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安全保障研究ユニット(SSU)について

東京大学政策ビジョン研究センターの安全保障研究ユニット(SSU)では、東アジアの安全保障とその機構化の試みの将来、経済的相互依存関係が安全保障に与える影響や、核不拡散問題、新しい安全保障概念とその政治過程の検討などの問題意識に基づき、日米の各種財団の支援を受け、理論と政策提言双方にわたる国際的な共同研究と、相互理解の増進のための活動、内外への発信活動を進めてきました。母体である東京大学政策ビジョン研究センターは、大学におけるシンクタンクを設立するという目的に沿って2008年に設立された研究機関であり、各分野の政策に関し、プログラム単位で寄付金等を受け入れて研究・発信活動を展開する、国立大学である東京大学としては異色の機関です。

SSUでは、国際的な研究者グループの組織・運営や、数々の国際シンポジウムを開催してきた実績があるほか、官民さまざまな経歴を持つ研究者、非常勤研究員、専門職員も充実しており、それが大学の持つ不偏不党の自由な言論空間とも相まって、活力ある調査研究・政策提言活動を生んでいると自負しております。

SSUはこれまで、経済と安全保障の関わりの解明、北東アジア安全保障構造の検討、日米同盟の深化と多国間安全保障協力の模索、核不拡散の進展への努力、新しい安全保障概念の検討、と大別して5分野に跨る国際的共同研究と国際会議を行い、一般公開・非公開を問わず多様な発信活動を行ってきました。

プロジェクト

これまでSSUではさまざまなプロジェクトを遂行してまいりました。ここでは過去および現在進行中のプロジェクトをご紹介します。

国際社会におけるリスクの多様化と安全保障・外交の新次元

パワートランジションや科学技術の進展の下で、国際社会のリスクが多様化する21世紀においては、「リスク・アプローチ」の視点も取り入れた新しい安全保障のあり方が求められております。本プロジェクトでは、宇宙、核問題、サイバーという、具体的な分野および分野間相互作用に関する分析を通して、新たな次元における幅広い安全保障・外交課題への包括的な対応策を提言するとともに、国際的かつ分野横断的なネットワークの構築を行うことを目指します。なお本事業は、外務省の外交・安全保障調査研究事業費補助金(総合事業)を受けて2015年度より開始しております。
(詳細はこちらからご覧ください。)

マッカーサー・プロジェクト

経済と安全保障の関わりの解明、及び北東アジア安全保障構造の検討、双方の軸に関わる活動として、マッカーサー財団の助成を受け、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校国際紛争研究センター及び韓国延世大学国際学大学院との間で行った共同研究があります。当該事業では、2009年から2011年にかけてこの2つのテーマでの国際合同研究を実施し、東京では2009年と2010年の2回にわたる国際ワークショップを主催したほか、2010年8月には“The Role of Diplomacy in Northeast Asian Security”と題した各国若手実務家へのトレーニング・セッションも企画・実施しました。このトレーニング・セッションでは、30代を中心としたアジア各国やアメリカの各省庁の若手中堅官僚、大使館員、研究者らに、自国とは異なる他国の立場に立ったロールプレイによる議論を行ってもらい、参加者からもオブザーバーからも新しい試みとして高い評価を受けました。

また、2010年秋には、日本、韓国、中国において多くの政治家や、官庁・シンクタンク・主要メディア等から実務家を招待し、研究成果を共有して話し合う一連のクローズドの懇談会、”Future of Asian Security” ロードショーを行いました。そのうちの日本における開催のものは、2010年11月日本国際問題研究所と共催する形で開催した二回にわたる懇談会があります。そこにおいては、合同研究の結果と政策提言を主要政党の国会議員や行政官ほかの政策実務家の方々に提供し、活発な討論が行われました。最終的な研究成果たる英文の報告書は、2012年12月に米国Routledge出版社より、The Economy-Security Nexus in Northeast Asiaと題して刊行されています(米国側共同研究者、T. J. Pempel教授が編者として編纂されました)。

五大学連合プロジェクト

五大学連合プロジェクト(“Five University Network”)とは、東京大学、米国プリンストン大学ウッドロー・ウィルソン・スクール(WWS)、中国北京大学、韓国高麗大学、シンガポール国立大学リー・クアン・ユー公共政策大学院による大学連合です。東京大学は2006年に米・プリンストン大学ウッドロー・ウィルソン・スクールとの国際ワークショップを共催したことを契機に、五大学連合の国際共同研究をともに発展させてきました。SSUは、東京大学公共政策大学院から引き継ぐ形で、2011年以後、研究連携活動の中心を担ってきました。

五大学連合の趣旨は東アジアの安全保障環境を改善し、平和と繁栄に向けた国際的な学術・政策研究の連携を高めることにあります。東京大学側のリーダーは、SSUユニット長である藤原帰一教授が務めています。

