国際会議 「東日本大震災後の東アジアを考える」

2011年12月10日

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開催の趣旨

2011年3月11日に起きた未曾有の大災害、東日本大震災後のDisaster Reliefについて、また震災が東アジアに与える影響について、元国連次席大使・北岡伸一教授の基調講演をはじめとし、外交実務の第一線で活躍しておられる実務家、政治家の皆様にご登壇いただき、それぞれに異なる重要な観点から論じていただいた。本国際会議は、東京大学、米プリンストン大学、北京大学、高麗大学、シンガポール国立大学の五校が提携して行った、非公開の五大学連合国際会議の一環として、参加者を募集する公開フォーラムとして行われ、すべて英語で開催された。

3.11後に寄せられた国際支援と課題

会議冒頭、本学の田中明彦副学長が会議参加者と協力校、助成への謝辞を捧げ、岩手県大槌町に置かれていた東京大学の海洋研究所も町とともに被災し、甚大な被害を受けたことを述べ、東京大学が3.11後、復興や災害対応・予防対策に関するさまざまな取り組みを立ち上げてきていることを紹介した。続いて、本政策ビジョン研究センター(PARI)の城山英明センター長が、国や地方自治体の政策にかかわる具体的な提案を行い発信しようとする本センター設立の趣旨を述べ、東日本大震災後にもPARIとしてさまざまな試みを行ってきたことを述べ、本フォーラムを成立させるための各方面からの支援について感謝の意が表された。

北岡伸一本学教授の基調講演では、東日本大震災後、いかに多くの国から支援が寄せられたかについて、謝意とともに、今後の国際協力に対してもつその意味合いが語られた。北岡教授は、国連次席大使として自ら外交実務に携わった経験も踏まえ、東日本大震災以前にも大災害に際しての国際協力は幾度も試みられてきたが、国際協力は決してたやすいことではないとした。国際協力には、協力する側の努力だけでなく、受け入れる側の度量や能力も必要とされるからである。そのうえで、今回の東日本大震災における日本政府の取組で明らかになった主な課題は、情報を国民に積極的に伝え、政府への信頼を確保することと、IAEAなどに対しより効果的な協力体制を築くなど、よりよい国際協力に向けて努力することの二点であるとした。

広報戦略の難しさ

つづいて行われたパネルディスカッションでは、まず内閣副広報官の四方敬之氏から、大震災前に新設された内閣官房国際広報室の室長として、3.11およびその後の国際広報に携わった経験が語られた。スタートして間もない国際広報室において人員が不足するなか、3月11日に大震災が起きた。甚大な被害が起きた大震災と津波に続く原発事故を受け、当初は国際的に日本に関する暗いストーリーやネガティブな側面に注力した報道の量が震災後の日本社会の規律や助け合いに着目するポジティブな報道の量を圧倒的に凌駕した。それにより、外国からの観光客の減少や食品輸出を巡る風評被害がもたらされたが、そのような状況を克服するための官邸における国際広報の取組につき紹介された。四方氏が直面した最も困難な課題は、一貫性のある広報、政府として統一され矛盾のない情報の提供と、そうした情報を、いかにスピード感を持って伝えるかという試みの両立にあったという。こうした経験から、同氏は例えば津波にたびたび見舞われているアジアにおいて、津波被害の経験とそこにおける学びを共有することが急務であり、また大災害などの危機においては政府の国際的なクライシス・コミュニケーションの能力増強や国際社会に対する情報の透明性及び説明責任確保が極めて重要であると結論付けた。

自衛隊による救援・復興支援活動と国際協力

続いて防衛省陸上幕僚監部人事部長の松村五郎陸将補から、東日本大震災への災害対応・復興支援活動で活躍した自衛隊の経験が語られた。大規模震災派遣および原発災害派遣に際しては、これまでにない規模で展開された自衛隊の人員が被災・事故地域に展開、人命救助や遺体捜索、復興支援活動、原発の事故収束のための活動に携わった。米軍による大規模作戦「トモダチ」では、統合支援部隊(JSF)による空母ロナルド・レーガンを含む手厚い援護が提供され、日米防衛協力のための指針(ガイドライン)が初めて適用された。オーストラリア、韓国などとも二国間防衛協力が実現し、震災対応に役立てられた。松村陸将補によれば、今回の大震災に伴う防衛協力は、安全保障分野全般に示唆を持ち、また役立つものであった。それぞれ異なる指揮体系や手順をもつ各国の軍が国際防衛協力を行うことは、相互理解を進展させ、透明性を高め、危機の際にプラスに作用するであろうし、対テロ対策などの協力に発展させうるからである。そして、松村陸将補は二国間防衛協力と多国間防衛協力を同時に実行することが効果的であり、多国間協力を進展させることが地域の安全保障に資すると結論付けた。

