活力ある高齢化社会に向けた研究会 第2回

09/09/10

日時:2009年9月10日(木) 14:00−16:00
場所:東京大学山上会館 会議室
参加者:東京大学より9名、COCNより20名(11社)

議事次第

プレゼン

東京大学: 増田寛也 公共政策大学院客員教授
COCN:  NEC、日立

ショートプレゼン

COCN:  キヤノン、シャープ

第2回テーマ: 「高齢化と地域コミュニティ、高齢者の生活とIT利活用」

増田寛也 公共政策大学院客員教授  プレゼンデータ

戦後の高度成長期に整備されたニュータウンは、高い公共施設整備率を誇る優良な資産ではあるが、住民の高齢化が進み、活用しきれていないのが現状である。そこで、行政の支援によって、高齢者の介護等、身の回りのサポートサービスを低廉な価格で提供するという試みがなされている。

これについては、継続性が重要なので、いかにビジネスとして成り立つようにできるかが課題である。ニュータウンの資産活用の一例としては、遊休施設をグループホーム的な高齢者の受け入れ施設にして再活用するという試みも検討されている。

こうした自治体の計画を実施するには、準備に相当時間がかかるという難点がある。そこで、より実際的な活用方法として、NPOが高齢者の給食配食サービスの拠点として再活用する、という試みがある。他にも、団地内に循環バスを走らせることで移動手段のない高齢者の活動範囲を広くするという政策が、愛知県で実施されている。

また、現在高齢者が持っている郊外の住宅を中間法人等が借上げ、郊外の広い住宅を必要としている子育て世帯に貸すという事業も検討されている。これを成功させるためには、国の支援で、賃料を保証し、また、低価格にする等借り手のインセンティブを作り出すことが望ましい。実際に現在盛岡で類似の事業が行われている。積雪対策を高齢者が行うことは大変なので、高齢者は市内のマンション等に住み、余裕のある子育て世帯が郊外の戸建ての家に住む、という需要と供給が合致している。

いずれにしても、現在、ニュータウン再生について、総合的なマネージメント主体がないことが問題である。今後、介護、子育て等、各家庭の実情を集約し、調整できる主体が、共有すべきビジョン等を策定し、これに基づき様々な取り組みをしながら、一貫して再生事業等を進める体制の構築が必要である。

一方、地方の限界集落においては、人口流出によって地域コミュニティそのものが維持できなくなってきている、という問題がある。これに対しては、そもそもその集落を維持すべきなのか、という根本的な問題意識も含め、より踏み込んだ議論をしていく必要がある。具体的には、総人口が減ってきたこの時期にこそ、集落をあえて消滅させることも視野に入れる必要がある。今までは、補償制度が用いられるシーンとしては、何かを造成するために損害を被る人に対して補償するものがメインであったが、今後は、ある集落を社会的利益のために移住させるとともに、移住する人に対する補償も考えていくべきである。また、公的支援としては、金銭面だけではなく、人材派遣の面での支援も必要である。

オールドニュータウン、限界集落、どちらの地域においても、市町村やNPO等と協力しつつ、従来とは異なる新たな地域コミュニティを確立していく必要がある。

高齢者の生活の充実を図る方法として、ICT利活用への期待が大きい。まず、これによって、町内会、自治会など地域活動の円滑化・効率化が図られる。また、高齢者の居場所、役割が出てくる。たとえば、高齢者に対するICT講習は、高齢の講師による方が一番効果的であり、また、高齢者は社会のために役立ちたいという意識を持っている人が多いので、高齢者の役割を創成する効果が期待できる。

現実に実施されている例としては、徳島県の彩事業や、テレワークによる地域雇用の創造、高齢者の安心安全の情報のデータベース化、世田谷区の生涯現役ポイントシステム等がある。彩事業とは、日本料理のつまものとして使われるいちょう、もみじ等の落葉を高齢者が採集し、情報センターと協力して、一番高値で売れるところに出荷する、というものである。テレワークビジネスとは、7県をシステムでつなぎ、デジタルで地図を作成するという事業であり、仮想工場のようなもので、雇用の場を提供することに貢献している。また、高齢者の安心安全の情報のデータベース化には、地域の支えあい機能を強化する狙いがある。世田谷区では生涯現役ポイントシステムが導入されている。地域に貢献する活動を行った場合、PASMOにポイントを蓄積し、社会貢献活動を積極的に行うインセンティブを与えるというものである。住基カードは容量的にまだ余裕があるので、こういう機能を付加することもできるだろう。

高齢者と若者、子どもたちが直接接することは限られているが、ネット上であれば、世代間交流の可能性も広がる。孫の世代にあたる大学生など、社会活動をする主力の人たちと、高齢者とが交流することによって、地域の課題解決・まちづくりが期待できる。また、潜在的なニーズが高い遠隔医療の促進という点においても、ICT利活用が大きく貢献すると期待できる。今後も、国際的な競争力のある規格を推進していく必要がある。

今後、既に実施された具体的なICT利活用事例の成否を踏まえつつ、新たなICT利活用のあり方を検討していく必要がある。

タイトル: 「高齢者の生活とIT利活用・予防医療の観点から」

花田恵太郎 シャープ株式会社 研究開発本部 健康システム研究所 eヘルスケア研究室

概要: 「元気で長生き」を実現するためには、いかに疾病にかからず、寝たきり・要介護の状態に陥らせないかが重要である。ICT技術を活用して家庭とサービスをつなぎ、日々の見守りから高齢者の変化を予兆し、疾病の回避、機能回復を助けるといった、いわゆる予防医療への取組みが重要となる。見守り用の特別な機器を設置するのではなく、既に家庭にある家電製品、携帯電話などを活用して、見守られる高齢者側の感情や意思を配慮した見守りシステムの必要性と、実現に向けた技術的及び制度的課題を紹介した。