開催報告 第4回 Energy Policy Roundtable

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中国のエネルギーの展望とエネルギー政策

第4回 開催概要

【日時】 平成24年10月11日(木)14:00-16:15 (開場13:30)
【場所】 伊藤謝恩特別会議室(伊藤国際学術研究センター内 3階)
【主催】 東京大学政策ビジョン研究センター
【共催】 東京大学公共政策大学院

議事概要

東京大学公共政策大学院 政策ビジョン研究センター併任
特任教授  芳川恒志

10月11日、第4回エネルギー政策ラウンドテーブルを開催した。このラウンドテーブルの本年前半での議論を踏まえ、今回は世界で存在感をますます増している中国に焦点を当てることとした。特に、中国のエネルギー需給構造とその政策について、「第11次5か年計画」の成果とスタートしたばかりの「第12次5か年計画」を比較検討しつつ、中国のエネルギー政策の課題、今後の中国のエネルギー政策の方向と他のアジア、とりわけ我が国との関係について議論を行った。日本における中国のエネルギー事情・エネルギー政策研究の第一人者である長岡技術科学大学李志東教授から「中国における低炭素社会に向けた総合エネルギー政策の動向と取組み」と題した基調講演をしていただき、その後、エネルギーや行政学、エネルギーを中心とする中国産業分析の第一線の研究者の方にご参加いただきパネルディスカッションを行った。

李志東 長岡技術科学大学 教授

まず、李教授による基調講演の概要を以下のとおり紹介する。

中国は本格的に低炭素社会を目指しはじめており、このことを抜きにして現在の中国のエネルギー政策は語れない状況に至っている。

まず、なぜ中国は低炭素社会を目指しはじめたのか。それは中国が、持続可能な発展を実現するためには現在の石炭を中心とする化石燃料中心のエネルギー需要構造とそれに組み込まれたCO2排出増のメカニズムから可能な限り脱却する必要があると認識を変化させてきたからであり、むしろ低炭素社会を積極的に目指す中で経済発展を図るとの発想の転換を図ったからである。このことを全国人民代表会議で決議し、それに合わせて国際と国内の両面で戦略をたてているのである。

国際的には、温暖化交渉において、「共通であるが差異のある責任原則」を求めつつ、CO2排出枠、すなわち経済成長の空間をしっかり確保することを狙っている。一方、国内の戦略としては、国際戦略の成否にかかわらず、次の3つを低炭素社会に向かう柱としている。すなわち、温暖化防止、エネルギー安定供給の確保、関連技術開発と産業の育成である。温暖化に関する国内の対策として、省エネを進めると同時に原子力を活用するなどエネルギーシステムからできるだけCO2を排出しないようにし、併せて、長期的課題として二酸化炭素回収貯蔵(CCS)等の研究開発や植林を進める。この中では、特に省エネとエネルギー構造調整が中心であるが、後者については一次エネルギー消費における石炭の比率を下げることで二酸化炭素依存度を低減しようとしている。

それでは、これら3つの柱に即して具体的にどういう戦略目標をたてているかであるが、

  1. 温暖化に関しては、国連に提出した「自主行動計画」(2010年1月)において、2020年までにCO2のGDP排出原単位を2005年比40−45%削減、非化石エネルギーの利用目標として7.5%(2005年)から15%(2020年)まで拡大、森林面積を4千万ha増加させるといったこと等を決めている。
  2. 安定供給と高効率のエネルギー産業体制構築を図ることとされている。
  3. 産業・技術開発に関しては、「市場大国」から「産業強国」を目指すとされている。二酸化炭素回収貯蔵(CCS)や再生可能エネルギー産業、また自動車など裾野の広い関連産業分野を低炭素化しつつ、それを通じてこれらの産業の振興も同時に図ろうとするものである。

こういった戦略目標を実現するための具体的政策であるが、低炭素社会実現に向け地球温暖化ガス(GHG)排出抑制を全体目標に、具体的には、省エネとCO2 排出原単位の削減を拘束力のある目標とし、同時に問責制度などの厳格化、排出量取引市場の整備と簡素税導入、エネルギー価格体系の合理化等具体的対策を出している。また、これを実現するための長期的対策として、法律や税制・補助金等を活用して、低炭素社会に向けた経済的インセンティブを創出しようとしている。

