エネルギー効率化ロードマップ

東京大学政策ビジョン研究センター教授 坂田 一郎

東京大学政策ビジョン研究センター特任研究員 佐々木 一

東京大学公共政策大学院特任研究員 山口 健介

2012/8/17

2011年度報告書(ERIAプロジェクト)

政策ビジョン研究センターでは、東アジアASEAN経済研究センター(ERIA、本部ジャカルタ)より、エネルギー効率化ロードマップ・プロジェクト(Energy Efficiency Roadmap Formation Project) の依頼を受けて、2010年11月より、エネルギー高度化に向けたロードマップ作成の調査・研究活動を進めてきた。本年度は、当プロジェクトの第2期として調査・研究活動の継続の実施をし、最終報告をまとめた。その概要は以下の通りである。

エネルギーの効率化は先進国のみならず、発展途上国にとっても重要な課題の一つであり、近年では東南アジアにおいてもホットトピックの一つとして認識されている。代表的な国のひとつとしてラオスが上げられる。ラオスは大メコン地域(Great Mekong Sub region)に属する国の一つであり、2008年時点の人口は632万人程度とされているが、継続的に急増の一途をたどっている。一般的に、エネルギー需要の増加は、人口の増加に比例することから、ラオスにおいてもエネルギーの効率化は大きな課題の一つとされている。

本プロジェクトの目的は、ラオスの発展に資するべく、エネルギー技術の経済的および社会的影響を考慮したエネルギー高度化のロードマップを提案することである。とくに本プロジェクトでは、エネルギー需要側の効率化ではなく、エネルギー供給側の効率化に焦点を当てることにした。これは、ラオスのような発展途上国においては、需要側よりも供給側の効率化のほうが比較的制御が容易であるためである。

ロードマップ

本プロジェクトのアプローチ概要

我々はまず、文献調査とフィールド調査を通じて、ラオスの社会・経済状況の把握を行なった。次にこの結果を受けて、今後のラオスの国家政策、経済社会状況、技術能力を元に、3つの将来シナリオを提案した。これらはそれぞれ、貧困削減、産業育成、外貨獲得に焦点をあてたシナリオである。

次に、これら3つのシナリオに対し、政策と技術の両面から経済・社会的影響を考慮し、ラオスにおける実現可能な観点でのエネルギー技術ロードマップの提示を行なった。具体的な技術として、貧困削減を目的としたシナリオでは農村電化を中心とした再生可能エネルギー技術の導入、産業育成を目的としたシナリオでは、高効率火力発電に関する技術と、エネルギーマネジメントの技術。そして、外貨獲得を目的としたシナリオではASEANグリッドを視野に入れた長距離送配電における効率化技術である。

これらシナリオは独立に考えることができるものではなく、相乗効果やトレードオフが存在する。したがって、このようなシナリオ相互の影響と優先順位を考慮した上で、ラオスのエネルギー全体戦略に関して考察を行った。

本プロジェクトの最終的な結論としては、ラオスにとって将来的に必要となる以下の10の提言を行なった。

  1. Install small-scale distributed energy systems swiftly according to need.
    必要に応じ、小規模な分散電源システムの導入を迅速に行うこと。
  2. Link rural electrification to rural development.
    農村電化は、農村開発と関連づけた形で実施すること。
  3. Complement existing energy systems with thermal power.
    火力発電を補完するエネルギーシステム
  4. Strengthen the power governance in transmission and distribution systems.
    送配電の強化
  5. Improve the capacity of estimating demand in the power market.
    電力市場における需要予測の能力向上。
  6. Integrate water management into the hydropower development plan.
    水力発電計画と治水管理の統合的なマネジメント
  7. Internalize environmental / social external cost into the major hydro plans.
    水力発電計画において生じる環境および社会コストの検討
  8. Determine electricity pricing policy according to urban-rural relationships.
    農村都市感の価格調整メカニズムの策定
  9. Develop diverse methods of funding for the EDL Generation.
    ラオス電力局による発電に対し、多角的なファンディングの仕組みの確立。
  10. Strategically manage foreign investments in a comprehensive plan.
    諸外国投資に関わる包括的な戦略立案

また、東アジア首脳会合の枠組みのもと2011年8月24日に、ビエンチャンで開催された第1回エネルギー効率化会議に招待を受け、本プロジェクトの活動成果の中間報告を行なった。本会議は、政策担当者、学者、エネルギーや経済開発の専門家、民間企業が領域を超えて集まり、東アジアのエネルギー効率化の問題について、政策への理解を深め、各国の知識や経験を共有し、将来の可能性を議論する機会を提供することを目的としたものである。同会議には、ERIA、アジア開発銀行、国際エネルギー機関等の国際機関、アジア十数カ国から200名以上が出席し、本センターからは、坂田一郎、城山英明両プロジェクト代表、吉澤剛特任講師、佐々木一特任研究員、山口健介特任研究員の5名が参加した。

また、同会議の第2回として2012年7月31日から8月1日にプノンペンにて第2回エネルギー効率化会議が開催された。第1回と同様、東アジア各国から200名のエネルギー政策関係者が集い、エネルギー効率に関するベストプラクティスを共有することを目的としたものである。

基調講演として、我が国からは木原晋一経済産業省国際エネルギー戦略室室長が、日本がかつて経験したオイルショックや、昨年の福島原発事故に触れ、今や日本のみならずアジア各国はこれからの継続的な経済発展のためにエネルギー効率化に大きな挑戦をしなければならないと主張した。

本学は、同会議の第3セッションを担当し、ラオスにおけるロードマッププロビットについての最終報告と問題提起を、坂田一郎教授より行なった。

同会議終了後は、本センターとラオスエネルギー鉱物省担当官との間で、今後のプロジェクト継続方針について調整を行った。したがって、2012年度も継続的にラオスにフォーカスを当てる予定である。とくに送配電におけるエネルギー効率化、需要サイドにおけるエネルギー効率化のポテンシャルに関する調査・研究を進めていく方針で両者合意をした。

また、今後は、ラオスとともに、その隣国でもあり近年国際的存在感を増している、ミャンマーへのエネルギー調査・研究にも着手していくことを視野に入れている。こちらについては芳川特任教授が、ERIAの協力を仰ぎつつ同国のコンタクトパーソンを探っているところである。