アジアにおける技術開発の現状
日経CNBC「ASIAエクスプレス」 2011/02/04(金)18:00〜18:25 生放送
坂田一郎教授 出演
経済成長における研究開発の重要性
研究開発は、一般的には市場で高い価値を生み出す源泉を生み出すものと理解されています。アイディアや創意工夫も重要ですが、科学技術研究がなければ世界市場で勝ち残れません。
日本越え
アジアにおける先端技術の研究開発は、世界の成長センターとしての地位を固めつつあります。従来アジアはものづくりの成長センターでしたが、現在は科学技術でも成長センターになっています。注目技術である再生可能エネルギー研究では、世界のトップ5にアジアが3カ国入っています。太陽電池では中国が世界第4位、インドが5位であり、燃料電池では中国が2位、韓国が5位に入っています。
中国は科学技術投資を政府が積極的に進めています。1つは大学の強化です。世界レベルの大学を国内にたくさん作り、アメリカから大量の留学生を呼び戻しています。先進国に比べ、大学に厳しい成果主義が課せられているとも言われています。短期的成果を追い求めると基礎的研究が弱くなります。現在、NatureやScienceなどトップジャーナルでは日本が圧倒的に強い状況です。しかし、応用分野では急速に日本を追い上げ、あるものでは上回っています。これから中国も基礎研究に力を入れてくるでしょう。
研究投資について日本と中国は逆の傾向がありました。日本は政府の投資が少なく民間の研究開発が強いですが、中国は政府、大学に偏り、企業はあまりお金お投じていませんでした。ところが近年は民間の開発能力が上がり、政府のGDPに対する研究開発費用額も向上して、日本に近いところまで来ています。
従来日本は技術力で優位に立ち、その技術を移転する関係でしたが、これからは水平な関係を築く必要があります。アジアの人材も積極的に取り組み、日本の成長の中に入ってもらう覚悟、考え方の変更が必要です。
高まる競争力
太陽電池、燃料電池、二次電池、スマートグリットといった先端技術分野は、学術と産業技術の距離が非常に近い傾向にあります。将来の太陽電池といわれる有機太陽電池、色素増感型太陽電池等ができると、様々使い方ができます。この分野での学術研究は中国も含めて盛んに行われています。中国が力を入れている科学技術投資はまだ顕在化していませんが、将来十分に出てくると考えていく必要があります。
中国の基礎体力は上がっています。従来のコスト競争力に加え、品質、性能、安定性でも競争力が高まっていくと考えて競争、協調していくことが必要です。大国の一角に組み込みつつあるアジアの科学技術力として、中国、香港、台湾、シンガポール、インド、韓国と協調していくことも必要になってくるでしょう。
移転・空洞化
企業が生産拠点を海外に移してきたように、研究開発拠点もアジアに移すと、産業の空洞化を生む結果になると心配する声が多くなっています。これは2つに分けて考える必要があります。1つは市場向けの応用開発。もうひとつは基幹的な部分を開発する基礎研究です。応用開発はデザインや機能の変更が中心になり、これは市場に引っ張られて現地に移らざるを得ません。問題は基幹的研究開発をいかに日本の中に長く残せるかです。
日本の強みとしてあるのは、依然として物理・化学を始めとした基礎的科学技術力です。もうひとつは安全安心、ものづくりの中で鍛えられてきた技能とそれを支える科学技術です。市場ができたものは、将来は開発も含めて海外に移らざるを得ないでしょう。それと同時に新しいものを日本で初期段階から開発していくことが必要です。アメリカに行けば優秀な人材は将来、経営トップ、研究者トップになれます。日本でも同様の環境を提供しないとそうした人材は入ってこないでしょう。
関連リンク(坂田一郎教授)
台頭するアジアの科学技術研究 域内の協力進めよ (日経経済新聞「経済教室」 2011/1/13)
Policy Issues / アジア研究共同体の時代 2010/05/27
Internatinal collaboration in Renewable energy (国際学会発表論文/英語)