第21回アジア太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF)サイドイベント
東京大学政策ビジョン研究センター 宇宙政策ワークショップ

開催報告 アジアにおける社会発展と宇宙法政策

東京大学政策ビジョン研究センター 特任研究員
永井 雄一郎

2015/03/25

【日時】 2014年12月3日 13:45-15:45
【場所】 東京国際交流館プラザ平成
【言語】 英語
【主催】 東京大学政策ビジョン研究センター (PARI)

プログラム

13:45-13:50 開会の挨拶 城山英明 東京大学政策ビジョン研究センター教授
13:50-15:15 セッション1 アジアにおける宇宙法政策
城山英明 東京大学政策ビジョン研究センター教授 発表資料
ムクンド・ラオ インド国家高等研究所(NIAS) 客員教員 発表資料
グルナラ・オマロバ カザフスタン宇宙物理研究所 上級研究員 発表資料
オルガ・ヴォリンスカヤ ロシア連邦宇宙局(ROSCOSMOS) 発表資料
15:15-15:45 セッション2 パネルディスカッション「アジアにおける社会発展と地域宇宙協力」
モデレーター
 城山英明 東京大学政策ビジョン研究センター教授
パネリスト
 ムクンド・ラオ 国家高等研究所(NIAS) 客員教員
 グルナラ・オマロバ カザフスタン宇宙物理研究所 上級研究員
 オルガ・ヴォリンスカヤ ロシア連邦宇宙局(ROSCOSMOS)

Photo: Izawa Hiroyuki

2014年12月3日、東京大学政策ビジョン研究センターは、「アジアにおける社会発展と宇宙法政策」をテーマに国際ワークショップを開催した。このワークショップは、外務省「外交安全保障調査研究事業費補助金」の支援を受け、東京で開催された第21回アジア太平洋地域宇宙機関会議(Asia Pacific Regional Space Agency Forum: APRSAF)のサイドイベントとして企画されたものである。本ワークショップの概要は、以下の通りである。

はじめに

近年、アジアでは宇宙活動が活発化している。多くの国が、様々な目的に基づいて宇宙活動を行うようになっており、各国では宇宙法や宇宙政策の発展も見られる。それに伴い、地域における宇宙協力を通して、アジア地域社会の発展を促進していく新たな機会も生まれている。

今回のワークショップでは、アジア太平洋地域の宇宙法政策分野の研究者をお招きし、宇宙の社会利用に関する各国の政策について情報共有を図るとともに、共通利益に基づく地域宇宙協力の可能性について議論した。

第1セッション アジア太平洋地域における宇宙法政策

日本の宇宙政策とガバナンス

城山英明 東京大学政策ビジョン研究センター教授

城山英明東京大学政策ビジョン研究センター教授による開会の挨拶に続き、セッション1ではアジア太平洋地域における宇宙の社会利用に関する各国の政策についてプレゼンテーションが行われた。まず城山教授が日本の宇宙政策について報告を行った。概要は以下の通りである。

宇宙利用は、日本の宇宙政策にとって重要な目標の一つとなっている。アジア太平洋地域においても共通利益に基づく地域協力が重要な分野である。

日本では、2008年の宇宙基本法制定によって、研究開発から利用拡大へ宇宙政策の目標が大きく転換した。近年では、安全保障面での宇宙利用の拡大も重視されるようになっている。近年の宇宙関連予算の推移を見ても、情報収集衛星を運用する内閣官房も含め、防衛安全保障関連予算の割合が増えている。また内閣府は、自然災害への対応など広義の安全保障も含む様々な分野での宇宙利用の拡大に関心を持っており、宇宙戦略室や宇宙政策委員会を設置するなど、日本の宇宙政策過程において中心的役割を果たすようになっている。

今日の日本の宇宙政策は、測位衛星、通信・放送衛星、リモートセンシング衛星、宇宙輸送システムを重要な社会インフラと捉えている。これらの宇宙システムの潜在的な社会ニーズは、測位、交通管理、災害管理、農業、土地利用、通信、気象予測、環境・海洋保全、監視、情報収集など多岐に亘る。しかし、研究開発ベースの衛星では多様な社会ニーズに対応することは難しい。例えば、リモートセンシング衛星では、データの継続性やデータポリシーの整備が必要となる。一方、技術面では小型・超小型衛星の利用可能性が広がっている。例えば、東京大学ではHODOYOSHI衛星プロジェクトが進められている。今後はこうした小型・超小型衛星の利用可能性も視野に入れた利用戦略が必要になるだろう。