現行の「第12次5か年計画」を検討する前に、前の「第11次5か年計画」を見ると、省エネや非化石エネルギー利用など主要な政策分野において、政策手法としてはじめて拘束力のある目標を導入したことが注目される。また水素、燃料電池、次世代自動車といった優先技術分野を指定し、規制と補助金等を集中的に投入した。また、地方政府や主要企業千社に割り当てし、連座制を導入し、目標を達成しなかった場合に親会社や会社の立地自治体の責任も追及(例えば新規立地の制限や昇進の規制等)するとしている。このような対策が奏功し、5年間でGDP当たりエネルギー消費量を2005年比20%減との目標に対し、19%超の削減を、再生可能エネルギー開発については、一次エネルギー消費に占める非化石燃料の割合を8.1%に引き上げるという目標に対し、8.3%をそれぞれ達成した。このような努力を通じて、石炭火力発電所の効率性が急速に改善するなど先進国に対する技術格差も縮小された。エネルギー安全保障の面では、海外石油権益を積極的に獲得した結果、石油純輸入に対する権益分の割合が約30%超となった。

このように、第11次計画では期間中に多くの分野で成果が上がっているが、これは先進国で有効と証明された技術を積極的に導入し、仮に比較優位ない技術等であっても長期的視点から導入するなどしたことによるものであり、例えばこれまでに自動車や燃料電池など、芽が出つつあるものもある。

一方で、現行5か年計画につながる課題も存在する。一つは法整備が依然不備なことであり、これにより、経済インセンティブが不十分なまま残されている。また、エネルギー価格の自由化についても今度一層進める必要がある。省エネは成功したが、CO2排出削減の点では改善の余地が大きく、今後は石炭消費を抑制することが課題である。もう一点は、エネルギー純輸入の拡大である。エネルギー源別では94年から石油は純輸入国となり今や日本を超え世界第二位の輸入国である。天然ガスについても、LNGやパイプライン等インフラの整備が進んでおり需要が急増している。石炭はもともと自給自足であったが、2009年から純輸入に転じ、今や化石燃料すべて純輸入国になっている。このように、エネルギー輸入のコスト負担増が今後中国経済にとって大きな課題となってきている。

上記を踏まえ、「第12次5か年計画」では以下のようなエネルギー政策が定められている。まず、石炭等化石燃料の比率を下げ、2015年までに11.4%に(2010年8.3%)、さらに2020年には15%に引き上げる。省エネも引き続き推進する。CO2排出削減については、GDP当たり排出量を2010年比17%削減する。国連に提出した約束は2005年比40−50%削減であるが、この目標では2020年でCO2を47%削減できることになる。

エネルギー源別では、石炭について、2009年生産量39億トン、2011年34億トンであったところ、2015年で消費量と生産量を39億トンに抑制するとしている。石油については、安定供給の確保が最大の課題であり、原油輸入の方針から精製能力を拡大するとともに、次世代自動車を研究開発し、需要側から消費を戦略的に抑制しようとしている。天然ガスについては、環境意識の高まり等から需要が大幅に増え2015年には需要が2倍になると見込んでいる。国内にシェールガス等非在来型ガスは存在するが、海外から安定的に輸入できるなら国内資源にこだわらないとしている。原子力発電については、現状は、15基1300万KWが稼働中、26基、2900万KWが建設中で、昨年の4月以降新規建設は凍結中である。昨年3.11以降政府は危機意識を持ってまず原子力発電所の安全について点検を行うとともに、今後の計画の再検討を開始した。5月に出された結論では、今後さらなる災害対策等の強化が必要であるが、建設中のものも含め中国の原子力発電所の安全性が宣言された。もっとも、今後の開発計画については見直し中であり、原子力発電所の必要性、予防的安全対策を如何に構築するか、事故時の影響をいかに最小限に抑制するのかなどが検討されている。再生可能エネルギーは2010年設備容量2億4千万KWであったが、2015年3.9億KW、2020年6.3億KWとされ、その中心は大型水力、風力、太陽光である。一方、再生可能エネルギーのコスト競争力は依然課題であり、中国においてもドイツと同様再生可能エネルギーによる電力に対する賦課金分が料金に上乗せされている。しかし、発電コストは下がりつつあり、現在の傾向が続けば太陽光発電は2015年ごろには石炭火力による価格とほぼ同じレベルになる見込みである。

以上エネルギーの供給サイドであるが、需要側では、CO2 原単位改善を改善するため、地域別に目標を割り当てている。「共通だが差異のある責任」を国内でも実施しているのである。すなわち、最も削減率の高い最先進地域である広東省から、最も開発が遅れているチベットが最も低く設定されている。排出量取引制度についても、全国7地点で実験開始し、2020年までに中国全体の市場を形成することを目標としている。

