「環境省 再生可能エネルギー新戦略 発電能力6倍に」について
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東京大学政策ビジョン研究センター教授
坂田一郎
我が国は、現在、エネルギー効率化と再生可能(自然)エネルギーへの取り組みを加速させる必要性に迫られている。
このうちエネルギー効率化については、需給に与える影響度という意味で、世界的にみても再生可能エネルギーの可能性を上回るポテンシャルを有しているが、我が国は「節電」に関し、東日本大震災以降の短期間に、世界的にもまれな大きな成果を挙げてきた。地域コミュニティ単位での取り組みも盛んであり、例えば、荒川区では、独自に「節電マイレージ(一定以上の節電をした家庭に記念品を進呈)」、「街中避暑地(家族揃って、効率的に涼んでもらえる場を提供)」、「あら坊エコカード(エコによい行動をした子供にカードを進呈)」といった仕掛けを導入して運動を展開している。
一方、再生可能エネルギーについては、我が国はもともと先行していたものの、欧州、米国、中国の急速な導入の動きに先を越されている面がある。科学技術面でも、新型太陽電池等の分野で、中国の追い上げが急である。再生可能エネルギーの柱となるものとして太陽光、風力、バイオマス、地熱、海洋エネルギーが含まれる。世界的には、これらのうち、バイオマスが最も大きなシェアを占めている。技術的にみると、従来型のシリコン太陽電池、風力、バイオマス、地熱については概ね成熟しつつあるが、新型太陽電池(有機や色素増感系など)と海洋エネルギー(潮力、波力)は、コスト、効率、安定性等の面でまだまだ開発や改良の余地が大きい。
固定価格買取制度の導入を推進した菅前総理の時代においては、こうした面を踏まえると、太陽光の可能性ばかりが前面に出過ぎたきらいがある。この要因として、太陽光発電は周辺環境に与える影響がほどんど無く、日当たりのよい屋根や賃貸料の安い土地があれば、導入の制約が無いという点があろう。政府としては周辺社会との合意形成に関し大きな努力と時間を要しないという利点がある。しかしながら、コストが非常に高く、国民負担が大きくなることは避けられない。また、技術が成長途上にあることから、導入を後ろ倒しにすることによるメリットが存在する。今回の環境省の戦略は、太陽光以外の再生可能エネルギーにスポットライトをあてたという意味で意義があるものと考えられる。各種の再生可能エネルギーを幅広く視野に置きながら、コスト、効率、立地条件、発電力の変動等や技術進歩を考慮しつつ、導入を進めていくことが、国民的な利益につながろう。
2030年が目標とはいえ、6倍増という目標は、チャレンジングな数字である。風力については低周波騒音の問題、洋上風力については漁業権等との問題が存在する。また、地熱については、自然公園の保護や温泉地への影響といった問題が存在する。バイオマスについて、原料となる木片や廃棄物等(例えば、林業や廃棄物事業のように、これらはエネルギー産業の外側に存在する)を如何に安く安定的に確保するかといった問題がある。従って、電力の発電段階において、周辺住民、原材料の供給者等のステークホルダーと発電事業者との社会的な合意形成を促進するための、ルールや仕組みの整備が欠かせない。地熱については、近年、ルール整備が行われたことで増設の機運が高まっている。更に導入を進めていくためには、環境省(廃棄物、自然公園)、経済産業省、林野庁(林業)、水産庁(漁業)等の関係省庁が横に連携することが重要となってくる。また、送電段階でも、送電網の整備についても発電能力の急増に歩調を合わせることが求められる。実際、ドイツでは風力発電の導入が急速に進んでいるが、送電網の不足が制約要因となっている。自然エネルギーの発電ポテンシャルの分布は火力発電所の分布とは明らかに異なる。発電能力の地理的な分布が変わることを踏まえて、送電網の再整備が目標達成のためには必要となってくる。
この文章は8月31日に放送されたテレビ朝日の『報道ステーション』での坂田一郎教授コメント、「環境省 再生可能エネルギー新戦略 発電能力6倍に」について、未放映分を含めてまとめた内容になります。