開催報告:第2回 医療イノベーションワークショップ

12/7/25

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医療機器分野における医療イノベーションの実現に向けて−前提と展望

Photo: Ryoma K

第2回の医療イノベーションワークショップでは、医療機器分野に焦点を絞り、規制面からイノベーションの推進について専門家の先生方に議論していただいた。

開会挨拶

林良造

東京大学公共政策大学院 客員教授


プレ・セッション
「医療機器分野における医療イノベーションのための基礎的な議論に向けて」

中野 壮陛

財団法人医療機器センター附属医療機器産業研究所 主任研究員
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パネリスト

浅野武夫

内閣官房医療イノベーション推進室 企画官
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片倉健男

国立医薬品食品衛生研究所生物薬品部先端医療開発特区(スーパー特区対応部門) 特任研究員
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佐久間一郎

東京大学大学院工学系研究科教授、独立行政法人医薬品医療機器総合機構 副審査センター長(医療機器分野)
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三村まり子

ノバルティスファーマ・ホールディングスジャパン 取締役法務・知的財産統括部長、弁護士
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山本晴子

国立循環器病研究センター研究開発基盤センター先進医療・治験推進部 部長
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Photo: Ryoma K

モデレーター

佐藤 智晶

東京大学政策ビジョン研究センター
特任助教


第2回医療イノベーションワークショップは、とてもシンプルな問いから企画されたものである。すなわち、医療機器の特性を踏まえた規制とはいったいどのようなものなのか。医療関連製品として、医薬品と医療機器が違うことは分かる。しかしながら、医療機器のための規制が医薬品と異なるとしたら、それは具体的にどのようなものか。

医療機器は、医薬品とは決定的に異なる製品であるために、医薬品ベースの規制が必ずしも機能するわけではない。まず、医療機器は医薬品とは違い、原則として医師の手技を介さずして効果を発揮することができない。また、医薬品よりも種類が極めて多く、部材から構成される。そして、比較的短いプロダクトサイクルで部材や設計を改良して、より使いやすく、有用な製品へと絶え間なく改善されていくことも、医薬品にはない医療機器の特性である。代替的な設計が存在しない医薬品では、化学物質を特定し、当該物質の用量に応じて臨床試験(またはそのシミュレーション)の結果を見るより安全性や有効性を知る術はないだろう。だからこそ、市販前にはいかなる製品でも一律に臨床試験が義務づけられているのである。医療機器にはそのような規制が馴染むのか、馴染まないとすればどのような規制がありうるのかについて、われわれは侃々諤々の議論をした。

我が国において医療機器の特性を踏まえて薬事法の改正を行う方向性が打ち出されたことは、歴史的にみて画期的なことである。政府が2012年6月6日に決定した「医療イノベーション5ヵ年戦略」では、医療機器の特性を踏まえた規制のあり方が検討項目として挙げられた。具体的には、医療機器の審査の迅速化・合理化を図るため、薬事法について医療機器の特性を踏まえた制度改正を行うとされている。米国では、1970年にまとめられた「Cooper Committee Report」に基づいて、1976年に医療機器規制のための法律が連邦議会で可決成立した。欧州では、1985年に市場統合の方向性が決定され、1990年代になってようやく医療機器規制のための3つの指令が、欧州委員会で段階的にまとめられた。日本も欧米と同様に、医療機器規制への道を間違いなく進んでいる。

医療機器の特性を踏まえた規制の前提を考えることは、スタートであって決してゴールではない。パネルディスカッションでは、医療機器分野の医療イノベーションの実現までの道のりがどうして長く、かくも険しいのかについて議論することができた。規制は必須だが、それはジグソーパズルのワンピースに過ぎない。しかも、ピースの形自体、われわれにとってはとてもユニークで、今までに見たことがないものなのである。たとえば、医薬品のように製品それ自体の安全性と有効性を確認しても、医療機器では十分ではないと考えられている。医療機器の場合には、製品が手技と相まって生み出す安全性と有効性こそより重要であるが、はたして製品規制に関する法令だけでそのような安全性と有効性を確保することがそもそも可能なのか。逆に言えば、医療機器にとって製品それ自体で確保されるべき安全性や有効性とは一体何なのか、それらをどのように評価すべきか、という難問に直面しているのである。仮にこの難問を乗り越えたとしても、科学技術の水準自体を高めるようなさらなる研究開発、医療機器使用の訓練、産業界だけでなく医師や患者を巻き込んだ議論、さらにはイノベーションに対する適切な評価なども必要になってくる。今後は規制以外のピースも含めて、医療機器分野における医療イノベーションの実現に向けた議論を続けてゆきたい。(佐藤 智晶 特任助教)

当日の様子(ビデオ全編)