アジアの奇跡と新成長モデルの時代
2012年
このワーキングペーパーは2012年に、東京大学政策ビジョン研究センターの研究成果として取りまとめたものです。全文は下記PDFをご覧ください。
要旨
近年、アジア諸国の経済発展のパターンに大きな構造変化がみられる。本稿では、その構造変化を明らかにするため、太陽電池に関する約4万本の論文データと計量書誌学の手法を用いて科学技術に関するキャッチアップの実態について分析した。その結果、アジア諸国によるキャッチアップが急速に進んでいること、中国、台湾等は、太陽電池の中でもフロンティア領域(有機、色素増感太陽電池)において、成熟領域(シリコン、化合物)以上に大きな論文シェアを持っていること、フロンティア領域ではまだ国際的な提携関係が未成熟な状況にあること、アジアの中でも国により戦略が大きく異なっていることが明らかになった。
開発経済学においては、「雁行型発展形態論」が著名であるが、アジアの先行国間においては、既に雁行形態は過去のものとなりつつあり、「並走型成長モデル」が出現しつつある。新型太陽電池に代表される次世代の先端技術製品においては、「並走」は、生産プロセスだけでなく、製品開発の基盤となる科学技術にまで及ぶ可能性が高い。研究開発と初期の生産は日本で行い、その後にアジアに量産工程を展開するというモデルは必ずしも妥当しなくなる。我が国には、こうした構造変化を前提とした成長戦略や技術経営戦略が求められる。また、国際競争上は、科学技術研究のフェーズからアジア主要国とより水平な協力を指向し、欧米に先んじてアジアの活力を取り込む体制を作ることが重要である。
情報量の爆発的増加と変化の加速に伴って、既存の手法による状況の把握は困難になりつつある。本稿のような議論を含め、政策や技術経営戦略の立案をする上で、情報・ウエブ工学を高度活用して、大量の情報をもとに客観的に世界の状況(国や機関の競争優位性、競争や協調の構図、技術間の優位劣位の関係の変化、研究の萌芽など)を把握することが不可欠になってくるものと考えられる。