SSUフォーラム: 近藤誠一特任教授
日時: | 2014年4月16日(木)17:00-18:30 |
---|---|
場所: | 東京大学伊藤国際学術センター 3階 |
題目: | “Perception is reality Its Advantages and Disadvantages in Conducting Foreign Policy” |
講演者: | 近藤誠一特任教授(東京大学政策ビジョン研究センター) |
言語: | 英語 |
第7回SSUフォーラムでは、近藤誠一教授によって、“Perception is reality Its Advantages and Disadvantages in Conducting Foreign Policy”と題した講演が行われた。近藤教授は、2014年より政策ビジョン研究センター(PARI)の特任教授に就任している。以前は、外務省で大使を歴任し、文化庁長官も務めている。教授の関心は、外交活動における文化の役割と文化的に醸成された認識の影響にある。
藤原帰一安全保障研究ユニット長は、近藤教授のこれまでの実務での功績と外交活動に関する我々の理解増進に対する貢献を挙げて紹介を行った。
近藤教授は、まず伝統的な政府間以外の多様な外交チャネルが生れることにより、外交活動が変容していることについて言及した。今日の外交は、政府が他国の世論に直接訴えかける民間外交や民間主体が他国の政府や国民に対する外交活動を伴うものである。近藤教授は、国益の画定の難しさと、政府が適切な外交政策を形成することにより国益を守る必要があることに焦点を当てた。国益の画定とその保護は、政府、有識者、世論が持つ国の位置付けやその軌跡に対する認識に基づいて行われる。国際紛争において行われる他国との合意は、両国の国益が重なる領域において行われることになる。しかし、この領域の決定は両国の人々の認識に基づいているため、しばしば実際の重なりと異なるものになりがちであり、最適でない政策決定を採用することにつながる。
以上のように、認識と認識の階層化によって生み出される文化イメージは、外交活動において重要な役割を果たしている。近藤教授は、ワシントンの米国大使館において実務家として経験した1995年の日本の自動車輸入に関する日米貿易摩擦を例にあげて、以上の説明に説得力を加えた。この摩擦は、米国自動車メーカーが日本市場に対して公平なアクセスを有していないのに対し、日本メーカーが米国自動車市場におけるシェアを伸ばしていることに対する脅威認識から発展することになった。この認識は、日本に対する、「極端に保守的であり、閉鎖的で変化を嫌う国である」というステレオタイプなイメージによって構築されたものである。この認識は、日本の自動車市場に関するデータに対応したものではなかったが、米国通商代表部(USTR)のミッキー・カーターは以上のような認識に基づいてこの問題に対する米国の立場を確立した。外交交渉が進むにつれて、多くの米国の主張は必ずしも裏付けがあるものではないと明らかになった。しかし、自動車貿易に関する合意が、日本の立場を守るものに決着すると、米国の新聞報道は、レトリックの操作によって世論に米国が勝利したかのようなイメージを受け取らせた。
最後に、近藤教授は、偏見やステレオタイプの固執性にも関わらず、時の経過によって認識が変化していく可能性について説明した。ある国に対して、これまでに確立されたイメージに反する正確な情報が提供されたとしても、それはあまり重大な変化を及ぼさないだろう。なぜなら、社会心理学の議論が示すように、人々は既存の認識に合わない情報は捨て去る傾向にあるからである。長期に亘り望ましい行為を積み重ねることによって、その国に対する認識を変化させ偏見を克服することができる。近藤教授は、残念なことに多くの国の世論が未だ有している日本に対する否定的イメージを漸進的に取り除くためにも、日本が長期に亘って望ましい行為を行い続けることで国際イメージを向上させていくことに集中して取り組むことが重要であると述べた。
-
東京大学政策ビジョン研究センター 特任教授