第9回 科学技術ガバナンス研究会 連続ヒアリング企画

日時:5月31日(月)9:30〜11:00

場所:東京大学公共政策大学院 会議室

講師:山地 憲治 財団法人地球環境産業技術研究機構 理事・研究所長

参加者:9名

講師による主要な問題提起                          プレゼンデータ

エネルギー政策研究の経験から

◆ 地球温暖化対策およびわが国のエネルギー政策の分野において、数理モデルを利用して多様なエネルギー技術を評価する研究を行ってきた。研究対象には、地球温暖化対策の制度と技術の評価のほか、核燃料サイクル、新エネルギー特にバイオマス、コージェネ等分散エネルギー、DSM(Demand Side Manegement)などを取り上げてきた。研究成果はIPCCや原子力政策大綱、総合資源エネルギー調査会など国内外の政策決定の場面で活用されている。

◆ 日本の原子力政策はなかなか動かない。30年前から使用済核燃料貯蔵の必要性を訴えてきたが、昨年ようやく陸奥市での事業が着手された。

◆ エネルギー問題、特に原子力には立地問題などフォーマルな技術評価が難しい面がある。

◆ DSM(demand side management)という概念も、1980年代から30年かかってようやく普及しつつある。日本の場合、大口契約では需給調整契約があり、夏場ピークの需要カットの要請等が行われてきた。また、最近は、家庭においても、エコキュートを用いて夜間の電力需要を高めるといった試みが行われている。

◆ バイオマス供給力評価に関しては、その結果が比較的迅速に政策に反映された。まず、研究者がGLUEモデル(エネルギーモデルに土地利用を取り込んでバイオマスの物質循環を解析するモデル)を開発し、バイオマスバランス表を考案し、論文として発表した。その後、研究成果を著書にまとめ出版すると、政策決定者の目にとまり、研究者が政府の関連する委員会への参画・提言が行われ、関連法案の改正に貢献することができた。さらに、地域実証実験を行い、その結果得られた知見を政府の長期政策ビジョンに反映させた。

討議における主要な論点

◆ 日本でバイオマス供給力評価と政策とのリンクが成功したのは、バイオマス分野においては既存の政策がなくゼロからの立ち上げであったこと、農水省が農林業政策として関心を持ち、けん引役を担ったことが主な要因である。一方で原子力に関しては、既存の政策を切り崩して新規モデルを創設する必要があっため、研究の政策へのリンクが制限されてしまったと考えられる。

◆ 温暖化対策に関しては、麻生政権下では複数の研究グループが関与したモデル解析に基づいて、複数の対策選択肢を評価すると言うことが行われた。しかし、政権交代後は、政治主導の下で、合意されたモデル解析に基づいて対策を評価することが、困難になったように思われる。

◆ 最適化(オプティマイゼーション)の評価基準は、基本的にコストである。CO2排出量の制限など、政策目標を達成するミニマムなコストの選択肢を明らかにする。論理的には、評価基準にエネルギー安全保障等も含めて、多数の基準間の重み付けも行った上で評価すること(多属性評価)も可能である。しかし、これらの基準間の重み付けは困難であり、多属性評価の現実的利用はなかなか困難である。

◆ モデルを構築する際には、全体の整合性を取ることを重視している。またパラメータの数はできるだけ少なく、過去に遡りデータが取れるものを選ぶ。

◆ エネルギー政策ではエネルギーとバイオマスなど物質循環と統合したモデル解析も興味深いテーマである。

◆ 技術進歩のモデル化は難しい.。内生的技術進歩のモデルへの組込みは研究上の興味はあるが、現実に使えるモデル開発は困難である。

◆ 予想以上の進展を見せる情報通信技術により、かつては実現不可能といわれた家庭を対象としたDSMがスマートグリッドにより実現可能となりつつある。

◆ 効率的なシステムの下では、一般的に制約が厳しくなるとコストがかかる。従って、25%削減といった制約条件下で、制約条件がない状況以上の成長を達成するという、グリーンイノベーションのシナリオには無理がある。制約条件がある以上、成長制約もかかるはずである。

◆ バイオマス供給力評価の事例にみられるように、著書の執筆・公開には、事実上のTAとしての機能がみられる。

◆ エネルギー問題にかかわる研究者にも、TAや政策提言に関与するインセンティブがある。論文は査読に耐えるよう、解析の前提などいろいろな要因を単純化して論じているが、TAや政策提言としての機能を担いうる著書を書くときには、前提の吟味やデータに関する幅広い解釈を入れて表現できる。こうすることで、研究成果と自身の解釈を、関心の高い非専門家の目に触れる機会を創出できる。

◆ 一定の不確実性を持つ情報を集約せざるを得ないIPCCの活動は、TAの役割を考える上でも参考になる。

◆ 政策決定者は、あるテーマに関して利害調整なども行うので、客観的なTAは実施できない。そこでTA機関が、客観的な情報の集約と意見の整理を行い、客観的におさえられることと、そうでないこと(価値判断を要すること)との線引きを行うことができれば、大きな進歩となるであろう。