第27回 PARI政策研究会
2011/6/3
レアアースの確保戦略について
福田一徳氏(東京大学大学院農学生命科学研究科 特任講師)
当日使用スライド
報告の概要
レアアースは、ハイブリッド自動車など日本の「得意分野」に必須の原料となっているが、現在その生産は中国がほぼ独占している。それゆえ、中国のレアアース輸出規制強化などによって供給障害が発生するリスクが高く、レアアースを安定的に確保するための方策が求められている。
2010年秋に日本政府は、この問題への対処として「レアアース総合対策」を発表しており、代替材料・使用量低減技術の開発やリサイクルの推進、またレアアース利用産業の高度化や鉱山開発とその権益確保などといった諸政策を行っている。だがこれら施策の実施にあたっては、レアアースに特有の「難しさ」を乗り越えるための工夫が求められる。
レアアースに特有の「難しさ」とは、①レアアース(17元素の総称)が、多数の元素が同時に産出される資源であり、それゆえに「自然が与える」各元素の供給量と「産業活動の水準に伴って変化する」各元素の需要量の間に非常に高い確率で不均衡が生じること、②重希土類を産出する鉱床が限られること、③市場規模が小さいことなどにより需要見通しが立てづらいこと、④中国が非常に強い市場支配力を保持していることなどである。
これらの問題に対処するためには、広い意味でのレアアースユーザー(セットメーカーを含む)までが一体となって長期安定的に鉱山開発にコミットすることや、余剰が発生しやすい軽希土類の新規用途開発を行うこと、稀少性の高い重希土類に重点を置いて代替材料開発・使用量低減技術開発を進めることなどが重要になると考えられる。
報告を受けてのディスカッション
レアアースに関する論文の発表数は中国が大きな割合を占めており、学術的・技術的な分野においても中国が力をつけていることが示された。
また安全保障上の観点から、禁輸等のリスクに備えてレアアースを備蓄しておく必要性が提起され、それに対して、備蓄をするだけであれば数十〜数百億円程度の資金を投入すれば可能であるが、①市場への影響力を行使できるだけの量を持つこと、②市場の動きを見ながら適切なタイミングに機動的な積み増し・放出を行うことが重要であるとの考えが示された。
欧州経済の現状と新たな動きについて
二宮悦郎氏(財務省 財務総合政策研究所 主任研究官)
当日使用スライド
報告の概要
現在欧州は、リーマンショック以後の景気後退や財政問題への対応に苦慮している。なかでも、ギリシアやポルトガルなどのEU加盟国の急速な財政赤字拡大と累積債務の増大が問題視されている。これらの国はいずれも、金融危機以前の好景気においてバブル状態にあり、強いユーロを背景に海外から調達した資金をもとに高い経済成長を達成していた。しかし経済の過熱に伴う労働コストの上昇や、不動産価格の高騰と急落、さらには米国発の深刻な金融危機によって大幅な景気後退に陥り、経済対策のための財政支出を拡大させた結果、急速な財政悪化と累積債務の増大をまねいたのである。
これを受けて欧州とIMFは、ギリシア支援に1100億ユーロ、またユーロ圏の金融安定化のために最大7500億ユーロを用意し問題の解決をはかろうとしている。またG20等をはじめとする国際的枠組みの中で、金融規制強化や金融セクターの社会的責任確保など金融制度改革を実施する試みが行われている。
報告を受けてのディスカッション
EUの制度の基本には、相対的に裕福な国から貧しい国への所得移転があり、今般の景気後退によるユーロ下落によって、輸出が好調で経済的に潤っているドイツが、ギリシア等に対する支援にコミットするか否かが債務問題解決の鍵になるとの意見が出された。その一方で、EUの財政予算はEU全体のGDPの規模からみればわずかな額であるゆえ、EU内部での所得移転の影響は限定的なものにならざるをえないとの意見が出された。
また、通貨を統合する一方で、財政や金融は基本的に各国政府の裁量に委ねるというEUの制度的構造が今回の問題を拡大させたとの指摘があった。
さらに、累積債務が1000兆円に迫り、欧州以上に危機的状態にあるといえる日本の財政状況に対する懸念が示され、財政破綻を回避するための制度改革や危機に対する仕組み作りの重要性が指摘された。