実効的海洋空間ガバナンスに向けて

この内容は、2012年5月31日に超党派国会議員、学識経験者らにて構成される「海洋基本法戦略研究会」(第4回)にて、海洋基本計画の見直しに関し、東京大学における提言の検討状況として報告されたものです。なお、最終報告は7月に発表が予定されています。

海洋空間計画、利用に向けた海洋科学技術政策、海洋教育を中心に

東京大学公共政策大学院教授 東京大学海洋アライアンス海洋政策学ユニット長
東京大学政策ビジョン研究センター長 城山 英明

提言案1

海域区分を確立するとともに、総合的で、科学的知見を反映し、関係者の合意を重視する、地域ごとの海洋空間計画を策定する枠組みを導入

  • 基本計画策定後の最初の5年間の経験と実績を踏まえ、海洋空間ガバナンスについて、より一層、総合的、計画的、一体的に推進すべき。
  • 海洋調査等の進捗により、各海域の特徴、各海域に応じた適切な管理方法等が明らかになってくれば、海域の区分を確立すべき。
  • 海域の区分を踏まえ、国の海洋政策との整合性を確保しつつ、新たな科学的知見や地域の関係者の意思を取り込んで進化していくメカニズムを組み込んだ、海洋空間計画の枠組みを導入すべき。
  • 当面、各地の沿岸域関係者が、課題設定、ガバナンス等が適切な総合的な取組計画を作成したときは、それを技術面・財政面・行政手続面などで柔軟に手助けする仕組みを早急に導入すべき。

提言案2

洋上風力発電等の海洋再生可能エネルギーの開発と普及の推進に向けた関係者の「共生」への支援

  • 洋上風力発電等の海洋再生可能エネルギーは、地球温暖化対策、国産エネルギー、分散型、自立型、災害に強い等の特徴を有し、将来に向けて大きな可能性を持つものの一つ。
  • 今後、原発事故後の有望なエネルギーの一つとして、洋上風力発電の推進を図るためには、洋上風力発電事業者、地域、漁業関係者等の関係者が「共生」することが必要不可欠。
  • 政府は、関係者による「共生」に向けた合意形成の努力を支援すること(例えば、当事者間の合意が成立し、連携した取組を行う場合には、当該取組に対して政府が助成措置を講じる等)や、海洋空間計画の一環としての調整枠組みを検討すべき。

提言案3

将来の海洋産業を支える基盤的な海洋科学技術の戦略的な開発を進めるとともに、研究開発の利用促進の観点からも、必要な海洋調査を民間の海洋調査研究産業が継続的に実施できる環境を整備

  • 将来の海洋産業分野として期待される海洋再生可能エネルギー、海底鉱物資源、海底石油・ガス等の分野を育成していくためには、発送電、精錬、精製等の陸上では既に確立された技術を海洋で行う技術を新たに確立し、有効に組み合わせることが必要。
  • 新たに確立すべき技術には、水中無人探査、海洋での位置保持・掘削等に関する技術があるが、これら以外にも、将来の海洋産業分野を支える共通的な海洋基盤技術が存在すると考えられるので、産学官が連携して、基盤技術として戦略的に開発すべき。
  • 海洋鉱物資源の探査センサー等の国の基盤的研究開発については、試験研究を踏まえて、実利用促進枠組みを構築すべき。具体的には、国は広域探査の継続的実施方針を明らかにし、必要な海洋調査等を民間の海洋調査研究産業が継続的に実施できる環境を整備すべき。

提言案4

「海洋教育」を学習指導要領上に位置付け、沿岸域の管理や国際ルールづくりにも対応できる海洋空間ガバナンスの担い手となる人材を育成し、活躍できる環境を整備

  • 海洋に関する教育が、各教科や総合的な学習の時間に取り入れられる事例の積み重ね等を踏まえて、学習指導要領に海洋教育を位置付けるべき。
  • 海洋に関する学際教育と従来からの専門教育があいまって、海洋に関する幅広い知識と深い専門知識を有し、地域における総合的な沿岸域の管理や国際ルールづくりにも対応できる人材を社会に送り出していくべき。
  • また、そのような人材がその知識と能力を実務の場で活かしていける環境を整備するため、大学等の教育機関と官公庁や民間企業等の実務機関とが一層連携を深めるべき。

