第5回 エネルギー政策ラウンドテーブル
第2回 Policy Platform Seminar

エネルギー技術のイノベーションがもたらす可能性

東京大学公共政策大学院 政策ビジョン研究センター併任 特任教授
芳川恒志

2013/8/9

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開催概要

【日時】 平成24年12月19日(木)09:30-11:45 (開場09:00)
【場所】 東京大学工学部2号館講堂
【主催】 東京大学政策ビジョン研究センター、公共政策大学院「科学技術イノベーション政策の科学」

議事概要

12月19日、第5回エネルギー政策ラウンドテーブルを開催した。今回は、東京大学公共政策大学院「科学技術イノベーション政策の科学」教育研究ユニットによる第2回Policy Platform Seminarでもあり、長期的視点から、重要な横断的政策課題であるエネルギー技術革新をテーマとした。エネルギー技術革新がエネルギー安全保障や地球温暖化等3つのEのいずれの観点からも重要な要素であることは言うまでもないが、同時に科学技術全体の観点からもエネルギー分野は波及性の高い重要な分野でもある。また、福島原子力発電所事故を経た我が国にとって、特に今後ますます重要性が高まる分野でもある。今回は、まず、英国リーズ大学のPeter Taylor教授から、エネルギー技術革新が世界及び地域のエネルギー問題をどのように対処可能にするのか、また、エネルギー技術をベスト・プラクティスの習得やよりターゲットを絞った現実的政策を行うことで、さらに革新を加速できるのかといったことなども含めお話しいただいた。

同教授は、現在リーズ大学において総合エネルギー研究センターSustainable Energy Systems教授で、昨年まで5年間IEAにおいてエネルギー技術政策担当課長として、IEAの旗艦出版物であるEnergy Technology Perspectivesを成功させた責任者である。同教授の基調講演のあと、田中伸男日本エネルギー経済研究所特別顧問(IEA事務局長)、城山英明東京大学大学院法学政治学研究科教授(政策ビジョン研究センター長、公共政策大学院副院長)、笠木伸英(独)科学技術振興機構上席フェロー (東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻名誉教授)をパネリストにお願いし、議論を行った。まず、同教授の講演概要を以下紹介する。

エネルギー政策のトリレンマ解決の鍵は技術

国際エネルギー機関(IEA)の「世界エネルギー展望(WEO)2012」に依拠しつつ、グローバルな観点から様々なエネルギーを巡る課題をみると、世界的に再生可能エネルギーは増加するものの、当面は化石燃料に依存せざるを得ない状況が継続する。エネルギー需要はOECD加盟国以外で大きく増加するとともに、エネルギー原単位はすべての地域で減少し、したがってエネルギー消費は経済成長ほどには伸びない。同時に、エネルギー利用の観点から各国の格差は小さくなる。また、世界的にエネルギー自給率が下がり輸入依存は高まる。ただ、その例外は米国である。米国においては、非在来型の石油およびガスの生産増加により、輸入依存度が低下し、ガスについては輸出国に転ずる。財政への影響をみると、2035年まで中国等では輸入コスト、特に石油および天然ガスの輸入コストが上昇する見込みである。次にCO2排出量に対する影響であるが、2035年までに世界で23%増え、37Gトンになる。大きな伸びは中国、インド、ASEAN、中東等からの排出であり、非OECDからの排出が2035年までには50%を超える。この結果、450PPM目標達成は非常に困難な状況となる。

エネルギー政策当局者はトリレンマ(エネルギー安全保障、環境保全及び経済性)に直面しているが、これを解決するカギを握るのは技術である。我々はより統一され、スマートなエネルギーシステムを見出していく必要がある。しかし、どうすればこのためのイノベーションを刺激し加速できるのであろうか。

IEAの「エネルギー技術展望(Technology Perspective)」によれば、「2度目標」(450PPM目標)を達成するためには、電力部門(42%)を中心にすべての最終需要の部門(産業、運輸、ビル等)で一層のCO2削減を進める必要がある。これを技術側から見ると、省エネが31%で最大、以下再生可能エネルギー28%、CCS22%と続く。

