活力ある高齢化社会に向けた研究会 第3回

09/09/29

日時:2009年9月29日(火) 18:00−20:00
場所:東京大学医学部教育研究棟 13階 第5セミナー室
参加者:東京大学より7名、COCNより21名(11社)

議事次第

プレゼン

東京大学: 大西 隆 東京大学大学院工学系研究科教授
COCN:  トヨタ、日立製作所、鹿島建設

ショートプレゼン

COCN:  清水建設

第3回テーマ: 「高齢化とまちづくり」

大西 隆(東京大学大学院工学系研究科教授)

1920-2035年都道府県別比較で高齢化の推移を見ると、高齢化は三大都市圏の方が地方よりも深刻であり、特に東京圏の高齢単身世帯は2025年まで増え続ける。高齢化は世界的現象だが、大都市近辺では高齢者が一人で住むことが増えている。都市計画でどうこれに対応するか。

最初に制定された法律は、1994年の「ハートビル法」(公共性のある建物を高齢者・障害者が円滑に、安全に利用出来るような整備の促進、2003年改正)である。さらに2000年には、「交通バリアフリー法」(駅や空港等の旅客施設のバリアフリー化)が作られ、両者が統合されて、2006年に「高齢者、障害者等の移動等の促進に関する法律(バリアフリー新法)」が施行された。これは公共交通施設、特定道路、公園、特定建築物(オフィスビルを含む)のバリアフリー化を推奨するとともに、特別特定建築物(公共的施設)については、バリアフリー化を義務化するなど、バリアフリーの範囲を徐々に拡大し、移動の自由を保障するものである。

日本の社会保障国民負担率は、アメリカ、スイス、韓国よりは多いが、欧州諸国よりかなり少なく、財政赤字を加味したとしても下位レベルにある。日本は低負担で効率よく福祉やバリフリーを実現するのが政策的スタンスとなっている。

高齢化問題の世論調査はほとんど行われておらず、2005年以外は、国民生活に対する意識調査の項目の一つにとどまっている。「高齢化の進展によって重要となる課題」についての2005年の調査によると、高齢者が全国平均に比べ、際立って問題意識を持っている項目はない一方、20〜30代の人は、「持続可能な社会保障制度の構築」「バリアフリーに配慮した住宅政策など」で、突出していた。若い世代ほど自分が将来直面する高齢化社会に対して、問題意識が高いことが伺える。

高齢化が進むとモビリティが低くなり、自動車起源のCO2排出量が減るという予測があるが、我々の予測ではモビリティは落ちるどころか上昇する傾向にあり、2020年までは現状より排出量が増えることが予想される。将来は高齢者が自動車を乗り回す社会になり、高齢者対応のハイブリッド・電気自動車が必要になってくるだろう。

民主党のマニフェストでは50数項目あるうち、5つ前後が子ども・子育てに関するものだが、高齢化に関しては、年金を最低7万円保障するという記述がある程度である。政策INDEXではハートビル法を改善する事等が書いてあるが、基本的にはセーフティネットで最低ラインは守るが、高齢者も自分で頑張ってくださいという方針であり、温かい施策が増えているわけではない。とはいえ、交通基本法を制定するとして、移動の権利を重視しており、交通に関わるバリアフリーは重視されると期待できる。

高齢者は健康状態や活動量、考え方に多様性があり、型にはめるのはなじまない。多様性を担保しながら、いざという時のセーフティネットをどうするかが課題となる。高齢者の時間が自由にある中で、活動したい人が活発にできるような社会システム、都市インフラが望ましい。高齢を意識せずに働ける仕組みを育てていくことが重要である。

タイトル:都市とモビリティが支える高齢者社会について

森 賢二(トヨタ自動車株式会社)

・人の移動は本質的なものであり、行動することが生きる事。
・世界トップの高齢化率の日本においても行動し続ける必要あり。
・高齢者が外出することによって健康不安が少なくなることからも、行動を促すことは大切。
・また免許の無い高齢者への移動手段確保も重要。
・日本では交通事故の事故率の減少が最近下げ止まりではあるが、高齢者の死亡事故は増加している。
・車の安全装備は事故の予防から衝突まで色々な装備が市販されているが、その装備価格や装着車が少ない事などから普及が進まない。
・非免許者向けのモビリティーも提案されているが、公道は走れない。
・これらを打開するために、行政、大学、メーカ、地域が一体となり高齢者の行動機会を社会全体で支えるしくみが必要。

タイトル:「健康いきいきまちづくり」への取り組み

髙田 久義(株式会社日立製作所 都市開発システム社)

高齢者が住みなれたまちで最期まで健康でいきいきと暮らせる為には、様々な状況に対応した高齢者住宅をバランスよく整備し、合わせて医療・介護サービスを効率的に提供できることが必要である。わが国では在宅ケアが基本と考えるが、住宅問題や老老介護の問題等から施設介護も必要であり、またシニア住宅の整備も必要と考える。こうしたまちづくりには次の観点が重要と考える。
 ① 健常・自立〜要介護まで住み続けられる高齢者住宅の整備(公的施設では、特養、老健、シニア住宅の相互連携、民間施設ではCCRCを目指した一貫サービス)と周辺施設・住環境との連携整備
 ② 病院等医療機関が中心となり、周辺の高齢者住宅、健康増進施設と連携して医療・介護サービスや、疾病予防・健康管理・健康増進を促進

具体的事例として、地域を護る病院として建設中の日立水戸総合病院及び周辺開発を紹介し、高齢社会に向けた総合的な対応策についても議論を行った。

タイトル:高齢社会のロハスコミュニティ

阿川 清二(鹿島建設株式会社)

高齢者を標準とした社会を実現するには、住まいと移動におけるハードルを下げることにより、加齢に伴い各種能力が低下しても健康に生活し続けられることが前提と考える。そのためには以下のような環境・インフラ整備が不可欠である。

 ・賃貸を含む高齢者向け住宅の量的確保と住み替えの積極的な支援
 ・ライフステージの変化に対応できるフレキシビリティやリダンダンシーの確保<
 ・シームレスで面的なバリアフリーの早急な推進
 ・駅構内や駅前広場など、交通結節点の重点的かつ速やかな整備

以上を踏まえ、高齢者の住まいのハードルと移動のハードルを下げるための課題と高齢社会に向けた総合的な対応策についても議論を行った。

タイトル:都市集合住宅の安全安心『21世紀型コミュニティ』構築支援システムの技術開発

山田 哲弥(清水建設株式会社)

神戸大・阪大と共同で国土交通省の補助金を獲て、昨年度より標記の研究開発を実施している。

分譲マンションは都市居住形態のひとつとして定着しているが課題も多い。販売・購入時の関心は、地震や火災の安全性、犯罪や急性期医療等への安心性に向けられがちだが、その基盤となる日常的な近隣交流や区分所有者としての管理組合によるガバナンス(権利者責任)の課題はあまり顕在化されない。社会的な安全・安心は、ホームセキュリティ等の専有部サービスだけでは機能しない。

本研究開発では、非常時に居住者による相互支援が可能となるよう、日常的な必要最低限の居住者相互の交流(21世紀型コミュニティ)を支援するシステム開発と、それを組込んでいくプロセスを提案することを狙っている。適切な運営形態・情報設備・施設空間が一体となった、「コミュニティ構築サポートシステム」を構築することで、「21世紀型コミュニティ」を実現しようとしている。