ミャンマー「エネルギー政策ワークショップ」

東京大学政策ビジョン研究センター 特任教授
芳川恒志

2014/9/29

9月1日、ミャンマーの首都ネピドーで「エネルギー政策ワークショップ」の開校式が開催された。東京から上田資源エネルギー庁長官、(一財)海外産業人材育成協会(HIDA)武田専務理事が、ミャンマー政府からは、エネルギー省、電力省、農業灌漑省の副大臣はじめエネルギー関係の各省から幹部、今回ワークショップの受講生(国家エネルギー管理委員会事務局はじめエネルギー省、電力省、農業潅漑省、工業省、環境・林野省、科学技術省、鉱業省、家畜・漁業・地方開発省、教育省の9省のほかヤンゴン大学やNGOから50名弱)他が出席した。特に、上田長官とともにミャンマー政府を代表して挨拶を述べたウー・ミン・ゾーエネルギー副大臣からは本ワークショップに対する大きな期待と同時に東大の貢献に対し謝意が述べられたところである。

このワークショップは、もともと昨年末にウー・ミン・ゾーエネルギー副大臣から経済産業省と私に対して、ミャンマーのエネルギー政策に携わる行政官を対象にして、具体的なテーマを絞って専門的な教育・人材育成を行ってほしいとの要請があったことに端を発する。このようなミャンマー政府の希望を踏まえて調整し、場所はネピドー、主としてミャンマー政府の希望に沿って10のテーマ(下記注参照)を選び、各テーマについて120分の講義を5回行うことなどが決まった。また、出来るだけ働き盛りの将来の幹部候補生が仕事をしながら参加できるように、一週間に10のテーマを2つずつ、計5週間にわたって講義することとし、9月第一週からほぼ3−4週間おきに12月まで行うこととした。

一方で、これまでミャンマーのエネルギー政策、特に地方における電力アクセスの改善に関して研究を行ってきた経験から、統計やエネルギー関係データの整備とともにエネルギー政策立案に携わる人材育成の必要性については痛感をしてきたところであり、これまで折に触れ、HIDA等における研修に協力してきたところである。他方で、本研究チームは、従来研修等人材育成のほかミャンマー国内において、政官のみならず民間関係者のネットワークを地道に作り、これら関係者を招聘して関係者会議等を開催したり、有力者に説明したりする活動を行ってきた。また、国外においては、タイのチュラロンコン大学との間で共同研究を実施し、ミャンマーとタイ及び中国との電力を中心とするエネルギー分野における協力関係構築について研究を行うとともに、バンコク等でセミナーやワークショップを開催してきた。すなわち、地方における電力アクセス改善のための研究を核とし中心としつつも、ミャンマー内外でさまざまな「活動」をその周りに展開してきたという特色がある。このような活動は少しずつ成果を挙げつつあるものの、我々の最終的な研究成果や将来の政策提言をどのようにミャンマーの実際の政策に反映させるかについては具体的な道筋が描けずにいたことも事実である。2011年の民主化以降、ミャンマーを巡る政治経済環境それ自身が大きく変化しつつあるだけでなく、エネルギー分野に限らず幅広い行政分野においてミャンマー政府に対して、国際機関や先進国政府、金融機関等から、とても政府では消化しきれないほど多量の政策提言がなされているという事情もある。このような問題意識から、今回はこの研修を「ワークショップ」と称し、受講生は単に講義を聞くだけではなく、グループ毎に政策提言を実際に取りまとめ、最終的に来年春ごろには国家エネルギー管理委員会に提出することとし、本研究チームを中心とする講師陣がこれをサポートする形とした点に特色がある。また、その過程では受講生による政策提言のドラフトができた段階で「国際ワークショップ」を開催し、受講生は世界のエネルギー議論をリードするような講演を実際に聴くとともに、講演者の前でこのドラフトを発表し議論を行う機会も設ける予定である。政策提言のドラフトをブラッシュアップするためである。この国際ワークショップは来年2月開催を予定している。

本ワークショップの概要と意義は以上のとおりであるが、9月1日の開校式直後から実際のセッションはスタートした。まず、私から「エネルギーとエネルギー政策」として、本ワークショップ全体のイントロとこれまでのミャンマーにおける研究に基づいて、同国のエネルギー政策上の主要な課題、また、エネルギー政策の3つのEを中心とする政策の基本等について講義をした。当初は固さも見られたものの、いずれも各省幹部から選抜されただけあって、受講生は熱心に講義を聴き、質問も活発であった。まだ始まったばかりでこれからのほうがずっと長いが、とりあえずは受講生のフィードバックを見てもまずまずの滑り出しだと評価できる。本研究チームはこれまで約一年半ミャンマーのエネルギーと付き合ってきたが、引き続き研究の最終とりまとめを行うとともに、ワークショップに対するミャンマー側の大きな期待に応えつつ、如何に我々の研究成果を現実のフィールドに適用する仕組みを作るかの試行錯誤と努力は続いていくことになる。

(注)テーマ
○エネルギーとエネルギー政策
エネルギー価格、補助金及びエネルギー市場
電力政策
○再生可能エネルギー促進政策
○環境とエネルギー政策
省エネルギー政策
エネルギー技術
○エネルギーインフラ
○ASEANとエネルギー国際協力
地方におけるエネルギーアクセスとエネルギー貧困

下線を付したテーマについて政策提言を行う予定。