第13回 PARI政策研究会
09/09/04
当センターのポリシーディスカッションペーパー:「安心して暮らせる活力ある長寿社会の実現を目指して」 に関連して、文科省市民後見・福祉信託プロジェクト・プロジェクトマネジャー、東京大学医学系研究科特任助教の宮内康二先生にお話を伺いました。
市民後見による地域福祉経済の活性化
宮内 康二 助教(東京大学医学系研究科特任助教)
今なぜ市民後見か
判断能力が不十分な方の身の回りの手配や財産管理などを、代理権をもって行うことを選任する制度を成年後見制度という。後見人には同意・取消権が民法で規定されている。本人に十分な判断能力があるうちに、あらかじめ自ら後見人を選んでおく(任意後見)ほかに、本人の判断能力の程度などに応じて補助人/保佐人/後見人をつける、法定後見がある。
現在、認知症高齢者は200万人を越え、精神障害者や知的障害者を含めると、成年後見制度を利用すべき人は既に500万人を越えている。これに対し、2000年に始まった成年後見制度の利用実績は20万件弱である。
後見人の7割は親族であり、報酬を必要としない。残りの3割は、専門職後見人(後見人として登録されている司法書士、社会福祉士、弁護士など)であり、その候補者数は現在2万人弱だが、1人の後見人が担当できる被後見人の数は最大でも10人であり、量的にかなり不足している。また、専門職後見人にかかる行政コストも大きく、高齢化に伴って今後急速に増大するニーズに応えるのには無理がある。
これからは、財産管理だけではなく、生活を支える細やかな後見のあり方が問われる。被後見人に近い、市民目線を持っている人が必要であり、質的にも市民後見の必要性は増している。
市民後見事業を通じた地域福祉経済の活性化
市民後見人の数は現在100人に満たないが、文科省「社会人の学び直し」からの予算で、東京大学と筑波大学合同の大規模な市民後見養成講座を今春から始めた。1年間で125時間の授業があり、成年後見制度や高齢者、知的障害者、介護保険サービスなどを学ぶ基礎講座に加えて、地域活動、実務講座、体験活動がある。1期生は300名、2期生は500名であり、2年後には1000人の後見候補者が生まれる予定である。
後見人の選任権は家庭裁判所にある。家裁が気にするのは、選任した後見人や保佐人・補助人が被後見人のお金を横領しないかということ。実は、親族後見人の4割が親族(被後見人)のお金を横領している。こうした事態を防ぐため、法人が後見人として受任すると同時に、複数人の後見がつく形にしたらどうかと思う。また、信託と後見の合わせ技を考えたい。被後見人のお金を信託するということにすれば、後見人は被後見人の財産を触れない。法人後見人はその受託者に指図をし、被後見人が使ったサービスに対する費用を支払うのである。これにより、判断能力のある法人により各種生活サービスは評価されていき、詐欺や悪徳商法等の業者は排除されるだろう。