第13回 科学技術ガバナンス研究会 連続ヒアリング企画
この研究会は2010年11月に行われたものですが、資料等の準備が整いましたのでこちらで公開する次第です。
日時:2010年11月26日(木)17:00−18:30
場所:東京大学本郷キャンパス第2本部棟演習室
講師:原田 幸明 氏(物質・材料研究機構 元素戦略センター長)
参加者:8名
講師による主要な問題提起1:ナノテクノロジー
◆ ナノテクノロジー(ナノテク)の適用分野としては、エネルギーの貯蔵・製造・転換、農業生産性の向上および水処理などが考えられる。ナノ物質の用途としては、例えば自動車の燃料電池の電解質や車体があげられる。ナノ物質を利用することにより、燃料電池は通電性が向上し、軽量で薄い金属板から丈夫な車体を製造することが可能になるだろう。これらは現在、実験室レベルで研究開発が進んでいる段階であり、工業化に発展するには時間を要するであろう。
◆ ナノ物質の特徴は原子サイズが非常に小さく表面積が大きいこと、そのためこれまでに見られない新たな化学反応を生み出し、他の科学技術や産業にも大きな革新をもたらす可能性を持つ。一方で、今までにない微小なサイズのため、特有のリスクがある。ナノ物質が人体へ与える影響は未知であり、有害物質となり人体に蓄積する懸念もある。その影響は科学的に検証する必要がある。
◆ ナノテクが社会に及ぼす影響について考えるとき、さまざまな場面におけるリスクとベネフィットのバランス調整が重要になる。ナノ物質に一定の危険性があることは事実であるし、人体内での挙動などは注意して観察する必要があるが、だからといってナノ物質=危険と断定することはできない。
◆ ナノ物質のリスク評価に関しては、工場や実験室といった閉鎖環境から、消費者の安全・健康、さらに生態系・環境の保全に至るまでの各段階においてリスクを吟味する必要がある。汚染が発生してから対策を立てていて手遅れになる危険が高いため、未然に汚染を予見し予防措置を取ることが望まれる。
◆ ナノテクに関するノイズは、瑣末な事象をセンセーショナルに扱いたがるメディア、および推進派のお墨付きを欲しがる関連業界の双方である。
講師による主要な問題提起2:レアアース
◆ 昨今、メディアで報道されているように、世界的に金属の埋蔵量と採掘量の限界が近づきつつある。試算では2050年の金属の需要には、埋蔵量を何倍も超えてしまうものも複数存在する。世界各地には金属資源が偏在するため、日本のような資源の乏しい国は、豊富な国から輸入する以外に選択肢はない。
◆ レアアース問題を考えるときには、ミクロな問題(一国の経済)から拡大し、マクロな問題(人類経済や地球環境の持続可能性)までを視野に入れる必要がある。わずか3gのプラチナの指輪のために、約4トンの土を採掘しているという事実、高い環境負荷のもとに産業が成り立っていることを忘れてはならない。
◆ レアアースに関する今後の国の方針を探る上で、石垣島宣言はひとつの方向を示している。宣言では、従来提唱されている資源利用の3R(リデュース、リユース、リサイクル)に加え、ありふれたもの(代替物)を用いるリプレイスを提唱している。このリプレイスというコンセプトが今後重要になってくるであろう。
◆ 資源の問題は日本のみならず世界共通で安全保障、国家戦略のひとつである。エネルギー分野のIAEAのような世界的なパネルを作るべきである。現在UNEP(国連環境計画)にそのようなパネルが存在しているが、欧米のアカデミーが中心であり、資源産出国の既得権益保守の傾向があるため、十分に機能していない。このような状況下においては、日本のような資源の乏しい国こそがリーダーシップをとるべきである。さらに、日本からは環境省が対応しているが、国家戦略の観点から経産省も参画すべきである。
◆ 日本においては、レアアース問題は後追い的対応に陥っている。その一因としては、大学の製錬関係の講座の絶滅、予算の少なさ、戦略性のなさなどがあげられる。
◆ レアアースをはじめとした資源に対する戦略的ガバナンスが求められている。従来の経済学の分野では、既存の範疇を超えて、資源のサステナビリティを議論することが望ましい。またレアアースは実に多種の産業に影響を与えることを認識し、資源(鉱山)開発や関連技術開発に時間がかかることを認識すべきである。