近年では、日本の宇宙産業の適切な発展のため、宇宙活動法制定の必要性が強く認識されるようになっている。宇宙活動法は、民間セクターによる宇宙活動にライセンスを与えたり、損害賠償制度を明確にしたりすることによって、政府と産業界との責任分担を明確にすることを目指すものである。このような措置は、宇宙ビジネスの予測可能性の改善、事業マネジメントの安定性、事業リスクの低減に貢献するものである。宇宙活動法の制定における重要な論点の一つは、JAXAの役割である。一方では、JAXAも規制のもとにある宇宙機関と捉えることができる。しかし、JAXAは宇宙産業の発展を支える役割も担っている。さらに、JAXAは、潜在的には商業宇宙活動の規制を支える組織でもありうるのである。日本においては、JAXAのみがこうした専門的知識を持つからである。JAXAのどの側面が強調されるべきであり、こうしたJAXAのいくつかの機能はどのように調整されるべきであるか。これは、日本の宇宙活動法の制定における重要な課題の一つである。

最後に国際宇宙協力の側面を見てみると、グローバルなレベルでは、日本は様々な国際的宇宙協力の枠組みに貢献してきた。国連宇宙空間平和利用委員会、全球地球観測システム(GEOSS)、国際宇宙ステーションなどはその代表である。アジア太平洋地域における国際宇宙協力でも重要な役割を果たしている。日本は、20年以上に亘り、アジア太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF)を牽引し、センチネルアジア1のようなイニシアティブでは積極的に貢献してきた。また、アジア太平洋地域は、漁業、農業、海洋安全、災害対応等の分野で宇宙利用の可能性が広がっている地域でもあり、日本はこの地域における宇宙利用の促進にも関心を示している。

Indian Space Policy for Technological and Social Development

Dr. Mukund Rao, National Institute of Advanced Studies (NIAS), India

続いて、インドの国家高等研究所(NIAS)のMukund Rao博士が、インドの宇宙政策について報告を行った。概要は以下のとおりである。

インドでは、1970年にVikram Sarabhaiによって、宇宙活動のビジョンが示された。それは、「国家発展のための宇宙」という考え方であり、インドの宇宙活動の主要な原動力となった。

農作物やエネルギーなどの天然資源管理、自然災害への対応などは、インドの宇宙政策の重要な目標の一つである。またインドの宇宙政策では教育面での利用も重視している。衛星通信は、政府や社会の重要なインフラの一つとなっており、遠隔教育などに活用されている。測位衛星は、国家の測位サービスやナビゲーション・サービスへの需要を作り出している。その他の宇宙政策目標としては、宇宙科学や防衛安全保障が含まれる。加えて、近年では有人宇宙活動に関する研究も開始されている。

インドでは、首相のもとに宇宙省(Department of Space)が置かれており、宇宙計画のマネジメントの中核を担っている。また宇宙省長官は、インド宇宙研究機関(Indian Space Research Organization: ISRO)の長官としての顔ももっている。この点は、インドの宇宙政策ガバナンスの大きな特徴の一つである。ISROのもとには、宇宙輸送機、衛星、宇宙アプリケーションなど、個別の宇宙活動あるいは技術に関わるセンターが複数設置されている。ISROと大学との連携も強い。さらに宇宙省は、宇宙活動の商業活動主体としてアントリックス(ANTRIX)社という企業を保有している。加えて、インドでは、ハイレベルな宇宙政策の調整メカニズムとして、宇宙委員会が設置されている他、利用省庁との調整メカニズムも備えている。

インドでは個別の宇宙利用政策に関する政策が整備されている。第一に、1999年に策定された衛星通信法は、その一つである。この政策は、インドにおける衛星通信の利用を成長させた。また、リモートセンシング・データ政策もそのような政策の一つである。この政策では、リモートセンシング衛星のデータ利用について規定している。

また、現在の国家の五カ年計画(2012年〜2017年)では、より高性能な解像度をもつ画像能力の発展、太陽系に関する宇宙科学ミッションや惑星探査、新たな宇宙輸送システムの開発、さらには再利用型宇宙輸送システムや有人宇宙プログラムの研究などが目指されている。しかしながら、現在インドには包括的な宇宙政策文書がない。インドは、国家として宇宙にコミットしていくための包括的な宇宙政策文書を示す必要がある。

