんどんなされて、マスコミも巻き込んで議論が続いた。

米国の場合、著作権に違反しているサイトを閉じるよう裁判所が命令することができるという法律(Stop Online Piracy Act:SOPA)は、抗議運動が起こり審議がストップした。日本の場合は落としどころを見つけることが必要。具体的には全業者が集まって議論し、自主規制を課すことになった。第三者機関に審査項目を作ってもらい、審査に合格したものをキャリアが閲覧できることとした。

DeNAは24時間365日サイトを監視する400人もの体制を整えた。出会いは自由だが18歳未満は犯罪から守る必要がある。一日1千万以上ある書き込みをシステムで白黒グレーに分け、グレー部分は目視でチェックしている。

不当景品類及び不当表示防止法(景表法)

話題になったコンプガチャ問題。もともとはマスコミで子どもがお金を使い過ぎで問題だと騒ぎ始め、景表法に違反する「絵合わせ」に該当するという見解が示された。コンプガチャ規制自体は真摯に受け止めているが、そのプロセスは思い出に残っている。ソーシャルゲームプラットフォーム連絡協議会という6社協議会を作り、自主規制で18歳未満の支払い方法や金額等に制限を作って事業を進めていた。問題がないという認識でいたものの新聞報道等を経て最終的には消費者庁も違法だという公式の見解を出した。

景表法は過大な景品類(おまけ)を禁止する法だが、法を遵守する者にとっても悩ましい規制の1つだ。我々のように遵法経営をしたい会社は自ら厳しい規制を課している。表示規制は極めて重要だが、過大な景品類の概念は難しい。

資金決済法

半年以上の有効期限を持つ仮想通貨は資金決済法の適用範囲に入り、残高の半分を供託する必要がある。モバコインだけだった時はよかったが、ここに事業者のレギュレーションが絡んでくる。ある事業者ではアプリ共通の通貨導入を認めず、期限は永久でなければいけないというレギュレーションの元では、ゲーム毎に別の通貨を発行しなければならない。DeNAには1,000以上のゲームがあり、今年度中に約60のゲームを出す予定だが、ゲーム毎かつデバイス毎に膨大なペーパーワークが必要。

以上を踏まえていくつかの論点を提示したい。

1. インターネット事業に遅れがちな行政の対応

イノベーションにはつきものだが、行政がスタンスをはっきりさせないと事業者は負担。自分ではサービスを触っていないことにも問題がある。新しいテクノロジーを活かし新しい遊び方が見出されると、新しい問題が発生することがある。それには真摯に向き合わなければいけない。ユーザーや社会、行政との対話を通じて新しい技術と新しい遊び方をタイムリーに世に出したい。

2. 法律と実態の乖離

たとえば景表法の中のおまけの部分。法律があっても法適用される事例が極めて希ということであれば、時代や実態に即して法律の内容を再検討することが新しいビジネスにとっては重要なのではないか。

3. 外国企業など

自主規制には入ってこない外国のプレーヤーがユーザーを集めていく現実がある。すべてのプレーヤーが等しい条件で競争できることは、ビジネスを生み出す上で重要。

4. 新しい事業者というレギュレーター

行政ばかりがレギュレーターかといえばそうではない。事業者もレギュレーターになってきている。事業者が他の事業者を縛り、それが新しいサービスの障害になりうることは近年の顕著な変化。

5. マスコミ

すごく大きな権力を持っている。行政の中の人はマスコミの報道に影響を受けることもある。

6. 国という枠組み

世界中の優秀な頭脳が、オープンソースコミュニティでどれだけ名をあげるかを競っている。シリコンバレーで有名になると次のプロジェクトに人が集まる。ベンチャーキャピタルからお金が下りる。これらはサイバー空間で行われている。グーグルは小国以上にお金を持っている。国の枠組みはどうなるか。

(写真/構成: 山野泰子 特任専門職員)