「アメリカの大学の管理運営」について
2015年4月
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「アメリカの大学の管理運営」について
概要
本稿は、德永が1992年12月にとりまとめ、その後、豊橋技術科学大学において小冊子に製本印刷され、また2000年に北陸先端科学技術大学の「創設10周年に際して改めて原点を振り返る」と題する資料に収載されたのを始め、1993年から2005年にかけて数多くの国立大学で講演資料として印刷・配布して関係者の参考に供してきたものである。
本稿の内容は1991〜92年に行った米国の州立大学、私立大学への訪問調査等に基づくものであり、その後4半世紀近くを経過したことを考えれば現在の米国の大学の状況は本稿に記述されたものから大きく変容しているとも考えられる。しかしながら、本稿の内容は国立大学関係者にとって、また大学のガバナンスとマネジメントに関する政策形成と研究にとってなお有益なものと考えられる。
その理由の一つは、国立大学法人の財政構造が1990年代の米国州立大学のそれに似たものとなってきたことである。2004年に国立大学が法人化してから運営費交付金は削減され続け、国立大学の財政運営は政府の提供する競争的資金や企業からの資金、診療報酬など事業収入に負うところが大きくなっている。国立大学法人は財政構造の変化に応じてその管理運営システムを財政構造に相応しいものに変革していくことを求められている。
もう一つの理由は、グローバル化の進展に対応して大学のガバナンスとマネジメントについても国際的な互換性を持つものとすることが求められているからである。グローバル化のいくつかの側面のうち、国境を越えた商品・サービス市場の一体化に関連して国境を越えた教育サービス市場の一体化が進展し、研究型大学志向の有力国立大学は優秀な日本人と外国人の学生と教員、国内外の企業からの研究開発資金等を巡る国境を越えた大学間競争に直面している。競争を戦い抜いていくためには国内外の関係者の信頼が得られる意志決定等の体制と手続、いわば国際的互換性のあるガバナンスとマネジメントを導入、確立することが求められる。
さらに、今後、18歳人口の減少が本格化し、また社会保障給付費の増大から教育分野への財政支出はより厳しい状況を迎えることが予測される。こうした状況の下で国立大学がその責務を果たしていくためには、教育研究分野の再編・縮小、教職員人件費その他業務経費の削減、資産の運用、多様な学外資源の導入と利用、他の教育・研究機関との提携・統合を大胆に進めていくほかない。国立大学法人にはこれらの厳しい内容を含む意思決定を的確に行い、実施することを可能にする管理運営システムを速やかに整備することが求められている。
本稿の内容はこのような管理運営システムの整備に際して十分に参考となりうるものであり、多くの関係者の閲覧を期待している。