第9回 PARI政策研究会

 09/04/09

国家試験である「知的財産管理技能検定」の前身になる知財検定を作られた、杉光一成先生にお話を伺いました。企業が求める知財スキルの標準化と検定試験策定までの経緯、さらには知財とその他の学際領域での取り組みとして、仮想空間における知財やコピペ検出ソフトの開発など、知財関連の今後の課題についても考えさせられる、幅広いお話が伺えました。


知的財産分野におけるこれまでの取り組みと今後の課題 

杉光一成 教授 (金沢工業大学 大学院工学研究科 知的財産科学研究センター センター長
政策ビジョン研究センター客員研究員)

知財人材育成について

知財人材育成の課題

今まで知財人材は経験中心に語られることが多かったが、抽象的なものが多かった。知財のスキルを明確化、標準化できれば、企業としても人材育成の指針が明確になり、個人としてもキャリアパスがイメージしやすくなるだろうと考え、IPスキルスタンダードを提唱。これが2005年に経産省の公募に通り、「知財人材スキル標準」策定に携わることになった。

知財スキルの標準化

企業が求める知財人材を育成する必要があるのではないかと考え、業績評価指標(成果)・能力に分けて5段階のレベルを設定。単にスキルを持っていてもそれが成果として現れないといけないという企業側のニーズを踏まえ、具体例を入れて策定した。知的財産を創造し、保護し、活用するという知的創造サイクルと、戦略面と実行面から見た機能という体系で全体マップを作成した。さらに、著作権・コンテンツ関係も含めることになり、特許系とコンテンツ系は業界がかなり違うので、苦労することになった。最小の業務単位を探すため、アンケート調査を行ったが、大手企業の分類も反映させたため、詳細マップは非常に細かい分類となった。

知的財産管理技能検定の策定

弁理士の資格は、企業の知財人材のためにあるわけではない。企業における実務能力を評価する指標が必要なのではないかと考え、アンケート調査を行ったところ、89%が必要と回答が得られた。知財検定の設計思想は以下:スキルを定量的(段階的)に評価/企業における実務能力を測定/個人の学習目標、動機付けになる/企業にとっても利用価値があり人材育成に使える。

大手企業の実事例を400以上集積し、問題項目の抽出を行った。Rubricの手法(言葉によって基準を可能な限り正確に定義)により、集積した事例から評価基準を定義した。問題は、従来タイプの知識問題ではなく、事例型問題形式を採用した。

知的財産管理技能検定の実用性

既存の外的基準との相関は、60%を超える組織が組織内における業務上の能力評価との相関を肯定。クロンバックのα係数(内的一貫性)で信頼性の検証でも、それなりにいい結果が出た。

民間検定であった頃だけでも4万人が受験。国家試験になってからは、最初は4000人、2回目は7000人、3回目は13000人が受験。民間検定時代に積極的に受け入れられたのは、検定を個人レベルではなく、企業として正式に採用した企業が多かった実績が出た面が大きい。

国家試験へ

2004年に民間検定としてスタートした知財検定だが、2008年に国家試験「知的財産管理技能検定」となった。知的財産人材の企業内での地位向上・信頼性の向上・社会における認知度の向上を得るため、国家試験を志向した。平成時代の行革の方針により、国家試験は創設することができないため、唯一残された国家資格への道が技能検定だった。弁理士は外部の専門家、知的財産管理技能士は潜在的な知的財産を発掘し、顕在化させてそれを権利化・活用する企業内部の専門家と考えている。


知財とその他の分野の学際領域について

仮想空間における知的財産

仮想世界の実例(セカンドライフ)。ゲームの登場人物との違いは、人(アバター)の背景には必ず実物の人がいて、契約もできる。新しいものを創造することができる。この作り出したものについて、知的財産をどう想定するか。こうした仮想空間におけるバーチャルマネーは現金マネーに換金できるため、仮想空間で土地を買い占めて、住居を作りそれを売ることで数億円のお金を稼いだ事例もある。現実世界の物理的な商品の商標が、仮想世界の商品商標を含んでいるかどうかについてはまだ議論されていない。現実世界・仮想世界における知的財産のフレームワークを作り、検討している。

コピペ検出ソフトの開発

2008年5月に朝日新聞に掲載され、テレビ・ラジオでも報道されるなど話題になった。コピペレポートは、学生にとって、考えてレポートを書くという重要な学習機会を喪失している。教員に対しては欺く行為でもあり、他の学生からすれば、不公平感も出てくる。当然コピペレポートはチェックしなければいけないが、それが教員側の無用な負担になっている。その負担を取り除くという趣旨で考えているソフト。たとえば、レポートのこの部分はこのURLに書いてあるというようなことが提示される。現在産学連携の形式で、こちらで出した特許のライセンスをもって企業と共同作成中。

画像解析ソフトを利用した著作権侵害の予測

著作権侵害の判例の判断基準をITを使って明確化し、それにより訴訟が簡便になったり、侵害を未然に防ぐことができないかと考えた。主要な3つの画像解析方法をもとに、判例の画像データを解析。標準化データの判別分析を行い、類似画像の判別が可能であることを確認した。