これに対応するクリーンエネルギー技術進歩を見ると、IEAは多くの技術分野で必ずしも十分な進展がみられないとの評価を行っている。先行きが比較的明るいのは再生可能エネルギー、運輸面での省エネくらいで、期待される進歩を実現するためには、追加的対応が不可欠である。個別に見ると、再生可能エネルギーでは、特に、太陽光や風力で進展がある。太陽光(42%の伸び)で技術進展やコスト削減が進んでいるし、風力、水力やバイオマスも進んでいる。しかしもともとのベースが低いので比率としては依然小さい。運輸部門では、燃費は多くの国で改善傾向にある。レベルでいえば日本は最も高い。立法措置等も行われ、いずれの国でも運輸部門からのCO2排出は下がっている。しかし、多くの国では未だ燃費基準がない。ベスト・プラクティスを非OECD国とも共有し実施することが重要である。基準作りが燃費効率改善の最大のきっかけである。

エネルギー技術の展開・普及速度に関する2009年のCOPの直前に出された資料によれば、過去技術が市場に導入されてから1%のシェアに達するまで30年もかかってきた。エネルギー技術はリードタイムが非常に長いということである。このことを勘案すると、今後はもっとこの展開のスピードアップを図る必要がある。

多段階のプロセスであるエネルギー革新システム

イノベーションシステムについて考えてみると、Global Energy Assessment 2012によれば、研究、開発、実証、市場創造から普及に至る多段階のプロセスであるエネルギーの革新システムは、線形ではなくより複雑なものであるとしている。ここでは技術だけでなく、政府や民間企業等の参加者や情報の流れ、制度、相互作用等も重要であるとの指摘がされている。これを共同作業といった概念で説明しようとの試みもある。いずれにせよ、様々な相互作用、特に社会や制度との双方向の関係が重要ということである。

ここでIEA諸国のRD財政支出をみると、総額では最初のピークは1970代末年ごろにあり、その後このRD支出は下がり、さらに再上昇を始めたのはここ10年くらいである。この間、アメリカでは、The American Recovery and Reinvestment Actが制定された。RDの使途としては、長年原子力が中心だったが、最近再生可能と省エネが伸びている。対GDP比国別支出を見ると、国により差が大きい。フィンランドが最大で0.15%である。RD財政支出全体は伸びているが、このうちエネルギーRDは足踏み状況にある。この中で日本は原発中心だが総額は安定的に推移している。非OECDとの比較をすると、資料・データの制約といった問題はあるが、傾向としてはインドと中国は大きく伸びつつある。これによれば中国は日本の3倍の投資をしている。研究開発の内訳をみると、ここでも大きな違いがみられる。資料が不完全であるが傾向としては、中国は化石燃料が多くインドは原子力が多い。両国とも再生可能と省エネにはあまり向けられていない。またこのRD支出が現実の成果にどう結び付いているのかについてであるが、特許出願数で比較すると、全体としては近年かなり活発になってきている。特に、風力、太陽光、EVやハイブリッド車、エネルギーの貯蔵、CCSなどである。

イノベーションを政策で加速するためにはどうしたらいいかについて、かつてIEAで各国のベスト・プラクティスを集め、そこで政策の企画立案に当たりどういうテーマを追求すべきかなどについて分析・検討したところ、次のようなことが分かった。第一に、エネルギーイノベーション政策が全体としてのエネルギー政策を支えるものでなければならないということである。当たり前のようではあるが、実はこれは必ずしも自明ではない。なぜならば、エネルギー技術をつかさどる省庁は必ずしもエネルギー政策官庁と一緒ではなく、エネルギー面で政策と技術との関連性が十分ではないことも多いからである。第二に、強力な公共部門からの財政支出が必要である。第三に、各主体間のよい連係が必要で、また優れたガバナンスも求められる。これは研究開発の方向性を決めるうえでも必要である。第四に、民間の資金と組み合わさることでさらに有効になる。民間とのパートナーシップである。第五に、モニタリングと評価。多くの国では体系だったモニタリングや評価は行われていない。成果自身の評価や成果と資金の因果関係の評価などであるが、これを体系だった形で行う必要がある。最後は国際協力の必要性であり、特に財政が厳しい中ではその重要性が増す。