特に、以下の点を考慮することが重要であろう。一つは、衛星サービスである。通信衛星やリモートセンシング衛星の分野では、長期に亘って継続的なサービスが行われることが求められる。政府は、こうした衛星サービスを継続的に提供することを示す必要がある。惑星ミッションの観点も必要である。惑星ミッションは、10年、20年、30年先を見る必要がある。こうした活動には、将来設計や長期の投資計画に基づく継続性なコミットメントが不可欠である。宇宙輸送システムも同様であり、将来の輸送システムも含め、その技術と能力の維持と発展を図っていく事は国家にとって重要である。こうした宇宙計画は大きな投資を必要とする。だからこそ、どのような利益が生まれるのかという視点からも正当化を行っていく事が欠かせないのである。

Space Policy in Kazakhstan

Dr. Gulnara Omarova, Astrophysical Institute, Kazakhstan

次に、カザフスタンの宇宙物理研究所のGulnara Omarova博士が、同国における宇宙政策について報告した。概要は以下の通りである。

カザフスタンの宇宙政策には、いくつかの鍵となる要素がある。第一に、地政学的要素である。カザフスタンは、冷戦時代にはソ連の一部であった。それゆえ、ロシアや他のCIS諸国との強い絆がある。一方で、カザフスタンはアジアの一部でもあり、例えばAPRSAFにも参加している。第二に、経済的要素である。カザフスタンでは、国家経済の様々な分野において宇宙利用を拡大していくことが重要になっている。第三の要素は、インフラである。カザフスタンは、バイコヌール宇宙基地をはじめ重要な宇宙インフラを保有している。第四に、知的要素も重要である。カザフスタンには高い教育を受けた研究者、宇宙研究機関、優秀な技術系大学、宇宙企業などがある。最後に、法的側面もカザフスタンの宇宙政策にとって重要である。カザフスタンは、宇宙条約を含む国際宇宙法の下にあるとともに、日本、ロシア、インド、欧州諸国等と多くの二国間協定を結んでいる。

カザフスタンの重要な宇宙資産としては、通信衛星がある。これまでにKazSatと呼ばれる通信衛星を打ち上げてきた。2014年にもバイコヌールから3号機が打ち上げられた。また、KazEOSatという地球観測衛星も現在2機保有している。1号機は、2014年にフランスがギアナに持つ射場から打ち上げられた。

歴史的背景を振り返れば、冷戦時代、ソ連の宇宙政策は冷戦政策の一部であった。そして、カザフスタンのバイコヌール宇宙基地は、ソ連の宇宙インフラの主要な要素であった。バイコヌールは、1957年の世界初の人工衛星打ち上げ以来、ソ連の宇宙活動の歴史の中で欠かすことの出来ない役割を果たしてきた。ソ連の崩壊後、1991年〜1993年にかけて、バイコヌールの法的位置づけがロシアとの間で議論され、1994年には両国の間で二国間協定が結ばれた。この協定によって、バイコヌール宇宙基地は、国際宇宙ステーション計画にとって欠かせない要素となった。

近年では、カザフスタンの宇宙政策およびガバナンスは、非常に発展を遂げている。2007年、政府は宇宙が国家にとって非常に重要であると認識するようになり、初の宇宙計画を策定するに至った。また2007年には、国家宇宙機関がアスタナに設立された。以来、カザフスタンでは、宇宙計画の発展が見られ、予算も徐々に増加している。2014年8月には、行政改革の一部として、国家宇宙機関は投資開発省(Ministry of Investments and Development)のもとに置かれることになった。投資開発省は、カザフスタンの科学技術開発にも責任を持つ省である。また、投資開発省の宇宙委員会は、今日のカザフスタンの宇宙政策において主要な役割を担っている。

カザフスタンの宇宙政策目標は、第一に、宇宙活動分野における能力の発展である。カザフスタンは、現在5機の人工衛星を保有しており、国家経済においてさらに宇宙利用を促進していく事が求められている。第二に、国際協力を通じて宇宙技術の移転を促進していくことである。国際宇宙協力の分野では、2010年以降、JAXAと宇宙科学、地球観測、衛星通信、衛星測位の分野における宇宙利用の拡大のために協力している。第三に、宇宙科学を追求していくこともカザフスタンの宇宙政策の重要な目標である。歴史的に、カザフスタンには非常に優れた科学者がいる。そして最後に、国のポジティブなイメージに貢献することもカザフスタンの宇宙政策に重要な要素である。

