国際シンポジウム『食品安全規格の国際調和とその課題—コーデックス委員会の役割』
会議開催報告
2014年11月8日(土)、東京大学本郷キャンパス小柴ホールにて、『食品安全規格の国際調和とその課題—コーデックス委員会の役割』と題した国際シンポジウムを開催した。
(会議のプログラム、および当日の配布資料はイベント概要ページをご覧ください)
本シンポジウムは、国際的な食品規格策定の場であるコーデックスの認知度を上げるとともに、日本にとってのコーデックスの意義に関して広く一般に周知することを目的として開催した。
その背景には、食品がグローバルに流通し、輸入に依存する日本にとって、国内の管理体制やアプローチが国際的にも整合性をもつことは重要であり、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)のような地域レベルでの展開、及び二国間での交渉等、様々な動きが活発化するなかで、WTO(世界貿易機関)のSPS協定(衛生植物検疫措置の適用に関する協定)において食品安全に関する国際規格と定められたコーデックス規格の重要性が高まっているものの、その内容、作成過程について、広く認識されているとは言い難い現状がある。
シンポジウムでは、実際にコーデックスの現場において活躍する、コーデックス事務局のアンナマリア・ブルーノ氏や、本年コーデックス副議長に日本から選出された辻山弥生氏、アジア地域調整部会の議長を担ったタイのピサン・ポンサビッチ氏の基調講演とともに、食品添加物や微生物リスクを取り扱うコーデックスの個別部会参加者(農林水産省の阪本和広氏、山口大学豊福肇氏)から、最新のコーデックスにおける活動やその課題の現状についての講演が行われた。続くパネルディスカッションは、すべての登壇者がパネリストとして参加し、東京大学松尾真紀子の進行により行われた。
まず、基調講演では、コーデックス事務局のアンナマリア氏より「Codex Alimentarius Commission(Codexとは)」と題する講演が行われた。コーデックスの基本的な概要を踏まえたうえで、現在コーデックスで問題となっている問題や、将来的なコーデックスにおける課題(規格策定における課題や、科学的アドバイスのあり方等)、そして今後の活動における成功への鍵について論じていただいた。
次に、農林水産省調査官・コーデックス副議長の辻山弥生氏より「国際貿易交渉とコーデックス」と題する講演が行われた。国際貿易交渉の文脈の中でのコーデックス規格の位置づけについて、WTO/SPS協定やWTO/TBT協定との関連で措置の調和において果たす役割とその重要性について詳しく解説していただいた。
基調講演の最後には、タイの農業・協同組合省、農業コモディティおよび食品規格基準局執行委員会副長官のピサン氏より「Thailand Experience on Codex Standards Setting and Standards Implementation(タイにおけるコーデックス規格策定及び規格実施の経験)」と題する講演が行われた。まずタイにおける食品規格の沿革や現状についてご紹介いただき、そのうえで国内でのコーデックス対応の形成プロセス、コーデックス規格との調和等についてご紹介いただいた。
各部会報告では、農林水産省消費・安全局消費・安全政策課の阪本和広氏より「コーデックス食品添加物部会(CCFA)の動向」と題した報告が行われた。CCFAへの付託事項を踏まえたうえで、現在のCCFAでの現在の主要議題、食品添加物に関する一般規格(GSFA)を作ることになったきっかけやその特徴、日本のコーデックス規格策定への参加状況を中心にご報告いただいた。
最後に、山口大学共同獣医学部の豊福肇氏より「コーデックス食品衛生部会(CCFH)の動向」と題した報告が行われた。CCFHの概要を踏まえた上で、現在のCCFHでの主要議題について、具体的なトピック(水分含量が低い食品の衛生実施規範や牛肉・豚肉のサルモネラをコントロールするガイドラインの背景・目的、寄生虫のコントロールに食品衛生の一般原則を適用するためのガイドライン)をご紹介いただくとともに、日本の規格策定への参加状況についてご報告いただいた。
続くパネルディスカッションでは、それぞれの講演を踏まえたうえでの講演者間での意見交換が行われ、例えば、規格策定において不可欠となる科学的データを業界等からいかにして収集するかについての議論や、コーデックス基準を食品安全に係る国際基準として参照するWTOではコンセンサスの意味や効力が異なるのか、コーデックスにおける留保はいかなる意味をもつのか、といったことが論じられた。その後、2つのテーマに沿った議論が行われた。まず、いかにして国内意見を集約しコーデックス規格に反映するかというテーマの議論では、基調講演におけるタイのコーデックス対応を受けて、日本では、コーデックス連絡協議会を通じて業界や消費者団体等と国内外の動向を含めて情報を共有していると、日本における対応が紹介された。また、コーデックス対応の課題としては、まず規格策定のベースとなる科学的専門的データの収集・作成、さらにはそうした科学的知見を踏まえて国際的にも展開できる人材育成が課題となっていることが指摘された。人材育成上の課題として語学力の向上が挙げられ、また、コミュニケーションの障壁を取り除く手段としてIT技術の使用についても指摘があった。
国際レベルでの調和の前提となる国際連携における課題というテーマの議論では、他の国際機関との調和が重要であり、例えば、国際獣疫事務局(OIE)、国際植物保護条約(IPPC)や分析方法では国際標準化機構(ISO)との関係が重要であり、国際機関間の整合性を高めるための協調・協力関係の動きが進展していることが指摘された。また、コーデックスでも特に分野横断的な課題に関しては、部会横断的な対処が必要性であるとともに、効率的な作業の実現に向けてのメカニズムを考えることが重要との議論が行われた。
また時間を延長して、会場からの質疑応答も行われた。例えば、コーデックス委員会においてリスクコミュニケーションの対応を誰が行っているのかという質問があり、それに対しては、表示を担当しているCCFLが最も関係するものの現在直接対応する部会はないため、事務局が中心となって戦略を策定しているという現状が紹介された。その他にも多くの質問や意見があがり、活発な議論が行われた。
当日は、130名(産業界、消費者団体、一般消費者、学識経験者、学生等)の参加者があった。