市場の特性、技術の成熟度も勘案した政策を

次にどういう政策が必要かについてであるが、単に技術開発を充実すればいいとか、これとは逆に、技術はとりあえず忘れて、例えばCO2に価格をつければ必要な技術開発はあとからついてくるといったような単純な議論ではなく、政策を組み合わせることが必要である。ある技術を採用するためには、様々な障害があることが多く、その適切な解決のためには、市場だけに頼るのではなく、市場の特性も勘案した政策が必要である。また、技術の成熟度によっても政策は異なる。例えば、技術の発展段階が低ければ、研究開発助成が必要であるし、市場における展開の段階では、例えば太陽光などに見られるように安定的で技術に即したインセンティブ(例えばFIT)が必要となる。すなわち、市場における競争力を補完するような政策である。さらに既存技術とのコストの差が小さくなると、グリーン認証等が有効になる。最後により技術が成熟してくると、省エネのように、基準づくり等が有効である。このように絶えず政策枠組は進化させないといけないのである。

また、IEAによる分析によれば、投入資金と技術の浸透との相関関係は全体としては認められるものの、それほど強いものではない。最小限の資金投入は必要だとしても、より多く資金投入をしたからといってより成功するわけではない、ということを示している。太陽光の場合、ギリシャやスペインではほとんど成果は上がっていない一方でドイツでは投入資金の割に成果を挙げている。これはエネルギー市場の設計にかかっている。コスト以外の障害がある場合には許認可の手続き等や電力市場の特性を踏まえた包括的なアプローチが必要となる。単に関心ある技術に資金を入れるだけでは不十分で、様々な市場の障壁の除去などより広く電力市場の改革等も同時に行っていく必要があるのである。

ベスト・プラクティスの果たす役割について、世界でどのような政策が成功しているのかを具体例に即して検討してみると、一貫性のある政策を、柔軟な政策枠組のもとで一定期間継続することが重要であることがわかる。ヒートポンプ技術導入に関するスウエーデンとスイスの成功例があるが、当初は資金を投入し、コストが低下するとともに補助金額を下げ、市場が自律的に拡大するサイクルに乗せるようにした。それによりこの技術がニッチ市場にとどまっていたのを量産市場に導くことができた。同様に、世界中で有名な日本のトップランナー制度もこの好例である。国際協力に参加すると共同発明に導かれるとの分析もある。このように、ベスト・プラクティス政策から学ぶべきことは多い。例えば、明確で安定した一貫性のある政策枠組が投資を引き付けること、できる限り多くの広範な技術をその対象にすべきこと、過渡的な時間がたつにしたがって金額が小さくなるようなインセンティブが有効であること、知識の流れを加速し協働のネットワークを強化すること、適切な国際協力を行うこと、失敗を恐れないことなどである。

供給サイドも重要だが、普及段階のインパクトをみれば、需要サイドへの投資がより重要である。エネルギー政策においてもともすれば供給サイドが投資の中心となる傾向がある。今後100年をみて地球温暖化防止の観点からどのような技術が必要かを見ると、技術ポートフォリオの観点からは省エネが最も重要な技術だろうとの分析がある。現在までどの技術に投資をしてきたのかを見ると、原子力、再生可能、化石が中心だったが今後は省エネにより多くの投資が必要である。

次に技術の普及にどこくらい時間がかかるのかを考えると、石炭火力発電所をベースとしたある分析によれば、まず、小規模の実証が必要である。また、別の研究によれば、需要サイドと供給サイドの学習率を比べてみると、需要サイドの技術の方が供給サイドの技術に比較してより学習率が高いとの結果になっている。一般的に、需要サイドの方が規模も小さく、また技術の寿命も短い、学習率も高く、より迅速に普及が期待できるのである。

日本は何を行うべきであろうかを考えてみたい。まず世界で最も進んだ省エネ社会を実現することを目指すべきであり、そのためにもエネルギー需要構造の一層の改革を行う必要がある。第二に、次世代への分散型エネルギーシステムを実現することであり、供給構造の改革も実現すべきである。第三に、技術革新に沿ってエネルギーミックスの転換と需給構造の変革を行うことである。