このように、様々な課題はあるものの、中国は国家を挙げて低炭素社会を実現しようと努力している。これは地球的課題でもあり、円滑に進めるためには、日中が協力する余地も大きいと思われる。特に技術や制度設計などの分野は相互補完関係もくみやすいのではないかと考えられ、例えば、中国の弱点は、技術では系統連系、インバーター等の周辺技術であり、制度設計面では省エネ等について日本の知見は役に立ちうる。また、エネルギー安全保障分野では、今や日本も中国も化石燃料の大純輸入国であり、特に、直近ではアジア向け燃料は価格も高いなどの共通の課題もあり、このような面でも日中協力の余地は大きい。加えて、長期的には天然ガスの確保、原子力開発、特に原子力安全分野も、協力の可能性のある分野である。アジアにはこのようなエネルギー問題を話し合う場がないので、例えば、アジア版の国際エネルギー機関(IEA)といった組織も検討しるのではないか。

左から、田中伸男 日本エネルギー経済研究所 特別顧問・前IEA事務局長、堀井伸浩 九州大学経済学研究院准教授、城山英明 東京大学大学院法学政治学研究科 教授・政策ビジョン研究センター長

このような基調講演に対して、パネリストから様々な議論や意見が提示され、活発な議論が行われた。議論は多岐に及ぶが大きな流れと論点を示すと以下のとおりである。

  1. 政府による規制と市場機能

    低炭素社会実現に向けた実施メカニズムに関して、政府による規制と市場機能やその活用はどのような関係になっているのかとの問題意識が示された。この関係で、特にエネルギー価格自由化やエネルギー補助金改革の現状等や現行システムについて議論がなされた。5か年計画遂行の観点から、問責性や連座制の導入に見られる非市場的規制を総動員することで目標達成を目指していると考えられると同時に、エネルギー分野でも市場原理に基づき価格指標で決定される分野も広がってきているようであるからである。 この点に関しては、市場機能の拡大や経済的インセンティブの政策面で活用が進むなど以前とは規制と市場を巡る状況は大きく変わりつつある。市場原理に基づき、経済メリットが政治目的に優先するようになりつつある分野もある。しかし、決して市場だけで決められまた進んでいるわけではなく、政策が介入しながら、市場も使いながら、その相互作用の中で政策が実施されているというのが実態に近いのではないかとの認識でほぼ一致した。もっとも、エネルギー価格の自由化との観点からは、例えば、天然ガスについては、国内価格は輸入価格の半値程度に抑制されており、結果として過剰消費が生じている。そのため天然ガス消費は許認可になっているという状況であり、価格の自由化が必要である。このように、市場の活用が進んでいる一方で、価格自由化や補助金の改革が必要な分野も残っている。
  2. 「第12次5か年計画」とその意義

    石炭の比率を下げるというのが大きな点の一つである。経緯を振り返ると、高度成長期に一度石炭の比率は上がったが、その後低下し、またその後再度あがり、また下がってきている。このような脱石炭化の背景には、市場に基づく経済性の変化があると思われる。「第11次5か年計画」で掲げられた目標の多くは達成されたが、特にエネルギー原単位の19.1%改善は意味のあることである。12次では16%の目標としている。CO2等の目標では過剰達成され、実質的に4年で関連の装置を全国的に導入された。このように中国では技術が日々進んでいることを忘れてはならない。今次計画では新しく目標として、非化石燃料やNOXの目標を掲げている。 エネルギー源別では、石炭の一次エネルギー比率を68%から63%に低減するとしている。石炭火力は経済性の面からかつてのように安価な燃料ではなくなりつつある。実際上、石炭火力は43%の発電所が赤字に陥っている(2010年)。市場の中で、石炭火力の競争優位性が失われているのである。石炭供給についてみると、中国は今や最大の石炭輸入国であり、国内と国際という2つの市場から価格に応じて調達することで、輸入できるときは輸入し、いざという時のために石炭を温存しておくとも考えられている。もともと石炭は割安価格で発電所に供給されていた経緯があるが、今やこのような指導価格制度はなくなり、市場で決まるようになってきている。中国の炭鉱も、いわば普通のビジネスになりつつあり、集約化等も進み、安全性も改善し生産余力も上がっている。 2020年には電源全体は2010年のほぼ2倍になる見込み。石炭火力の比率が下がり、水力、太陽光等の再生可能エネルギーが拡大し、多様化が進む。
  3. 原子力

