第21回 PARI政策研究会
2010年07月05日
今年は、APEC(アジア太平洋経済協力)の首脳会合が日本(横浜)で開催されることから、APECは最大の外交イシューになっており、様々な政策と関連を持ってくることが予想されます。今回は、APECの交渉官として活躍されている田村暁彦さんに、最新の動きや今後の展望についてお話いただきました。今後、政策ビジョン研究センターとして、今年日本で開催されるAPECの活動に協力していく予定です。
APEC2010における取組
田村暁彦/経済産業省 アジア太平洋経済協力(APEC)交渉官
政策ビジョン研究センター客員研究員(シニア・リサーチャー)
当日使用スライド
APECの特徴と経緯
APECは法的拘束力を持たないことが特徴である。最近の国際政治では、法的に強いレジームの中では多国間での合意ができない、クリティカルな課題について話がまとまらず、解決に結びつかないといった事態が出てきており、ソフトな枠組みを持つAPECが見直されてきた。
現在アジア太平洋地域の21の国・地域が参加している。中国、中国香港、チャイニーズ・タイペイが同時参加しており、国レベルでの外交問題には踏み込まないなど、トピックス上の制限がある。EUやインドは入っていない。APECは日本と豪州が主導して作られた枠組みであるが、その後アメリカがアジアに関与する観点から重視してきた。そのため、APECの動向は、アメリカの関与に影響を受けてきたところは多分にある。中国はアメリカを排除してアジアでまとまる、ASEAN+3が理想的と思っており、日本はインド・オーストラリアを含むASEAN+6を対抗馬に据えるなど、レジームをめぐる競争が続いている。
APECの歩み
APECが1989年に発足した背景には、GATTウルグアイラウンド交渉が一時暗礁に乗り上げたり、欧州が地域統合の動きを加速化するといった動きに、アジア太平洋地域としてどのように対応すべきか、という問題への対応が模索されたという事情がある。2001年、9.11同時多発テロや鳥インフルエンザなど地域の共通課題が出てきたことで、人間の安全保障に関する取組を強化する。2006年、東アジアの経済発展に伴い、アメリカが、アジア太平洋の自由貿易圏(FTAAP)構想を推進。2008年、世界経済・金融危機を契機として、貿易・投資等への関心が高まる。オバマ政権もアジアとの関係を重視、2011年の米国主催を控え、APECへの関心が高まっている。
節目となるAPEC2010 −3つの長期ビジョン−
議長国は毎年持ち回りで担当している。日本は1995年に担当して以来、今年が15年ぶりの開催。非拘束ではあるが、2010年は1994年に採択されたボゴール目標(2010年に先進国、2020年には途上国が、貿易投資を自由化しなければならないとされている)との関係で、大きな節目の年となっている。
今年は、ボゴール目標の達成評価に加え、長期ビジョンとして、地域経済統合の深化/成長戦略の策定/人間の安全保障の促進の3つの柱を掲げている。APECのビジョンを立て、横浜で合意することが最大の目標。
新たな成長戦略
今回APECとして初めて作成しようとしている成長戦略は、成長センターとなったアジア太平洋地域が、更に持続的に成長を遂げるための戦略であり、新たな成長パラダイムを含むもの。成長を追求していくに当たって踏まえなければいけない、5つの視点を盛り込んだ。5つの視点とは、均衡ある成長、あまねく広がる成長、持続可能な成長、革新的成長、安全な成長。日本国内の成長戦略とはかなり趣が違うが、ある意味日本のような国には商機に繋がるのではないか。パイの単純拡大を追求している状況よりも、質の高い成長を目指している市場環境の方が、日本の提供する財・サービスの優位性が評価される可能性が高いのではないか。
APECにおける成長戦略の悩みは、各国とも成長戦略について一人の大臣で全ての側面をカバーできないことにある。どういう意志決定メカニズムをAPECに構築するのかについては、模索状態が続いている。しかし、APECは、ソフトな枠組みで知恵を出し合って解決策を見つけていくナレッジシェアリング、あるいはアウェアネスレイジングを行う共同研究の知的プラットフォームとしては、最もふさわしいだろう。
人間の安全保障
「人間の安全保障」に向けた協力としては、食料安全保障、感染症、防災、テロ対策といった、各国・地域の直面する共通課題への対応を強化することが求められる。特に医療関係、工学関係はボーダーを超えたアライアンスを築くことへの要請がある。
9.11同時多発テロや鳥インフルエンザ等、地域の共通課題が出てくる中、APECは設立当初には想定していなかった多様な経済上の課題に対して、共同で取り組んできた。2010年はボゴール目標の見直しとともに、こうした大きな背景を踏まえて、持続的成長のためのアジェンダを再設定する必要性がある。