欧州と日本における科学技術ガバナンス会合

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The governance of Science and Technology in the European Union and in Japan

さる10月3日(日)、京都大学の芝蘭会館において、欧州と日本における科学技術ガバナンスに関する会合が開催されました。科学技術は社会の様々な問題解決に有用ですが、一方で、政策決定者は、その政策の検討において、安全性をいかに確保するか、研究開発にどのように投資配分をするのか、一般市民との関わりをどう考えるのかといった様々な問題への対応が求められています。こうした課題への対応においては、技術の社会的影響を考える、テクノロジーアセスメント(TA)の有用性が再認識されています。本会合では、MEP*1のTA機関であるSTOA*2議長他欧州議会議員や日欧の政策担当者や専門家の方々を招き、欧州と日本における今後の科学技術ガバナンスのあり方について議論しました。

当日は、まず、日本側から日本におけるこれまでのテクノロジーアセスメント(TA)の経験に関して、その全体像と医療等の個別事例に関する報告がなされ、欧州議会のTA機関であるSTOAの現状について、STOA委員会委員長のPaul Rubig氏から報告がなされました。その後、総合科学技術会議議員の相沢益男氏による日本の科学技術政策の方向に関する報告、政策研究大学院大学の黒川清氏のコメントを踏まえて、参加者間での議論が行われました。日本の国会からも、衆議院議員の津村啓介氏、参議院議員の古川俊治氏が参加しました。

議論の中では、第1に、TAにおいて国・地域を越えた連携と同時に地域ごとの違いへの配慮の必要性が指摘されました。科学技術が複雑化を増している今日、その影響は国境を越えることから、TAは一国では完結しないとの指摘がありました。しかし、一方で、国ごとに異なる文化的な違いにも配慮しなければならないことも強調されました。第2に、TAを実施するには、人材の育成が重要であることが指摘されました。若手研究者の育成・キャリアパスのあり方や実践に携わる研究者がいかに評価されるべきかについて議論されました。第3に、TAの結果が実際に政策決定プロセスにおいて利用されるためには、政治家の関心を踏まえて、政治が必要としている言葉に置き換えて提示することの重要性が指摘されました。また、より一般的には、TA報告ではターゲットを明確にして、ターゲットに即したアウトリーチが重要であるという議論も行われました。

TAの制度化・定着の必要性については、参加者間で共通の理解がみられました。日本の参加者からは、総合科学技術会議の改組が検討されている現在は、まさにTAを社会的に制度化して定着させるチャンスであり、改組された新組織では、その一つの機能としてTAや科学コミュニケーションを考えることができるという意見も示されました。

最後に、欧州委員会駐日欧州代表部のローデ氏からは、今回の実りある議論を、今後とも継続的かつ定期的に実施していくことが重要であり、枠組みを検討していきたいと述べられました。

欧州と日本における科学技術ガバナンス会合

日時:平成22年10月3日(日)
場所:京都大学医学部 芝蘭会館山内ホール
主催:東京大学政策ビジョン研究センター、駐日欧州連合代表部

参加者

Mr Paul Rubig (MEP/AT*3, STOA Chair)
Mr Antonio Fernando Correia De Campos (MEP/PT*4, STOA Vice-Chair)
Ms Teresa Riera Madurell (MEP/ES, STOA Panel member)
Mr Jan Staman (Rathenau Institute, The Netherlands)
Mr Jaroslav Riha (Secretary to the Minister, Ministry of Education, Youth and Sport, Czech Republic)
Mr Frantisek Trojacek (Counsellor for Science and Technology, Economic and Commercial Section, Embassy of the Czech Republic in Tokyo)
Mr Theodoros Karapiperis (STOA)
Ms Barbara Rhode (Delegation of the European Union to Japan)
津村啓介(民主党衆議院議員)
古川俊治(自民党参議院議員)
相澤益男(内閣府総合科学技術会議 議員)
有本建男(科学技術振興機構・社会技術研究開発センター長)
大竹 暁(内閣府科学技術政策部局参事官)
黒川 清(政策研究大学院大学政策研究科教授)
加藤和人(京都大学人文科学研究所生命科学研究科物質−細胞統合システム拠点准教授)
平川秀幸(大阪大学コミュニケーションデザイン・センター准教授)
仙石慎太郎(京都大学 細胞−物質統合拠点(iCeMS)准教授)
城山英明(東京大学教授)

略語について


*1MEP: Member of the European Parliament
*2STOA: Science and Technology Options Assessment (European Parliament)
*3AT: Austria
*4PT: Portugal