「つながり」の視点で復興を
この記事は日刊工業新聞「オピニオン/主張/地域・企業ネット再構築」に2011年6月20日に掲載されたものです。
坂田一郎 教授
東日本大震災を受け、"つながり力"が問われている。個人のつながり、企業間のネットワークなど、つながりの重要性が再認識させられた。つながり、いわゆるネットワーク(つながりの束)を通じて、幸福や信頼といった人の感情、貴重な情報や知識、部品や材料といった多様なものが伝わり、構成員同士が深く影響を及ぼし合うー。今後の復興活動には、つながりの再構築という視点こそが求められてくる。
次は雇用の場再生
大震災後、注目が集まったつながりの一つは、地域コミュニティー内の個人のつながりである。都会では「孤独」が叫ばれているが、地方では近隣意識が残り、物心ともに支え合いが行われてきた。今回の復旧・復興に際しては、阪神淡路大震災の教訓を生かし、できるだけ、つながりを維持した形で避難や仮設住宅への入居を進めようとしている。
つながりを重視した措置は、被災者の生活支援の質と、精神面のケアへの貢献という面で高く評価できる。今後は「雇用の場」をできるだけ早く再建することによって、働き手が域外に流出することを食い止めることが重要となってくる。高齢化が進む東北地区だけに、ネットワークの機能を維持するためには、年齢構成のバランスが重要であるからだ。
企業の取引ネットワークの再構築も欠かせない。今回の大震災では、多くのモノづくり企業が被災し、ネットワークがあちこちで寸断された。海外も含め、電子、電気、自動車などの生産活動が尽大な影響を受けている。これは近年、最終製品の組み立てよりも、付加価値の高い部品・材料産業の発展と輸出を重視してきた成長戦略の帰結でもある。
被災中小支援急げ
つながりの復旧で注意すべきは中小・零細企業だ。すでに大企業に関してはかなりのスピードで、切れたつながりの復旧が進められているが、中小・零細企業の復旧は依然として、大きな課題として残っている。「ネットワークのほころびを紡ぎ直す」との視点に立った、被災企業支援策が必要である。資材や資金、人員が限られている中で、早期復興を実現するためには、経済社会の支え役となっているネットワークをまず対象にすることだ。その上で、「出荷先企業が多い」とか「代替がきかない」という重要な企業から先に復旧することが必要である。こうした戦略的復旧によって”モノの流れの動脈”の迅速な機能回後が期待できるはずだ。
今後は、”つながり力”を高めるため、個々の企業だけでなく、ネットワークをひとつの単位として事業継続計画(BCP〉を準備する必要性もある。これもつながりの頑健性を高める一因になるだろう。