バイドール制度の各国比較
2014/8
このワーキングペーパーは2014年8月に、東京大学政策ビジョン研究センター 知的財産権とイノベーション研究ユニット 知的資産経営研究講座 の研究成果として取りまとめたものです。全文は下記PDFをご覧ください。
はじめに
米国で 1980 年に誕生したいわゆるバイドール制度(the Bath-Dole Act of 1980.P.L.96-517、the Patent and Trade Mark Act Amendment of 1980)は、米国内で一 般的に高い評価を受けており1、他国がそれを参考にして制度を構築し、日本においても、 日本版バイドールとして導入されている。しかし、その法律の内容や実際の運用状況は、 各国毎に独自性があり、同一の制度として把握することが困難な状況にある。他方、米国 では、1バイドール制度自体の政策効果を実証することは困難であり、バイドール制度以 前から大学の技術移転等は進んでいたところに同制度が採用されたに過ぎないという意見 2、2政府提供資金による発明の成果である薬剤等について、受託者が特許権を取得した上、 実施商品を高い価格で販売して利益を受けている状況に鑑み、国民は、二重の財政的負担 を強いられているとする意見3などもある。
バイドール制度の特色は、政府提供資金による研究の成果である知的財産を資金提供者 である政府又は政府機関(以下「政府等」という。)ではなく、受託者である民間企業、研 究機関又は大学に帰属させることにあるところ、政府等が資金を提供して何らかの研究活 動を行ったとしても、政府等では需給関係に基づく取引関係を通じて特許権を活用する機 関を構築することが難しく、その成果である特許権等が有効に活用されない状況が各国で 続いている。このような意味において、成果物を最も有効に活用できる可能性がある主体 として受託者が考えられ、事業活動において効率的に活用することが期待されるのは合理 的な帰結である。
そして、成果物を最も有効に活用できる主体として期待された受託者が、事業活動において、その期待どおり成果を活用しない場合には、政府等は、介入権を行使することで、研究成果の有効活用が担保される。このような介入権自体も各国のバイドール制度で共通して必要性が認識されているメカニズムである。
本稿では、日本において、バイドール制度によって生まれた研究成果の事業化が進んでいない状況もみられることを踏まえ、制度的担保としての介入権を中心に各国の制度を比較して日本のバイドール制度の特色を確認することを目的としている。