将来の危機に備えて

東日本大震災復興対策担当の総理補佐官を務める末松衆議院議員の報告では、まず今般の大震災と原発事故による被害と対応策がいかに甚大かつ長期的な影響を持つものであるかについて語られた。風評被害を伴う日本のイメージ、観光産業を含む産業全体へのダメージコストは甚大で、また被害は国内にとどまらず、原発事故による放射能汚染が国際的な広がりを持つこと、そして原発に関しては津波対策を含め安全対策を再検討・強化することが必要であり、その対策の合理性は今回の原発災害を受けて変化を迫られていることが語られた。さらには、今回の原発事故を受け、これまで日本が正面から取り組んで来たとは言い難いサイバーテロを含むテロリストによる原発攻撃の可能性を真摯に検討することが必要だとした。それに当たってはテロリストの視点から脆弱性を再検討し、訓練に取り組むと同時に対策にコストを割かなければならないとした。また、政府の信頼回復という問題に関しては、日本のメディアの報道の在り方にも責任の一端があるとした。末松総理補佐官は、最後に日本の経験は原発を抱える各国の共通の関心事項であり、今後各国が対策や教訓を共有し取り組むことが求められているとした。

日本の復興

最後に衆議院の安全保障常任委員会の委員長を務める東祥三衆議院議員から、東日本大震災を受けた日本の長期的な戦略全般についての報告があった。東氏は、東アジアに対して日本のなしうる最も大きな貢献は、日本の再興に他ならないとした。日本は世界三位の経済規模を持ち、アジアにおいて工業のサプライチェーンの重要な位置を占めている。東氏は、TPPへの参加をはじめとする日本の開国や日米同盟を核とした安全保障政策を通じ、中国が台頭しつつあるアジアにおいて、最も古いアジアの民主主義国である日本が安定をもたらす主要な柱となることが肝要であるとした。同氏は日本の衰退の先には国内外におけるみじめな将来が待っているとし、警鐘を鳴らした。そのうえで、「奪い合う」のではなく「分かち合う」ことに基づいた国内の復興をはかり、日本が国内の和と健全なナショナリズムに裏打ちされた大国として再び羽ばたくことを提言した。

日本と国際社会のかかわりを考える

四氏の報告に続き、コメンテーターを務めたプリンストン大学のロスマン教授が、国際社会は大震災の悲劇から学び、協力の機会を活かすことが肝要であると討論の口火を切った。民主国家は冷戦期ソ連の脅威に対して協同してあたったが、現在では民主国家を中心とした幅広い国家がインド洋の津波に対する復興支援などに協同して当たるようになってきている。日米の二国間協力は今般の大震災に伴う原発事故に対処したトモダチ作戦に見られるように深化しているし、災害対応を含む安全保障分野全般で各国間の協力が深まっていくべきだとした。大震災後には中国の一部で日本の衰退の見通しがささやかれ、韓国やロシアにおいて一部反日世論が見られたとの読売新聞による一連の報道があったが、ロスマン教授は日本が必ず復興すると信じているとし、全体として国際協力は進展し、地域の安全保障に資する結果ともなっているとした。最後に、日本の復興のためには、報告で述べられたようにTPPへの参加や国際社会への積極的なコミットメントを通じて前進していくことが肝要であるとした。

フロアでの討論に先立ち、司会の藤原教授が米国の寛大な支援やルース駐日大使による活動が日本における米国へのイメージを格段に良いものとしたとし、米国をはじめとする各国から寄せられた強力に感謝を述べ、五大学連合の各国研究者をはじめとする参加者に質疑・コメントを求めた。五大学連合の研究者からは、大震災と原発事故直後の日本の置かれた正確な状況が全く伝わってこなかったことを明かし、マニュアルが役に立たないような3.11のような災害に際し、どのように対処すべきか、また今後の各国の原子力政策について日本側の経験知を求める声が上がった。また、日本が受けた国際協力の大きさにかんがみ、今後のODA予算はどのように変化していく見通しであるかという疑問が提出された。また、中国の台頭の脅威や大震災で寄せられた中国からの協力などについては語られたが、全体としてみて今後の日中関係はどのように進展していくのかという疑問も上がった。

これらに対し、末松総理補佐官からはマニュアルを準備しうるリスクと、そうではない危機とは分けて考えるべきであり、原発や電力システムへのサイバーテロの防止が今後各国の取り組むべき課題であるとの回答がなされ。また、松村陸将補からは自衛隊の救援・復興支援活動に関しては、いつ民間主体の活動に引き継ぐかという、通常への復帰のタイミングが大きな問題であるとの認識が示された。ODAをめぐっては、大震災を受けて日本の財政が窮状にあることから一時的には低下せざるをえないだろうとの見通しが末松総理補佐官から示されたが、それに対して司会の藤原教授から、アフガニスタンからも国際協力が寄せられている現在こそが、日本にとってODAを増加させるべき時であるとの反論がなされた。最後に司会が東日本大震災への対応と国際協力について考えるこのような機会が重要であると述べ、報告・討論者、参加者への謝辞を述べて、閉会した。(文責:三浦瑠麗・特任研究員)