仮想世界と法を考える研究会

設置日 2009/7/27 活動報告(EPUB)

設立趣旨

仮想世界の技術的な研究(バーチャルリアリティ等のインフラ技術等)は進んでおり、最近でも次々と新しい仮想世界のサービスが出現してきているが、仮想世界における法的な側面の研究は黎明期であり、技術やサービスの進展に比して完全に遅れている。海外では研究例が増えつつあるが、日本国内では研究者がほとんどいないのが実情である。

従来の仮想世界(例:ロールプレイングゲーム)というのは、あくまでもその管理者(例:ゲームメーカー)が仮想の世界をコントロールしていたため、その仮想世界における法律問題が発生した場合にはその管理者(ゲームメーカー)の責任であることが明確であった。

しかし、数年前に仮想世界のインフラ(正確には仮想世界内の土地と通貨)だけ提供し、管理者は基本的にその仮想世界内で起きる事象を管理しないという仮想世界が出現した。具体的には、2003年に始まったSecond Life (日本版http://jp.secondlife.com/)と呼ばれるそのサービスがそのようなユーザーの自由度の高い仮想世界の走りであり、ユーザーが自分の仮想世界の分身(アバターと呼ばれる)を自由に操作し、自由に仮想の商品等を創作して販売することができる。

ここで従来のいわゆる「ゲーム」と異なる点として、まず現実世界と同様にゴールが存在しないという点(俗にゲームの目的達成を意味する「クリア」もゲームの目的不達成を意味する「ゲームオーバー」もない)が挙げられる。また、仮想世界の中で入手した仮想世界の通貨(Second Lifeではリンデンドルと呼ばれる)は、現実世界の通貨と換金することが可能という意味でも単なるゲームの域を超える部分がある。このような中で、米国において、2007年10月24日にこのSecond Lifeを巡る訴訟が提起された(Eros V. Simon事件)。これは仮想世界の中で販売していた仮想ベッドの違法コピー商品を仮想世界の中で無断で売買されたことを理由とする著作権侵害訴訟であり、あくまでもユーザー同士の訴訟である。

仮想世界では人物(アバター)や土地、建物、動産その他全ての物体が、そもそもコンピュータに記録されている「情報」であり、無体物であるため、情報や無体物をもともと取り扱い対象にする知的財産法が最も関連性の高い法領域であり、まずはこの法領域の問題を検討する必要がある。

他方、仮想世界を巡っては、このような知的財産法の問題のみならず、人と人がコミュニケーションを自由に行って商取引もできるという現実世界との類似性から民法(仮想世界の商品と売買の問題)、刑法(風俗の問題の他、仮想世界の土地売買の詐欺事件等)、税法(仮想世界の売買に対する課税問題)といった様々な法律上の問題も指摘されている。

そこで、本研究会では、仮想世界と法について、最も関連度の高い知的財産法の観点を中心として研究するとともにその他の関連問題についても必要に応じて検討する。

1.目的

仮想世界と法の問題について、特に知的財産法を中心としつつ、その他の関連領域について様々な分野の実務家、研究者とともに研究し、現行法における問題点を指摘するのみならず、今後ますますの拡大が予想される仮想世界に対する日本国政府の政策ビジョン形成に資する提言等を含めた研究成果を創出することを目的とする。

2.活動内容

  1. メーリングリストを作成し、仮想世界と法に関する話題を随時議論する。
  2. Ⅰ で話題になり、具体的な検討が必要になったテーマに付いて研究会を開催する。
  3. Ⅱ の成果のうち公表すべきものはホームページ等を通じて随時発表する。
  4. 仮想世界と法に関して研究成果をまとめ、出版する。

3.組織

東京大学政策ビジョン研究センター 知的財産権とイノベーション研究ユニット内に置く。

4.活動報告

※本研究会の成果物が電子書籍になりました。
活動報告(EPUB形式) (2012年5月発行)

5.アドバイザー

中山信弘(弁護士・東京大学名誉教授)
國井利泰(東京大学名誉教授)

6.メンバー(2012年6月4日現在)

荒井俊行(弁護士・ニューヨーク州弁護士・奥野総合法律事務所)
市村直也(弁護士・弁理士・橋元綜合法律事務所)
今井鉄男(弁護士、ニューヨーク州弁護士、任天堂株式会社知的財産部)
大槻透世二(サイバーアドベンチャー株式会社代表取締役社長)
潮海久雄(筑波大学大学院教授)
中崎尚(弁護士・アンダーソン・毛利・友常法律事務所)
長谷部智一郎(公認会計士・有限責任監査法人トーマツ)
幹事杉光一成(金沢工業大学教授・東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員)
事務局芦田望美(弁理士)