今日の結論として以下を強調したい。①クリーンエネルギー技術の開発と普及が世界のエネルギー課題を解決すること、②省エネと再生可能エネルギーが現実的な選択肢であること、③現状では、特に普及面で不十分であること、④適切な技術政策が進歩を加速すること、⑤ベスト・プラクティスから学び政策に反映すべきこと、⑥日本においては現在の政策見直しで分散型のエネルギー技術と省エネにより重要性を与える機会になること、⑦日本は世界のエネルギーRDを引っ張っていく機会があること、⑧アジアはエネルギーの中心になりつつあり、エネルギー革新でも大きな役割を果たしつつあること、⑨日本はアジアと協働することでエネルギー革新を一層進め世界や地域のエネルギーの課題に貢献する機会が高まること。

このような基調講演に対して、パネリストから様々な議論や意見が提示され、活発な議論が行われた。議論は多岐に及ぶが大きな流れと論点を示すと以下のとおりである。

1. エネルギー技術の特殊性
エネルギー技術は3つのEや国のエネルギー政策と切り離せない。一定の不確実性があるにせよ、国としての方針が決まったうえでRDをするような分野である。また、国の政策、安全保障のような必ずしも経済と直接関係しないような分野ですら関係せざるを得ない。
また、エネルギー技術はCO2の排出制約に関する規制とか外部不経済性により推進される側面がある。また、他の製品やサービスと異なり電力はどのように発電しようと同じサービスである。したがって、メリットは外部不経済性を減らしていくということ、つまり地球環境をきれいにしていくということ。ここにしか差異はない。このため、国民の関与が必要となる。ここで需要サイドを見ると、追加的なメリットを付与しより需要サイドを刺激し活発化することになる。逆に供給サイドでただ電力だけを作るという面だけでは差別化は難しい。
長期的な視点からの投資が不可欠であるエネルギー技術は、安全保障にかかわってくるとともに、社会的にシンボリックな意味がある、立地等社会受容が大切である、ハード面のみならずソフトや制度やシステムが重要であるなど、いくつかの特色があげられるが、おそらくここでも単にエネルギー技術といってひとくくりには出来ず、いろいろな多様性があるはずではないかと考えられる。そのためにも市場との関係も含めて類型化が必要である。
2. 技術評価
今後日本の技術政策も変動期に入っていくことになる可能性があるが、このような時にこそ客観的な技術評価をしっかり行うことは、政策・意思決定の前提として極めて重要である。特に、エネルギー技術は多次元的で様々な形で、例えば利便、リスク、あるいは一定の価値などの形で、影響を与える。また、経済、安全保障、環境など多くの分野に影響を与える。これらを可視化して最終的な政策判断の前提材料を作ることが大事である。最終的な判断としては、一定の多様性が必要で、このポートフォリオを幅をもって考えるということが求められる。その幅を考えるうえでの前提としてその多様なインプリケーションをしっかり評価しておくことは重要である。まず情報を整理して評価し、議論を喚起して、冷静に戦略を決めるというプロセスである。またこの評価をする場合に、一定の「距離」をとっておくことも重要である。日本の場合、最終的な戦略決定と前提となる資料・情報整理やこのような評価がある意味で近いとことで行われてきた傾向があるが、幅を広げて考えるためにはちゃんと距離をとっておくということが重要である。
3. エネルギーと科学技術、課題の構造化
技術を考える際には、科学技術の原理原則を踏まえることは当然である。エネルギー技術についてはこれに加えてエネルギーの原理原則を踏まえることも重要である。新しい技術を導入するときには、それによって人間の生活や国際社会等がどう変わるのかなどを予測するツールの開発も必要である。 またプライオリティづけを通じて課題の構造化を行うことで社会からの要請に応えようとしているとの視点も重要である。
また、一定の構造に従って、指標化し、それに基づいて議論しないと合意形成もできない。科学者は一つ一つの指標について言えば、かなり定量的に合意を図ることができると思っている。この個々の指標についてどのような重要性を付与するかは政治の役割で、研究者ができることはこの個々の指標を精緻化しようということであり、例えば、省エネについては、さまざまな物質の界面に関する基礎科学が重要になる。それによって理論的性能とか効率性が図られる。また現在エネルギーの運搬装置として水素が注目されているが、水素以外にもアンモニアとか有機ハイドライトもある。さらに熱エネルギーの有効利用についても現在は民生用、輸送用において燃やしているだけなので非効率であり、単に燃やさないような技術を体系的に作るべきである。
