先進国型製造業としての日本企業の方向性-オープン&クローズ戦略思想の展開(1)-
2014/8
このワーキングペーパーは2014年8月に、東京大学政策ビジョン研究センター 知的財産権とイノベーション研究ユニット 知的資産経営研究講座 の研究成果として取りまとめたものです。全文は下記PDFをご覧ください。
概要
本稿の狙いは、オープン&クローズの戦略思想を起点に、先進国型製造業としての日本企業の方向性を、雇用や貿易収支への貢献という視点から提案することにある。
日本の製造業が、アジア企業の台頭によって劣勢に追い込まれる場面が多くなった。2010 年代になると事務機械でその兆候が顕在化し、機能材料、建設機械にさえ類似の兆候が見え隠れする。自動車産業ですら顕在化するのではないか。これらに共通するのが、大規模なビンジネス・エコシステム型の国際分業がもたらす競争ルールの変化であった。
上記の認識を踏まえながら本稿の第1章では、日本の製造業が抱える基本問題を、国際収支(貿易収支の赤字)と雇用(特に地方の雇用減・人口減)、およびその背後にある製造業の空洞化、という視点から整理する。
空洞化は長期にわたる円高によって引き起こされた。そしてこの円高は、貿易収支で輸出の 90%以上を占める製造業の実態を反映しない、いわゆる実質実効為替レートや交易条件なる指標が誘発したものである。第一章では、これを製造業の現場から検証する。
製造業の空洞化は、上記の指標だけで引き起されたのではなかった。日本が生み出す製品イノベーションの成果が国内に留まらず、瞬時に国境を越える事態に対処できない旧来型の知的財産・管理思想によっても、空洞化が大規模に引き起こされたのである。
第2章以降では、現在でもあまり語られることの少ない製造業それ自身の産業構造転換と空洞化との関係、および産業構造転換に適応する欧米企業側の姿を、構造転換が最も早く顕在化したソフトウエアリッチ型のエレクトロニクス産業に焦点を当てて紹介する。
これらを踏まえて提案する本稿の成長モデルとは、第一に、コアとなる技術プラットフォームを国内で量産し、若者が安心して暮らせる雇用を生み出しながら地域経済を活性化させる点にある。この具体化には、オープン&クローズの戦略思想が必要となる。
その結果として第ニに、国内で量産される高度な技術プラットフォームの輸出によって貿易収支の改善に貢献し、そして第三に、海外の現地法人やパートナー企業が日本から輸入する技術プラットフォームを使って適地良品を開発・生産・販売し、ここから生まれる配当やロイヤリティーを日本に還流させながら経常収支へ貢献させることにある。
そして第四の特徴は、オープン&クローズの戦略思想に基づいて日本にとっての非コア領域を積極的に公開し、新興国の産業高度化に貢献する点にある。
これらを組み合わせた新たな成長モデルは、ビジネス・エコシステム型の産業構造がグローバル市場で大規模に進展する 21 世紀になって、はじめて可能になったものである。
今回の提案を支える具体的な事例の紹介と分析、および分析を踏まえた理論体系については、本稿に続く一連の報告で明らかにしたい。