提言案5

海洋安全保障に関し、外務省、海上保安庁及び海上自衛隊の連携を強化し、北極海ガバナンスに関しては、潜在的利用国間で連携

  • 海洋安全保障政策を推進するに当たって、外交と現場相互の連携を強化し、連続的対応を可能にするため、外務省、海上保安庁、海上自衛隊等の関係機関は、情報の共有等を強化すべき。
  • 北極海のガバナンスの確立に向けて、マラッカ・シンガポール海峡における経験も踏まえ、日本と同様に北極海航路の利用国という立場にあるアジアやヨーロッパの諸国と連携を図るべき。

提言案6

海洋政策を強力に推進するため、参与会議の機能を強化

  • 総合海洋政策本部の機能強化を支援するため、海洋に関する政策等の継続的調査審議を行う参与会議とその支援機能を強化すべき。Cf. 宇宙政策分野における宇宙政策委員会の議論

参考:現在検討中の提言事項一覧

  1. 海洋空間ガバナンスの強化 − 日本の管轄海域全体に関するガバナンスの確立
    1. 総合的で、科学的知見を反映し、関係者の合意を重視する、地域ごとの海洋空間計画を策定する枠組みの導入
    2. 問題意識を共有する沿岸地域関係者が連携した取組計画を政府が支援する仕組みの早急な構築
    3. 森林、河川、海岸、沿岸海域の密接なつながりを考慮した専門性と総合性を兼ね備えた沿岸域管理の検討
    4. 洋上風力発電等の海洋再生可能エネルギーの開発と普及の推進に向けた関係者の「共生」への支援や制度的な対応
    5. 長期にわたって継続してデータを取って時間的な変動を見る海洋調査の意義の認識と、その廃止に当たっての専門家の意見の聴取
    6. 海域区分の確立
    7. 海底熱水鉱床等の開発と生態系の保全が対立する場合に対処する仕組みの検討
  2. 海洋科学技術のガバナンスの強化
    1. 将来の海洋産業の育成を支える基盤的な海洋科学技術の同定とその戦略的な開発
    2. 海洋調査研究産業の創出に向けて、海底熱水鉱床に関して必要な海洋調査等の一部を民間企業が継続的に担うことができる環境の整備
    3. 関係する府省、民間団体等が連携して取り組むのが適当な具体的な課題例
      1. 発展途上国等への医療の提供という平時の国際貢献を本務とし、大規模災害への対応にも役立つ病院船の整備
      2. 医学と連携した海洋生物に関する研究開発の推進
      3. 改定総合モニタリング計画の着実な推進と、品物の安全性に関して生産者が信頼性の高い説明をすることを可能にする環境の整備等への留意
      4. 海洋生物が陸地をつくる自然のメカニズムの解明とそれによる国土保全に向けた国際協力の推進
  3. 国際的な海洋ガバナンスへの対応と安全保障
    1. シーレーンの確保に向けた信頼醸成イニシアティブの発揮(南シナ海等)
    2. 北極海ガバナンスへの科学的観測・研究の成果の活用と潜在的利用国間の連携
  4. 海洋政策推進組織の在り方
    1. 総合海洋政策本部、参与会議の在り方
      1. 総合海洋政策本部による具体的行動の推進
      2. 参与会議の機能強化
    2. 関連分野との連携
      1. 宇宙との連携
      2. 安全保障との連携
      3. 科学技術イノベーション政策(医学を含む)との連携
  5. 日本の海洋を支える総合力を有する人材の育成(海洋教育)
    1. 海洋教育の学習指導要領上への位置づけ
    2. 沿岸域の管理を担える人材の育成
    3. 海洋に関する幅広い知識と深い専門知識を有し国際ルール作りにも対応できる人材の育成と、そうした人材が活躍できる環境の整備