活動報告:APECシンガポール会合に参加して
本センターの坂田一郎教授、牛久保雅美客員研究員(サンデン社会長)、田代久人客員研究員は、4月4〜5日にシンガポールで開催された「APECイノベーションと貿易会議」に参加しました。今回の会議は、日本の提案により立ち上げが決まった「APECオープン・イノベーション・プラットフォーム・イニシャティブ」の最初の具体的な取り組みと位置付けられるものです。貿易投資等の国際的な市場取引を通じて得られた海外の最先端の技術やビジネスモデル等を吸収・活用しながら、イノベーションを起こしていくために必要な要素とは何かを議論して、参加者間で認識の共有を図るとともに、今後のAPECにおける具体的な取り組み(例えば、知財権保護、規制のハーモナイゼーション、人材の育成、各種協力事業等)につなげていくことを狙いとしています。今回の会合には、21のAPECエコノミー(国・地域)から、政策関係者、学者、起業家、ベンチャーキャピタリストなど約150名が参加しました。
牛久保客員研究員の方からは、サンデン社の現地責任のRobert Kheng氏とともに、国際的に事業活動を行う製造業企業の代表として、日本発の技術、技能、ビジネスモデル、社の理念等がアジアを中心に移転され、定着し、さらにそれが現地におけるイノベーションや人材育成の苗床となるという、モデル的な事例の紹介を行いました。坂田教授からは、我が国の地域クラスター政策の経験やクラスターに関する学術的研究成果を紹介した上で、イノベーションを効果的に生み出す地域的な環境に関する諸条件として、small-world型の人的・組織的ネットワークの形成、産学や異業種間の橋渡し機能とイノベーション人材の育成機能の政策的強化が重要である旨、提言を行いました。
本会議では、最終的に、先端技術等を吸収し、イノベーションを生み出す環境として、イノベーティブなビジネス環境(知財制度、金融システム、適切なインセンティブ、オープンで透明な規制等)、イノベーションを生む人的能力とインフラ(アントレプレナーシップ涵養、国境を超えた研究協力、イノベーション人材教育等)、国境等の境界を超えたつながり(イノベーターのネットワーク形成、起業家支援、ICT整備等)の3条件が重要であり、また、APECの活動としては、発展途上国に対するそれら諸条件の形成支援と合わせて、域内における貿易投資の自由化や域内のイノベーションの担い手による国境を超えた協力ネットワークの形成が重要であることについて、概ねのコンセンサスが得られたものと考えます。最後の国境を超えた水平的な科学技術協力のネットワーク強化の必要性については、本センターの坂田教授が以前から指摘していた点です。今後、本会議の成果はまとめられ、ロシアのサガンで開催される貿易投資委員会や貿易大臣会合に報告される予定になっています。