4. エネルギーイノベーション−技術の特色と市場の構造
新しいエネルギーシステムへの移行は社会技術的な移行でもあることから、技術を考える際には社会的側面も考慮に入れなければならない。それは、技術をそれだけで考えるのではなく、幅広い、長期的な視点・文脈で考えるべきということでもある。また、一般的なことであるが、エネルギー分野でのイノベーションをイノベーションとエネルギー全体とそれぞれの視点で考えてみて、技術の特色と市場の構造に応じて類型化してみるという作業も大事である。
5. 政策のあり方
エネルギー技術についても戦略が重要であることはいうまでもない。様々な場でエネルギーを議論すること自身評価を多次元的にしっかり行うということであり望ましい。エネルギーの指標を作成して行くことで、可視化し評価するツールとして重要になる。それを意思決定・政策決定の前に行うことが重要である。またそういう空間・場をきちんと作り維持することも必要である。また、このラウンドテーブルもそういう趣旨だが関係者間専門家間でネットワークを作ることが重要である。さらに人材についても、技術からはいる者、政策からはいる者等をうまくつないでいくなど関係者間のリテラシーをどのように作っていくかも重要な課題である。
政策面では、イノベーションにつなげるためには、直接、間接を含め、予算措置だけだと政策としては十分ではなく、規制緩和、税制、知的財産権保護等とも組み合わせる必要がある。例えば、90年代に今注目を浴びている分散電源はほとんど発明されていたのだが、導入されなかったのは電力市場が開かれていなかったからである。またエネルギー政策をそれ自身だけで検討するのではなく、産業政策の視点も重要。すべて市場に任せればすべてうまくいくということではなく、このような反省からUKでは産業政策は復活しつつある。
また、政策にプライオリティをつけないといけない。これは個々の国、特に小国ではよくあてはまるが、グローバルにみてもその通りで、その技術に競争優位性があるのかをよく吟味すべきである。
6. プレーヤーの役割や司令塔の必要性
フェーズごとに政府や研究機関、大学や民間企業等や相互関係などのアクターも変わってくる。この点はエネルギーの技術によっても異なる可能性もある。例えば天然ガスタービンやハイブリッド自動車などは政策の支援というよりも民間主導で普及が促進されたという面が強いとの分析もある。そう考えると、イノベーション政策は必ずしも一律ではなく、こういう多様性も考えてみる必要がある。
現実に見えている製品や技術、イノベーションの成果の下には膨大な科学としての知識の集積があり、ここをうまくつないでいかなければならない。この役割を担うのが司令塔としての政府なのだが、現実はいろいろ分断があり繋がっていない。現在はこのような分断状態の中でRDが行われており、この状況を早急に改善する必要がある。
7. トランジショナル・マネージメント
エネルギーは既存システムがある中に新しいものを入れるということである。現場での応用とマクロの制度設計のバランスが重要になる。その際、エネルギーは環境にかかわるのは当然として、特に分散型システムだとそうだが、多分野の政策イシューとどうかかわるということを念頭に置く必要がある。例えば、社会医療とエネルギーとの関係を考えると、場の問題としてはエネルギーではなく都市の問題とか住宅のあり方により深くかかわってくる。そのような課題の検討にはエネルギーの専門家だけではなく、多分野の専門家を非公式にも巻き込んでいくことが重要であり、そういう場を作ることが求められる。
8. エネルギー安全保障と技術
シェール革命は米国や世界にとってエネルギーのみならず経済面でも大きな影響をもたらす。米国の貿易収支赤字の6割は石油ガス輸入でこれが軽減されると同時に米国内の雇用も拡大する。ガスは安くエネルギーのみならず原料としても石油化学産業の競争力を増す。事実メキシコのマキラドーラからGE等が白物家電工場を米国に戻している。米の国際競争力は強くなる。日本はこれを考えてエネルギーミックスを検討すべきである。これまで経済面では、ともすれば中国にどう対抗するかが大きな議論であったが、これからは米国とどのように競争するかも検討されるべきである。