ラオスとミャンマーのエネルギー政策の課題(東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)プロジェクトに基づく提言)
2012年7月〜2013年6月 ERIAプロジェクト活動報告
2013/7/3
1. はじめに−メコン河流域圏におけるエネルギー問題の重要性
中国を含む新たな経済圏として注目されつつあるメコン河流域圏(GMS)が中国の経済成長の先行きに不透明感が増す中、ASEANとともにあらためて注目されつつある。エネルギー・資源の問題に取り組む際に重要となる3つの側面は、経済成長(Economic Growth)、エネルギー安全保障(Energy Security)、環境保全(Environmental Conservation)の「3E」である(図1)。これらにバランス良く配慮する必要があるが、各側面は時としてトレードオフの関係にあるため、一国のみで3側面を同時に達成するのは難しい。
そこで、GMS、あるいはASEAN域内における「協力」の視点が重要となる。2015年のASEAN経済共同体(ASEAN Economic Community、AEC)設立が近づく今、GMSの経済相互依存関係、エネルギー関係も深化しつつある。例えば、タイやベトナムにおけるラオスからの電力輸入は年々上昇しており、ミャンマーの天然ガス資源はタイ経済を下支えしている(図2)。
2015年AEC設立に向けて、域内の経済統合を引っ張るのが経済先進国でGMSの中心に位置するタイであるのは間違いない。従って、ASEANにおける経済・エネルギー関係において、タイにエネルギーを供給し域内経済を支えているラオスやミャンマーの資源・エネルギー問題は地域的にも重要な課題であるということになる。
資源国である、ラオスやミャンマーには、タイやベトナムと言ったASEAN域内だけでなく、中国やインドなどからより大きな外国投資が近年急増している。結果、越境電力網などの整備は進んできているが、こうした電力の国内供給は契約上軽視されがちであることは否めない。こうした、外資導入政策も含めて、エネルギー政策と他の関連政策との「統合(Integration)」を、制度的に推進することが今後重要となろう。
さらに、こうした一国内の統合の動きは、ASEAN先発国及び後発国を含む「域内エネルギー・資源ガバナンス」を、他の機構内に重層的に位置付けることで、その実効性を増すと思われる。
2. ラオスにおけるエネルギー効率化
ラオスにおいては、電力供給を中心とした、いわばサプライサイドに焦点を当てた技術ロードマップ(Technology Roadmap)及び技術の社会影響評価(Technology Assessment)が重要である。そこで、エネルギー省や電力事業者等、現地ステークホルダー会議を経て抽出された優先度の高い開発目標を踏まえて、3つの社会シナリオ(貧困削減、新産業創出、外貨獲得)を導出した。その上で、シナリオごとに、今後必要とされる技術のロードマップを描き、導入・普及が見込まれる技術について社会影響評価を行い、政策的示唆を導出した。シナリオに基づく技術の設定と社会影響評価は、新たな政策選択肢を明らかにするうえで有用である。
同時に、需要側の施策も重要である。ラオスでは、特にデマンドサイドに関するデータが十分取得整備されていない。このため、首都ヴィエンチャンの居住地区600世帯を対象にした48種類の電気製品に対する聞き取り調査を実施した。具体的調査項目は、電気製品の所有の有無、世帯収入、家族構成等である。このサーベイはタイ・チュラロンコン大学とラオス国立大学の協力を得て実施したものである。同調査は、データ取得という観点からも有意義であるが、同国が今後導入を検討するエネルギー効率促進に関する基本的な政策であるStandard and Labeling(S&L)制度の政府内での検討にあたって重要な意義を持つものである。
データ分析:まず取得した電気製品の保有情報から、平均保有台数および普及率といった基本統計量はもとより、保有台数の相関をもつキードライバー(説明変数)の特定を実施した。この結果は、今後同国のS&L制度の対象製品検討に寄与するものである。具体的には、世帯収入と構成人数がドライバーであることを特定した。例えば、特にエアコンおよびLED/LCDテレビなどの保有台数は世帯収入との相関が高く、一方で、冷蔵庫やCRTテレビは家族の構成人数との相関が高い製品の代表であること等が特定された。
提言・含意
供給側政策においては、1)水力発電に偏りがちな現行のエネルギーシステムに、石炭等火力発電の導入を検討するべきである。2)発電偏重のダム開発を脱し、総合的な水系管理を志向すべきである。3)分散型エネルギーシステムを、ニーズを踏まえて導入して、農村地域の開発に役立てることが重要である。4)都市—農村関係を踏まえて、電力価格構造を設定すべきである。5)電力事業者のキャパシティを向上し、需要予測精度の向上、輸出先需要の把握、送電ロス及び盗電の低減等に努めるべきである。
需要側政策においては、1)特に実態の把握、またそのためのデータ整備と分析が重要であり、そのようなデータを蓄積する必要がある。2)データ整備と分析のための幅広い人材育成、そのための技術の育成が必要である。3)省エネルギー政策においては、諸外国、特にASEAN域内におけるBest practicesの共有が不可欠である。
3. ミャンマーにおけるエネルギーアクセスの改善
ミャンマーにおける、1人当たり一次エネルギー供給量は0.32石油換算トンであり、2007年時点で日本の8%。また、一次エネルギー供給構成は、石油10%程度、ガス20%程度、その他バイオマスが70%を持占める。なお、発電に関しては、水力が80%程度を占めている。一方で、中国国境のダムからは、雲南省への輸出も行い、中国との間では石油・ガスのパイプラインを敷設し、タイには同国の主要電源である天然ガスをパイプラインで供給している。このように地域の主要なエネルギー供給国である。
このように豊富なエネルギー資源が賦存しているにも関わらず、各種機関によるエネルギーアクセスの指標は極めて低い。例えば、電力消費などの指標をベースとしたIEAによるEnergy Development Indexをみると最低レベルである(図)。これは、地方におけるエネルギーアクセスの悪さが主たる原因である。このような「逆説的現状」を踏まえて、ASEANやGMSにおけるエネルギー相互依存関係の深化の流れの中、2015年経済統合を踏まえ、同国のエネルギーアクセスを改善し、安定した経済発展を実現する必要がある。
アクセス向上のための第一の方法は、電力網の拡張である。第二は、ミャンマーのエネルギー資源獲得にインセンティブをもつ隣国と共通の利害構造を作ることである。最後は、上記以外のオフグリッド地域において現存地域資源を活用する方法である。
これら3つの方法について、①電力網のシミュレーション、②フィールドワーク、③ミャンマーの資源エネルギー開発に関係するアクターの分析、を行う必要がある。
提言・含意
これまで関係者会議等で示されたもののうち主要なものは以下の通りである。
エネルギーアクセス改善を多様な方法を用いて進めていくためにも、現在多くの省庁に分かれているエネルギー政策の統合・調整が不可欠である。
エネルギーアクセスの確保に配慮しつつも、電力を中心とするエネルギー価格について補助金を整理・撤廃、料金体系を合理化することが必要である。
エネルギー政策の企画立案実施を透明化することが必要である。
長期的ビジョンを示し、政策の安定化を図る必要がある。