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SSUフォーラム: エヴリン・ゴー教授

日時: 2014年3月26日(水)10:30-12:00
場所: 東京大学伊藤国際学術センター3階 中教室
題目: “Japan in the East Asian Order Transition”
講演者: エヴリン・ゴー教授(オーストラリア国立大学国際政治戦略学部)
言語: 英語

2014年3月26日の第6回SSUフォーラムは、オーストラリア国立大学国際政治戦略学部からエヴリン・ゴー教授を招いて行われた。フォーラムの司会を務めた藤原帰一教授は、ゴー教授の最新の著作であるThe Struggle for Order: Hegemony, Hierarchy, and Transition in Post-Cold War Eraの紹介を行った。

藤原教授は、東アジア国際政治の分析に対して新鮮な視点を提供するゴー教授の研究を紹介した。上記の著作についても、その革新的な理論アプローチに加え、複雑な東アジアの政治情勢を包括的かつ詳細に描写する著者の能力の高さを強調した。

ゴー教授は、まず司会者による紹介、およびこのSSUフォーラムに招かれたことに対する感謝の意を表明した。ゴー教授の研究の主たる目的は、米国や米国研究の影響を強く受けている学術界において論争を支配している「伝統的な」理論枠組みから離れた東アジア政治の動態に対する新しい説明方法を見出すことにある。上記の著作は、伝統的な理論的立場の実証的検証としては構成されてはおらず、むしろ異なる関心領域の説明から、帰納的により包括的な理論モデルを構築する試みを行っている。

実際、国際関係の理論は、特に東アジアにおいて、優雅であるが単純な理論の生産・再生産に偏りがちである。それは、過度な単純化の危険性をはらんでいるという不幸な欠点がある。他方、それに代わる説明においては、現実はより「雑然」としているという印象を与える。過度な単純化のアプローチは、複雑な動向や傾向を説明する単純化された用語(パワーシフト、リバランシングなど)の普及やそれに対応する説明の増加を伴う。

ゴー教授は、現在の東アジアを特徴づける三つの要素を提示した。1)変わりつつあるが継続している覇権国としての米国の役割。(この文脈における覇権の定義はリアリストによって用いられる定義とは異なり以下で詳述される)2)ますます地位を向上させている中国。この地域に対する中国の影響力はしばしば主張される程大きくないが、将来中国が有すると予期される影響力を想起することにより、実際以上に強大なイメージを生み出してしまう。3)通常の権力政治理論(交渉、バンドワゴンなど)に反するような行動をとっている中小国の役割。

ゴー教授の著作は、この地域の複雑性に注意を払っている。具体的には、以下の四つの視点を検討している。a)地域制度を権力政治に対抗するものとしてではなく、補完的なチャネルとして捉える。東アジアの文脈においては、制度は中国の社会化に寄与していると主張される。一方、ゴー教授は、米国の継続的関与とプレゼンスを示す重要な装置であるともみなしている。b)これまで地域主義は実質的に反米的姿勢であるとして描かれてきた。だが、緊張した日中関係に見られるように、多くの要因が東南アジア諸国をより深く機能的な地域統合へと進めるのを妨げている。地域の政治構造に対する反発力がここにある。c)特に安全保障において、国際社会のために公共財を提供することは大国の役割の一つである。米国は、地域や世界において、伝統的に安全保障の提供者であった。米国はその負担の一部を同盟国に任せようと試みているが、米国のプレゼンスと米国の提供する安全保障に対する地域諸国の要求は依然として高い。中国によるこのような公共財の提供は限定的である。中国は、北朝鮮を抑制せず、南シナ海の緊張も高めている。d)この不安定な東アジアの地域秩序の枠組みには限界がある。東アジアの動態を正確に理解するためには少なくともより広範なアジア太平洋の国際関係システムを観察する必要がある。 ゴー教授が提示する新たな理論枠組みは、以下の三つのテーマに基づいている。1)覇権概念を野蛮な力の行使や強制と結びつけることをやめ、多くの覇権的影響力に同意性が内在していることに再注目する必要がある。特に米国の覇権に対しては、この覇権が行使され、永続化されることへの積極的要望が存在する。2)東アジアでは、多くの学者が予期する恐ろしい「権力移行」ではなく、「秩序移行」が起こる。「秩序」は社会的規約に沿って概念化される。アクターはある大国の合意に基づく覇権から別の大国によって提供される覇権に移転することができる。3)東アジア秩序は二つの面で階層的である。米国によって提供される地域覇権がある一方、中国、日本、インド、韓国、ASEANといった様々な地域アクター間で異なる権威が存在する。

結論として、ゴー教授は東アジア政治を、特に冷戦期の説明を放棄し、別の方法で検討する必要があることを強調した。東アジアの将来において二つの課題がより鮮明に現れるだろう。一つは、米国の戦略的優越が小さくなるなかで、どのように米国による地域秩序を延長することができるかである。もう一つは、他の国々が受容できる範囲内で地域秩序を変更しながら、どのように中国をその地域秩序に取り込んでいくかである。