アジア太平洋地域では、宇宙政策研究の発展が求められている。研究者間の相互協力の促進、APRSAFにおける宇宙政策議論の拡充、そして「アジア太平洋地域宇宙政策研究所」の設立は、地域の宇宙活動・宇宙利用の発展にも貢献できるものと考えられる。

Recent Developments of Space Policy in the Russian Federation

Ms. Olga A. Volynskaya, the Federal Space Agency (ROSCOSMOS), Russia

最後にロシア連邦宇宙局(ROSCOSMOS)のOlga Volynskaya氏が、ロシアの宇宙法と宇宙政策について報告した。概要は以下の通りである。

ロシアは、ヨーロッパの一部であり、アジアの一部でもある。ロシアがどの世界に属しているかという問題は、常に生じるものである。そして、最後には独自の道を歩む国であることが重要だという結論に達する。これは宇宙においても重要なことである。

ロシアでは、大統領が宇宙政策体制のトップに存在する。大統領は、立法、行政、司法のいかなる分野の権力機構にも属さない。いわば全ての権力機構の監督者である。宇宙活動の分野においては、ロシアにおける宇宙活動の目標や主要なターゲットを定める権限を持っている。次に、ロシア政府である。ロシア政府は、大統領によって示された目標をどのように実行するか、より明確な規制を与える。そして第三層に位置するのが、ロシア連邦宇宙局(ROSCOSMOS)である。ROSCOSMOSは、宇宙の民生利用に責任を持っている。

ロシアの宇宙法の中核は、ロシア憲法である。ロシア憲法は、1993年に国民投票によって制定された。ロシア憲法は、宇宙法あるいは宇宙活動全般にとって非常に重要な二つの条項を持っている。第一に、宇宙活動はロシア連邦の絶対的権威であるというものである。全ての宇宙関連の問題は、国家の最高レベル、すなわち連邦レベルにおいて扱われることを意味している。第二に、ロシアが加入している国際法や条約などの原則は、ロシアの法制度を形成しているということである。つまり、国際宇宙法は、同時にロシアの宇宙法でもあるということである。

ロシアの宇宙政策の基礎は、1993年に策定された宇宙法(The 1993 Law of the Russian Federation “on Space Activities”)である。この宇宙法は、前文において、「経済、科学、技術の発展、ロシア連邦の防衛と安全保障の強化、そして国際協力のさらなる拡大」を謳っている。この包括的な目的のもと、様々な政策文書が詳細を定めている。近年のロシア宇宙政策に関する文書では、特に宇宙の商業化という方針を重視している。現在、ロシアの宇宙産業は大きな変革と再編の最中にある。こうした変革と再編の目的も最終的には宇宙産業の商業化をさらに推し進めることと密接に関連している。

個別の宇宙アプリケーションの分野では、通信、放送、中継衛星、リモートセンシング衛星など実に多くの宇宙資産を利用している。ロシアのGLONASSシステムは、最も重要な宇宙プロジェクトの一つであり、世界でも良く知られている。現在、GLONASSは世界的なカバレッジを持つようになっている。その利用可能性は、輸送、通信、データ送信、パーソナルナビゲーション、エネルギー、地球科学、災害対応や土地管理、農業、地質学など実に多くの分野に広がっている。さらにロシアでは、実に興味深い宇宙の実利用が行われている。それは、宇宙を利用した水力発電所(space hydropower station)である。ロシアのニジネカムスク(Nizhnekamsk)にある水力発電所では、各所に設置されたセンサーが宇宙サービスセンターとの通信を介して、水力発電所の状況をモニター・管理している。またロシアの宇宙産業が運営するものとして、宇宙を利用して橋の管理や鉄道の管理を行うものもある。またGLONASSシステムを利用して輸送管理を行う地域もある。

宇宙開発の父と呼ばれるコンスタンチン・ツィオルコフスキーは、ロケットそれ自体は目的ではないと述べた。本当の目的は、人々の生活をより良くすることなのである。この言葉は、ROSCOSMOS、ロシア政府、そして大統領の宇宙活動における信念となっている。我々は、これを常に考えるべきであり、本当の目的や究極の目標を見失ってはならない。宇宙は、宇宙それ自体を目的とするのではなく、まず人々のためであり、国家の社会経済利益のためであり、人民の福祉のためなのである。