SSUは、2011年次の国際会議の主催者として、12月に“The Future of Security and Governance in East Asia” と題した大規模な国際ワークショップと大学院生交流のためのワークショップを開催し、同時に東日本大震災時における国際協力を振り返ることを目的とし、一般からの参加を募ったパブリック・フォーラム、“Disaster Relief and International Cooperation”を企画し、政府関係者・国会議員を登壇者として迎えて英語で議論を行い、内外の参加者から高い評価を受けました。

海洋安全保障プロジェクト

海洋安全保障分野においては、「海洋基本計画」の見直しに関する2012年の東京大学提言の安全保障部分執筆などの活動を行ったほか、2013年2月には内外の研究者・実務家を招いて、主に中国の台頭と海洋進出、尖閣諸島周辺海域での緊張をめぐる対応について論じる国際会議、“Power Transition and Maritime Security”—中印の台頭・海洋進出とアジアの多国間協調の行方—を開催し、海洋安全保障上の国際協力から経済協力、権力移行論にいたるまでの幅広いテーマで今日の海洋安全保障問題を論じました(報告書はこちら)。

また2013年8月には2月の会議のフォローアップとして、漁業協定から考察する東シナ海の平和と安定への可能性をテーマに、漁業協定や資源の共同管理などの枠組みを活用した一種の解決策(妥協点)を見出し、当地域における一定の平和と安定に向けてこれらの仕組みを活用できないのかという考えのもとでワークショップを開催しました(報告書はこちら)。

これらの海洋安全保障についての会議では、官庁とシンクタンクや大学、行政学と外交・安全保障分野の国際政治、外交安全保障と経済分野、といった分野横断的な参加者構成が好評であり、今後もこうした取り組みを重ねていくことを確認しました。

広島プロセス・プロジェクト

SSUは核不拡散の進展への努力にも取り組んできました。ユニット長の藤原帰一教授を中心に国際的な広島県プロジェクトの国際会議への主導的な貢献というかたちで、明石康元国連事務次長や緒方貞子元国連難民高等弁務官・前JICA総裁、ウィリアム・ペリー米元国防長官や、ギャレス・エバンス豪州元外相らをはじめとする識者が参加している平和貢献構想についての活動を進めきました。これは、日本の被爆国であり非核保有国としての立場から長年続けられてきた核不拡散・軍縮に向けた官民の国際的な発信と努力のうえに、今後何ができるかを話し合うための場であり、米国プリンストン大学のG・ジョン・アイケンベリー教授とともに「広島プロセス」と名付けたイニシャティブをとってきました。

新しい安全保障プロジェクト

「新しい安全保障プロジェクト」は2006年より小宮山宏・前東京大学総長のイニシャティブのもとで発足した世界研究型大学連合(International Alliance for Research Universities:オーストラリア国立大学、オックスフォード大学、ケンブリッジ大学、イェール大学、カリフォルニア大学バークレー校、コペンハーゲン大学、スイス連邦工科大学、シンガポール国立大学、北京大学、東京大学の10校からなる)のなかで企画立案され、ケンブリッジ大学・オーストラリア国立大学・東京大学がとりまとめ校の役割を果たしてきました。SSUユニット長の藤原帰一教授は、プロジェクトリーダーの一人として、安全保障概念の拡大とリスク選択・回避に関わる分析を主な課題として研究・国際連携活動を進めてきました。

この流れおよび東日本大震災の経験を踏まえ、こうした新しい安全保障概念についてはさらに検討を進める必要があると考え、2012年度から政策ビジョン研究センターにおいてもリスクとその管理をめぐる政治をテーマに研究プロジェクトを始動させています。安全保障の対象の広がりが政策過程をどのように変えて行くのか、国内政治と国際政治の接点に着目しながら考察を進めており、本センターの複合リスク研究ユニット等と連携しつつ研究活動を進めています。

東アジア国際政治の総合研究プロジェクト

SSUでは、これまで上述のように並行して進めてきた研究テーマが外交・安全保障という領域、および東アジア地域においてどのように絡み合い、またそうした複合的な課題が実務的にはどのようなインプリケーションをもたらすのか、という問いに着目し、外交・安全保障調査研究事業費補助金および国際交流基金日米センター助成金(助成先:日米同盟アジェンダネットワーク、研究代表:藤原帰一教授)を活用し、以下の主要な2テーマに基づく国際共同研究・連携活動をスタートさせました。すなわち、(I)権力移行問題と日米同盟の深化に対する政治経済分野融合的な検討、および(II)緊張緩和と軍縮をつなげる視角における調査研究・国際連携活動、です。

(I)のテーマにおいては、日米関係や日米韓の三国間関係が軸となっていたマッカーサー・プロジェクトから五大学連合の東アジアを対象とした多国間協力の枠組みが包摂され、内政と外交、経済と安全保障の関わりをともに現在の東アジアという地域において捉えて現状を分析し、提言に繋げることを目指しました。

(II)のテーマにおいては、日本の強みを生かして東アジア地域のみならず世界において平和創造の役割を果たすための具体的なビジョンや方策を提言することを目指しました。(詳しくは、東アジア国際政治の総合研究プロジェクトの紹介ページに記載しております。)

現在もこれらのテーマについては継続して研究を進めております。