    中国は国家の安全保障の観点からも原子力発電をどうしても必要なものと判断しているものと考えられる。プルトニウムについても当面は貯蔵ということであろうが、将来的に発電で使うということで、再処理路線を残すということであろうとの意見も出された。 一方で、原子力発電の経済性に関しては、相当安価になり競争力が増しベースロード電源としての魅力が増しているが、一方で建設事業者の受注残も積み上がっていることから2020年までに急激に伸びることには制約があるといわれている。このように原子力発電の経済性については、卸売価格等の計算に当たりバックエンド費用は算入されていないこと、立地費用も中国では日本ほどはかからないと思われるここと、稼働率が90%以上と高くさらに国産化が進展し、結果として投資額が低くなっているなどの事情にも注意する必要があろう。 法制面では、基本となるべき原子力エネルギー法について法律案はあるようだがどこかで止まっている模様である。バックエンドは中間処理のめどを2015年までにはつけるとの文献もある。
  4. 低炭素社会に向けた長期的課題

    中国の「第12次5か年計画」で示された40−45%削減というGDP原単位改善はおそらく達成できると思われるが、問題はむしろ「第12次5か年計画」の先にあり、450PPMシナリオ実現のためには2015年前後にCO2排出をピークにする必要がある点も見過ごされてはならないとのコメントもあった。もともと省エネには限界があることからCO2排出と経済成長は密接な関係があり、CCSのような画期的技術が実用化されない限り、経済成長をどう見込むか、どのように中国経済が成長していくのかが、CO2排出を見るうえで最も重要な要素である。現行5年計画では7%経済成長を見込んでいるが、IEAの見通しでは資源環境、労働力、水、高齢化の制約等考えると徐々に5%まで徐々に落ちるのではないかとしている。そうだとすると比較的早い時期にCO2排出はピークを打つ可能性もある。もし中国がそういう方向に進めば、先進国としても成果を示す必要があり、より真剣に取り組まざるを得なくなろう。そのような事態を考えてみても、日本にとって原子力は必要になってくる。
  5. 日中協力

    同じアジアに位置する消費国としての協力が必要である。例えば、中東に紛争が生じれば中東に原油を依存する日中双方にとって共通の需要問題であり、また、エネルギー価格も、特にアジアプレミアムといわれるような環境下では、特に重要な共通の課題である。このために政策対話のチャネルが必要である。また、エネルギー資源の共同開発なども進めるいいチャンスともなり得るのではないかとの意見もあった。一定の信頼醸成が必要ではあるものの、資金は中国に豊富にあり、技術は日本という補完関係が将来に向けて成り立つ可能性があるからである。 エネルギー面で米国の自給率が高まり、その結果として米国の中東等への関心が小さくなるといった事態を想定すれば、中東からアジアまでの長いシーレーンの安全確保についてのコスト負担も増していくことともなり、このような新しい国際環境も踏まえた日中協力が必要ではないかとの認識も示された。
  6. アジアにおける多国間協力

    中国は世界最大のエネルギー消費国となったが、そういう中国にとって米国のエネルギー輸入が減ることは総じていえば好ましいことであろう。中国をはじめアジア全体のエネルギー需要が伸びる中、日本を含めアジア全体の問題としてエネルギー安全保障を検討していくべき時期に至っているのではないかとの問題意識も示された。IEAはエネルギー安全保障の観点からグローバルに貢献してきたが、その重要な役割である供給途絶時の石油備蓄放に関しても、IEA加盟国だけではもはや効果が小さくなってきている。また、アジアにおいても国境を超えた電力グリッドが進みつつある中、またエネルギー安全保障が国境を越えた地域ごとに考えられ始めている現在、重要性を増しつつある電力の安全保障をどのようにアジアにおいて考えるかなども重要な課題である。 一方で、中国自身は、温家宝総理がスピーチにおいてG20をエネルギーと結びつけて活用を示唆したとも受け取られる発言を行っている。その中では拘束性のあるルールにも言及があった。OECDやIEAといった枠組みに対し中国が乗りにくいとすれば、G20を活用しつつ実質的にIEA等を巻き込んでいくということも考えられるのではないかとの意見もあった。 また、東アジア地域では、日中韓首脳会議も行われ既に定例化している。現状では十分活性化しているとは言えないが、既に原子力安全についても話し合われており、このような場も活用しうるのではないか。
  7. 人材養成

    人材養成、特に原子力分野における人材養成は、安全確保の観点からも重要であるとの議論が行われた。原子力発電を積極的に推進するとしても、安全をどう確保するのかという問題意識である。その際、いわゆる現場や研究開発と切り離した人材育成ということは困難であること、日本では現場と研究実績もあり、協力すべき分野であるとの議論もあった。また、中国においても原子力安全について2020年までの計画も公表され、その中のポイントの一つは人材育成であり政府の問題意識も高いとの説明があった。

芳川恒志 東京大学公共政策大学院 政策ビジョン研究センター併任 特任教授