政策ビジョン研究センター設立記念フォーラム

アジアの都市・地域政策(大西隆教授)

アジアの都市地域政策は広く大きなテーマであり、身近な地域に引きつけてお話ししたい。開発著しいドバイやアフガニスタンにおけるニュータウン構想など、アジア地域では都市開発が非常に活発に行われている。世界の都市人口の半分以上がアジアに暮らすようになるともいわれているが、アジアの中でも都市化の動きは非常に多様である。

アジアの都市化率

インドの都市人口は急速に増加しており、世界一になるといわれている。中国も戸籍法が撤廃されると都市に多くの人が集まるので、急速に都市化が進むといわれているが、都市化の勢いはインドの方が強い。一方で、日本では既に都市人口がピークを迎え、総人口の減少と共に、都市人口も減っていく。韓国も日本と同様だが、もう少しドラスティックに逆都市化が進んでいく。

1950年には世界の都市に住む人々の半分以上は、北アメリカとヨーロッパに住んでいた。しかし、2000年にはアジア単独で5割近くになり、2050年にはアフリカの都市化が進むこともあり、アジアとアフリカを合わせると世界の都市人口の70数パーセントを占めるようになる。その結果、都市問題の最前線は欧米からアジアに移り、さらにアフリカに及んでいくことになるだろう。

アジアの中の都市化はいくつかに区分される。東アジアでは、中国の総人口は今世紀の前半にピークに達するが、その後緩やかに減少に転じ、やがてインドに抜かれる。南、中央アジアでは、インドが非常に活発な都市化を進めるが、都市化率そのものは2050年で6割に留まる。一方で、東南アジアや西アジアでは2050年までに8割の都市化率となる。なお、北ヨーロッパではすでに8割を超える人が都市に住んでおり、2050年には9割の人が都市に住むようになる。

世界の巨大都市圏の16/27がアジアに(2050年)

世界最大の都市圏は東京であり、2050年には人口3,500万人を超える。1950年に人口1,000万人を超える巨大都市圏はアジアでは東京のみだったが、2025年には27の巨大都市圏のうち16がアジアに出現するだろう。中でもムンバイ、デリー、カルカッタ、チェンライとインドでは四つの1,000万都市が出現し、中国でも北京、上海、広州、深?が1,000万を超える。このようにアジアでは激しい都市化がみられる一方、人口増加率は次第に低下していく。

都市・地域政策

こうしたアジアの都市の中で、どういう都市問題が主要となり、それに対して、どういう都市地域政策が必要となるのか。インドのように都市化が激しいところ、日本や韓国のように成熟した都市化社会に入っているところ、とタイプは色々であるが、総じて都市政策は、①都市の膨張をいかに誘導するか、②都市の膨張をいかに抑制するか、③全国の中に都市を位置づけ、国土制御という観点からいかに都市を整理するか、の三つに大別される。

日本はこれまで、都市膨張を誘導する政策を採ってきたのではないか。日本では都市の人口が増える以上に都市の面積が増えてきた。つまり都市地域を拡大しながら、過密居住など都市問題に対処してきたといえる。そのための主要政策が交通網の郊外への展開であり、鉄道網を先行して発達させ、都市化を誘導した結果、東京は極めて交通に掛かる一人当たりのエネルギーが低い都市になっている。都市化制御のためグリーンベルト政策も採られたが、結果として都市膨張の抑制にはならず、都市の発展に添いながら行きにくい場所に緑地を残していくという、都市化誘導的な政策となった。

なお、東京では郊外化により、都心の人口は減ったが、最近、都心開発という新しい動きが起こり、世界に類を見ない再都市化が進んでいる。都市化→郊外化→衰退が都市のひとつのパターンだが、東京では衰退の代わりに再都市化が起こり、都市が復活してきているのでは、と指摘されている。

韓国、中国の都市政策

中国と韓国では、非常に意欲的な都市政策が進められている。両国とも、全国土をいわば都市と見なし、その中での都市のあり方、農村を含めた他地域のあり方を都市化の抑制と共に取り組んでいる。国土全体のあり方を制御する考えはイギリスで始まったものであり、日本でもかねてよりそうした議論はあったが、成功していない。こうした合理的な計画が近隣の中国と韓国では取り入れられている。日本が全ての面で先進的であった時代は過ぎ去っており、今は日本が学ぶべき経験を中国や韓国が行っている時代に入っている。

今まで見てきたように、アジア地域、近隣にしぼったとしても、非常に多様な都市が敬されつつあり、そこでは多様な都市政策が展開されている。このような状況において、重要なのは、経験の交流とその交流を促す研究拠点の存在。都市化、郊外化、逆都市化、再都市化など多様な面がアジアの都市には既に存在し、それが近未来にかけて展開しつつある中で、例えば中国や韓国に見られる、意欲的な計画制度が導入されるなど、多様な経験がこの地域で蓄積されている、もちろん日本も、交通体系の整備と巨大都市としての経験として長ずるものはあるが、アジアの状況を踏まえ、各国の状況を掘り下げて、都市化の規制の体系を発信していくことも、政策ビジョン研究センターの役割ではないかと考える。