組織境界を越えた知識探索の成果定着と研究コンソーシアムの関係-NEDOプロジェクト成果特許の実証分析-
2014/8
このワーキングペーパーは2014年8月に、東京大学政策ビジョン研究センター 知的財産権とイノベーション研究ユニット 知的資産経営研究講座 の研究成果として取りまとめたものです。全文は下記PDFをご覧ください。
要旨
研究コンソーシアムは、(1)異なる組織が保有する研究開発への補完的資産(技術、研究能力)を結びつけ、(2)研究成果の技術の共有を促し、(3)参加者全体として研究開発が効率的に進むように企業内の研究開発の調整を促す(Odagiri, Nakamura and Shibuya, 1997)とされる。とくにコンソーシアム内の他組織が有する知識に触れることは、組織外の知識を探索する機会となり環境変化に応じた技術創出の機会となるはずである。場合によっては、組織間の技術のシナジーによる技術的なイノベーションを期待できるかもしれない。
しかし、製品開発に関する情報の粘着性(von Hippel, 1994)や技術に対する組織としての吸収能力(Cohen and Levinthal, 1990)があることを考慮すると、コンソーシアム内の他組織から獲得した技術知識を、その後自社内で発展させることが必ず可能になるとは思われない。
そこで、成果の発展が強く求められている NEDO プロジェクトの成果のうち、日本版バイ・ドール条項の適用を受けた特許に着目し、その知識源と当該特許の技術的質、そして、その後の発展の関係を分析した。
結果の要約は下記のとおりである。
- 水平連携のコンソーシアムに限っては、第三者の知識を探索した場合、その後の自社発展については統計上有意ではないものの負の影響が見られたが、コンソーシアム内の知識を探索した場合は自社内の知識を探索した場合と同様に正の影響(ただし、統計上有意ではない)が見られた。
- 一方、統計上安定的に有意ではないものの、自社内、コンソーシアム内の知識探索は開発成果の特許の技術的質に負の影響を与えており、しかも技術的質は、成果のその後の発展と正の相関があった。
- コンソーシアム参加機関の多さは、成果の発展に対して有意な負の影響が見られた。水平連携は、成果の技術的質や成果の発展に影響を及ぼしていた。この原因として参加者の利害対立があると推測された。一方、大学・公的研究機関はその対立を解消する役割を果たしている可能性が示唆された。
このことから、特に NEDO プロジェクトで実施されている研究コンソーシアムでは、水平連携のコンソーシアム内の知識の共有を促し、その後の組織内での確実な知識の定着・発展に結びつけていることが示された。ただしその効果は、参加機関数が多い場合は失われていた。得られた結果からは、これらのコンソーシアムが、革新的な技術を生み出す探索的な活動として常に機能しているわけではないと考えられた。