第二セッション パネルディスカッション 「アジアにおける社会発展のための地域宇宙協力」

本ワークショップでは、各スピーカーのプレゼンテーションに続き、パネルディスカッションが行われた。このパネルディスカッションでは、各国の宇宙政策動向を踏まえ、アジア太平洋地域における社会発展のための地域宇宙協力の可能性を議論した。モデレーターは、城山英明東京大学政策ビジョン研究センター教授が務めた。

城山:このパネルディスカッションでは、2つのテーマについて議論したい。今日、多くのプレゼンレーションが、宇宙アプリケーションや宇宙利用について触れていた。そのいくつかは、協力の可能性を持ち得るものである。各パネリストが、こうした分野での宇宙協力をどのように考えているか、これが一つ目のテーマである。もう一つは、このような協力によってどのような相乗効果が生まれるかである。各国の宇宙政策は、異なる段階にあり、また異なる特徴を持っている。このような「違い」は、協力による相乗効果を生み出すかもしれない。これが第二のテーマである。

Rao:インドの最大の関心は、宇宙の商業化がどのように行われるかという問題だろう。産業的側面における協力というのは一つのテーマであると思う。また、有人宇宙飛行や惑星探査の分野である。これは世界中の人々の関心事である。さらに、災害や気候変動の問題もまた世界共通の関心事である。おそらく、世界中の宇宙機関がこのような問題に取り組んでいるのではないだろうか。こうした世界共通の課題への対応は、潜在的な協力分野となると考えられる。

Omarova:将来の協力を考えるとき、カザフスタンの視点からみれば、我々はインフラを共有することができる。例えば、バイコヌール宇宙基地の国際化である。また宇宙探査の分野における協力も可能だろう。カザフスタンには、宇宙科学の分野において優れた能力がある。そして、何より、アジア太平洋地域においては宇宙政策および宇宙法の発展に関する協力が強化されるべきであると考えている。

Volynskaya:宇宙の商業化や産業化は、今日の宇宙政策の重要な要素になっている。こうした産業化や商業化のプロセスを管理するシステムを検討するとき、我々はパートナー国や隣国におけるそのようなシステムのレベルを検討する必要がある。この観点から、宇宙商業化における協力は重要な視点である。またロシアにおける新たなロケット打ち上げ場に関する協力の可能性も指摘したい。現在、中国との国境近くにあるボストチヌイには新たな宇宙基地が建設されている。バイコヌール宇宙基地がデュアルユース目的で利用されるのに対して、ボストチヌイ宇宙基地は純粋に民生目的に利用される。これはアジア太平洋地域における政治家や科学者の関心を集めるだろう。また、有人宇宙飛行分野における協力も促進されるべきである。現在、ロシアでは新たな次世代宇宙輸送システムのコンセプトが議論されている。さらにロシアの観点からみれば、GLONASSの利用における国際協力の拡大も重要であろう。

城山:システムマネジメントは、面白い協力分野であると思う。これまで日本では、欧州や米国との間で確立された協力関係を維持してきたが、こうした新たな分野での協力には新たな形態の協力関係が必要になる。

また、ロシアでは冷戦時代より受け継がれてきた非常に確立された宇宙開発体制を保有している。しかしながら、その労働力は非常に高齢化しているという問題もある。したがって、ロシア国内にも技術移転の問題がありうる。この観点から、他国との相互補完性をどのようにつくっていくかという点も指摘できるだろう。おそらく、インドは若い世代が牽引しているように思う。日本も同様だが、高齢化の傾向も見られる。それぞれの国は、宇宙活動に従事する労働力という視点からみても異なった特徴をもっている。こうした国々の間での労働力の相互補完や技術移転の問題を考えてみることもできるだろう。

また日本では、宇宙と海洋との連携が議論されている。日本では、宇宙と海洋は実に類似したガバナンス体制をもっている。多くの省庁が関与し、民間企業が関わっている点も似ている。そして、宇宙は海洋の安全や資源管理において重要なツールの一つでもある。こうした海洋ガバンンスと宇宙というテーマも議論してくべきだろう。

脚注

  1. センチネルアジアは、アジア太平洋地域の自然災害の監視を目的に、JAXAの提唱によって2006年に始まった国際協力プロジェクトである。地球観測衛星などの宇宙システムを活用して得た災害関連情報を共有し、防災や災害対応に役立てることを目的としている。