ワークショップ
ミャンマーと大メコン地域(Greater Mekong Subregion, GMS)における電化の将来
開催報告
2016/3/2
開催概要
【日時】 | 2016年1月28日(木)13:30-17:30 |
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【場所】 | 東京大学本郷キャンパス 伊藤国際学術研究センター3階 特別会議室 |
【言語】 | 英語 |
【主催】 | 東京大学政策ビジョン研究センター (PARI) |
【後援】 | 東アジア・アセアン経済研究センター (ERIA) |
プログラム
開会挨拶 坂田 一郎 東京大学 政策ビジョン研究センター センター長、工学系研究科教授 |
キーノートスピーチ 芳川 恒志 東京大学 公共政策大学院/政策ビジョン研究センター 特任教授 |
"Social Issues in Based-load Power Plant Development in Thailand" ティティサック ボーンプラモート チュラロンコン大学 鉱業石油工学専攻長、講師 |
休憩 |
キーノートスピーチ(オンライン) ダニエル カンメン UCバークレー エネルギー資源グループ教授、バークレー環境学会 共同ディレクター、再生可能・適正エネルギー研究室創立室長 |
“Removing Social Barriers in Myanmar: Lessons from China” 山口 健介 チュラロンコン大学 研究員 |
“Distributed-renewable scenarios for rural electrification: a preliminary analysis” 杉山 昌広 東京大学 政策ビジョン研究センター 講師 |
“Tools for Integrated Energy Planning in Borneo, Southeast Asia” レベッカ シャーリー UCバークレー 研究員 |
“Building Energy Resilience in the Greater Mekong Subregion” ノア キトナー UCバークレー、博士課程学生 |
ディスカッション モデレーター 芳川 恒志 特任教授 |
閉会挨拶 芳川 恒志 特任教授 |
開催報告
昨年12月、パリで開催されたCOP21において地球温暖化の抑制を目指す「パリ協定 」が採択されるなど持続可能なエネルギーシステムへの関心は世界的に高い。中国をはじめとする「新興国」経済の先行きに関して不透明感を増す中、ASEAN、とりわけメコン地域(GMS)に対して注目が集まってきている。GMSは、日米両国にとっても外交的また経済的観点から関心の高い地域となっている。PARIとRAELの両チームの研究成果を踏まえて、今後の協力のあり方等について議論することを目的として、2016年1月28日PARIとRAELは共同ワークショップを行った。
坂田政策ビジョン研究センター(PARI)センター長から、冒頭の挨拶としてPARIの目指すところ、PARIが行なってきた東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)との共同研究事業の意義等の説明があった後、PARI芳川特任教授から、これまで行なってきた研究と活動の概要、現状及び主要成果、今後の研究及び活動の方向性等について発表があった。また、カリフォルニア大学バークレー校、再生可能・適正エネルギー研究室(Renewable and Appropriate Energy Laboratory, RAEL)室長Kammen教授は、出張先のニューヨークからスカイプで参加し、メコン地域が東アフリカと並んでアメリカ合衆国国際開発庁(United States Agency for International Development, USAID)の重点地域となっていることを踏まえ、小規模グリッドを複数繋ぐ事を通じたメコン地域内における大規模な低炭素グリッドシステム実現の可能性を指摘した。
東京大学はこれまでチュラロンコン大学エネルギー研究所(ERI)と共同して、GMSの情報収集に努めてきた 。ERIティティサック学科長は、タイ社会内における火力発電の現状について説明した。いうまでもなく、火力発電は基幹電源であり、調整電源として期待される再生可能エネルギーにより代替されるものではない。ところが、再生可能エネルギーの発電コスト低減と環境意識の高揚を背景として、再生可能エネルギーを望む声が市民社会に高まっており、電力安定供給と言う観点から憂慮すべき事態となっている。社会の多様な利害関係者と共に誤解を解きあるべきエネルギーシステムを議論するに当たり、中立的な第三者機関による科学的データの蓄積と開示が今後必須となる点が強調された。
こうした第三者機関の1つの候補として、大学が貢献すべき余地があることは言を俟たない。PARIはERIとともにステイクホルダーミーティング(利害関係者会議)を定期的に行い、ミャンマーにおける大規模水力発電について検討を続けてきた。ERI山口客員研究員がこの成果を発表したが、ミャンマーにおける大規模水力発電の最大の問題は、地元住民へのベネフィットシェアリングが十分行われないままに、プロジェクトの許認可が行われている事実である。このベネフィットシェアリングのあり方を議論せずに市民の理解が得られる事はないと思われる。こうした大規模水力の課題を踏まえた時、マイクログリッドの可能性が追求されるべきである 。この点こそが、これまでの世界銀行等の地方電化計画で見落とされてきたポイントである。PARI杉山講師は、通常のグリッド延伸と比較した際の、マイクログリッドのコスト競争力について、これまでの分析結果を説明した。
他方、RAELでのマレーシア、ボルネオ島のサラワク州、サバ州での取り組みをRAELシャーリー研究員が発表した。サラワク州のケースでは、エネルギー需要を供給計画が上回っていることを指摘し、大型水力発電の生物多様性への影響を示した上で、再生可能エネルギーによるマイクログリッドが最適な電源構成となったことを示した。これらの研究結果は地方政府との会合でも発表され、大型ダム計画の見直しの気運の高まりにつながった。また、ラオスにおける同様のマイクログリッド研究をRAELキトナー研究員が展望した。電力輸出による外貨獲得を国策とするラオスでは、今後ますます大規模電力システムへの投資が進むことが予定されている。この大規模電力システムと比較した時に、マイクログリッドシステムが持つ長所・短所を環境/経済的側面から分析する事が必要となる。
小規模グリッドを複数繋いで融通出来れば、大規模な低炭素グリッドシステムが実現できるかもしれない。これまでRAELではマレーシアに加えて、インドネシア及びアルバニアで複数のマイクログリッドシステムの連系による融通モデルを検討してきた。ただし、実際の融通にあたっては、政治的な側面も多分に含まれ、解決策を技術的側面のみから提示することで実効性は担保出来ない。更にメコン地域において国境をまたぐシステム連結を目指す場合、最近の中国の動向も踏まえた国際関係も考量範囲となる。ローカル・ナショナル・リージョナルのマルチ・スケールの中で、システム間のコネクティビティを位置付ける極めて困難な作業が想定される。こうした点を踏まえて、PARIでは3月25日にバンコクERIで地域の関係者と会合を持ち、7月以降の本格的なRAELとの共同研究に備える予定である。
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