開催報告 国際シンポジウム: Joint Fact-Finding

共同事実確認方式による原子力発電所の地震リスク分析の可能性

開催概要

【日時】 平成23年12月16日(金)9:30-12:00
【場所】 東京大学本郷キャンパス 工学部2号館 213号講義室(地下1階)
【主催】 東京大学政策ビジョン研究センター社会的合意形成支援研究ユニット

シンポジウム趣旨・プログラム
開催報告詳細 (2671 KB)

議事要旨 - 共同事実確認手法活用事例

東京大学公共政策大学院 特任准教授
松浦 正浩(個人サイト

当日は、96名のみなさまにご参加いただき、原子力発電所の地震リスクに対し、共同事実確認(Joint Fact-Finding)方式を利用する可能性について、海外の事例と経験を踏まえた議論をすすめた。

共同事実確認(Joint Fact-Finding)とは、多様な、時には結論が対立する科学的情報を吟味し、背後にある前提条件、モデル、感度分析等を含めて公開した上で、関係者がある程度納得できる科学的情報と、現在の科学の限界を整理することで、社会的意思決定をできるだけ科学的情報に基づくものとする取組みだ。科学的情報の対立による混乱を収拾し、整理する手法の一つである。

原子力の政策決定プロセス 〜米国の2事例から学ぶ〜
The policy-making process for nuclear power: two examples from the United States

アリソン・マクファーレン

ジョージメイソン大学 准教授(環境科学・政策)


米国でも、原子力政策については、さまざまな議論があり、推進派と反対派が二極化しているなかで、原子力にかかわる有効な政策を形成することは困難な状況にある。そのような状況下にある米国での2事例をご紹介いただいた。キーストーンセンターによる原子力JFF(Nuclear Power Joint Fact-Finding)は、原子力の懐疑派と推進派を集めて、原子力利用の経済性、気候変動への貢献、保安と安全保障、放射性廃棄物と再処理、核拡散への影響についてとりまとめた報告を作成した事例である。実際に参加された立場から、原子力JFFによる共同事実確認のポイントとして、以下の点を指摘された。

  • プロセスにコミットできる参加者の人選が必要
  • 外部専門家も意見が二極化しており、現実には共同事実確認の理想形にならなかった
  • 事実の確認にとどめるのか、将来予測に踏み込むのか、さらに政策提言まで行うのかについて、プロセスの位置づけの明確化が必要
  • 活動資金が複数の立場から提供されたため、プロセスの成果も、公正なものと認識されやすくなった
  • 参加者に何を求めるのか(この事例では最終報告書への署名)を早い段階で明確に伝えることが必要
  • プロセス運営についても、専門知識を十分に有するスタッフがいたことが重要
  • 報告書のたたき台は運営スタッフが準備したことで、偏りのない報告書となった

また、米国における原子力燃料サイクルのバックエンドについての政策形成として、ホワイトハウスによって任命された、 アメリカの原子力の将来を考えるブルーリボン委員会(Blue Ribbon Commission on America’s Nuclear Future)についてご紹介いただいた。この委員会は、2010年1月に設置されたもので、必ずしも共同事実確認方式によって実施されたものではないが、原子力政策に関わるものであり、また類似する点も多いため、以下の4つの示唆をいただいた。

  1. 州政府から一般市民まで、アウトリーチを幅広く行い、会合の議事を公開とするほか、公聴会による意見聴取も行った
  2. 事例等の現地視察(国内外)が非常に有効であった
  3. コンセンサスを目指すプロセスであるため、それぞれがある程度の妥協をする必要があった
  4. ブルーリボン委員会への参加は無報酬であったが、謝金などを提供するほうが、関係者からより協力を得やすかった

米国のエネルギー意思決定におけるステークホルダー関与の改善に向けた共同事実確認手法活用事例
U.S. Experience in Using Joint Fact Finding to Improve Stakeholder Engagement in Energy Decision-making

ジョナサン・ラーブ

ラーブ・アソシエーツ社代表


ジョナサン・ラーブ博士からは、U.S. Experience in Using Joint Fact Finding to Improve Stakeholder Engagement in Energy Decision-making(米国のエネルギー意思決定におけるステークホルダー関与の改善に向けた共同事実確認手法活用事例)として、共同事実確認や関連する手法を通じて、ステークホルダーや市民をより意味ある形で政策や立地問題に巻き込むことで、エネルギーに関連する意思決定の有用性と正統性を同時に高める可能性についてお話いただいた。

第一の事例は、ケープウインド社による、マサチューセッツ州沖に130基の風車、400MW級の洋上風力発電所を建設する計画について、共同事実確認を行った事例である。計画に対する反対もあり、特に景観への影響が強く懸念されていた。事業者は自らコンサルタントへ委託し、景観影響予測を発表したが、反対団体も別のコンサルタントに委託し、大きく異なる景観影響予測を発表したことで、科学的な情報を巻き込んだ対立へと発展していた。共同事実確認では、それぞれの予測について、各コンサルタントを含めて再検討し、日照や風車の角度等の前提条件を変化させると、予測の結果がどう変化するかを検討した事例である。

第二の事例は、2007年にバーモント州の電力の将来について検討したものである。バーモント州の電力は、カナダにおける水力発電からの輸入と州内の原子力発電所で8割が賄われていた。原子力発電所については、州電力公社がエンタジー社に2002年に売却した際、運転免許の更新については、州議会が拒否する権限を持つという条項が付されており、免許更新の是非について論争が起きていた。そこで、バーモント州の電力の将来について、州知事のイニシアチブで、地域ワークショップと討論型世論調査を実施した。地域ワークショップは共同事実確認型で、ステークホルダーと専門家パネルの間で議論を行った後、より幅広く州民の意見を把握するために討論型世論調査を実施している。

第三の事例は、ボストンの気候計画(Climate Plan)で、市としての温室効果ガス削減目標の達成についての議論が2009年から進められ、2010年に提言として、市長に提出された。このプロセスの特徴も、ステークホルダーを中心としたプロセスに加えて、若者を巻き込んだワークショップの開催など、幅広い市民を対象としたアウトリーチを積極的に行った点にある。

ラーブ博士からの事例紹介のポイントとしては、第一のケープウインド洋上風力発電事例のようなステークホルダーによる事実確認のプロセスも有用であるが、今後は、第二、第三の事例のように、ステークホルダーに限定せず、より広い公衆の関与を、共同事実確認のプロセスの一部に位置づける必要性がより高まるだろうという点にあった。

パネルディスカッションの内容など、詳しい報告書は下記からご覧ください。
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